後日談 前編
ジュリアンとクラリスの戴冠式はジダルク王国を上げて盛大に行われた。
クラリスは白いドレスを身にまとい、教会の大聖堂の中をジュリアンと腕を組んで一歩一歩前に歩み出す。
歩きながらクラリスはジュリアンに小声で話しかけた。
「見栄にお金を使う国はダメなんじゃなかったの?」
「これは見栄かい? 戴冠式は国の一代行事。多少の出費は致し方ないさ。それに。。君の母国だったエルドラストからたくさんの金が手に入ったからね」
それを言われると苦笑いするしかないクラリスだった。
そして戴冠式が開始され、大司教の手によって王冠がクラリスの頭に置かれた。
「重くないか?」
「うん、大丈夫」
ジュリアンが聞いたのは当然王冠の重さの事である。
それは大丈夫なのだが、王妃としての責任の重さをクラリスは痛感していた。
晴れてジダルク王国の王妃となったクラリス。
現国王はまだ在任中のため、ジュリアンが国王となるのはもう少し先になるが、後継者の正統性を強化し、国王死去時の混乱を防ぐために将来を見据えて戴冠式をおこなったのだ。
その時、母を思い出す。
母は側室という事で王妃であっても戴冠式など取り行ってもらえなかった。
私だけこんな風にしてもらっていいのだろうか?
幸せ過ぎる。。それが不安でもあった。
クラリスは民衆に目を向ける。
この中には病気や貧しさで困っている人たちがたくさんいるはず。。
少しでもその人たちが住みやすい国に出来たら。
すべての人たちを救うのは無理だ。
自分に出来るのは手の届く範囲の人たちだけ。
それで何かが変われば流れも変わってくるのでは。。
そう考えていた。
その時、クラリスは民衆の中から自分に殺気を向ける視線に気がついた。
だが、何千人もの中からその視線が誰から向けられているのか特定出来ない。
気のせいかもしれない。。
そう思い、何もなかったようにその場から立ち去った
民衆に手を振るクラリスはまるで天使のようであったと後世の歴史書に書き残されている。
ジダルク王国の民衆が待ち望んでいた民衆のために動いてくれる王妃の誕生であった。
「ジャクリーヌ王妃とミレイユ様の命を奪っておいて自分だけ英雄気取りとはいい身分だな。。かならずお前の命を奪いに行くから待っていろ」
民衆の中からクラリスに殺気を放った男はそう言うと姿を消した。
☆☆☆
彼の名はセドリック。
元ミレイユ付き警備隊隊長であった。
忠誠心の強い騎士道精神の塊のような性格で、ミレイユに絶対の忠誠を誓っていた。
ミレイユこそが仕えるべき主。
その主を処刑された恨みからクラリス殺害とジダルク王国に対する復讐を決意し、生き残りのエルドラスト兵士たちおよそ百人を集めて反乱を目論んでいた。
「クラリス、あの世でミレイユ様に詫びをいれる機会を与えてやる。お前は祖国を裏切りエルドラストを滅亡させた元凶。許すわけにはいかぬ」
ジダルク王国は今、戴冠式直後で戦争も終結した事から軍が解体されていてすぐに体制を整える事が出来ず、今なら十分に撃破出来る。
セドリックは部下たちを連れてクラリスの住む宮殿への奇襲を開始した。
戴冠式も終わり、祭典関係はようやく一段落したが、クラリスの繁忙の日々は変わらない。
この国の将来の王妃として内政や外交に尽力しなければならないのだ。
クラリスは戴冠式の時に感じた視線が気になっていた。
幼少から常に人の目を気にして生きてきた彼女だから、あれは自分に向けられた殺意の目だとすぐに気がついた。
「私に恨みを持つ者がいるとすればエルドラストの生き残り貴族か兵士。。」
ジュリアンかヴィクトワールに相談するべきかどうかクラリスは悩んでいた。
まだ確定したわけじゃない。
自分の勘違いかもしれない。
だが、その不安は現実のものとなるのだった。
☆☆☆
「敵襲です! およそ百人ほどの集団が宮殿に迫って来ています」
宮殿警護兵の声が鳴り響き、ジュリアンがすぐに対応する。
「敵襲? この宮殿を狙うとは一体何者だ?」
「盗賊ではなさそうです。まるで軍隊のように規律されている動きをしています」
ジュリアンは宮殿警護兵を総動員して城門の防備を固める。
クラリスは戴冠式の時に感じた嫌な予感がよぎり、城門から敵の姿を確認した。
「あれはセドリックとエルドラストの兵士」
セドリックの顔を確認してクラリスは殺気の視線の正体を知ると同時に自分を狙って来たという事がわかった。
〔あの視線、忘れようがない。。〕
セドリックはエルドラスト軍の生き残り兵百人を引き連れてジダルク王国の宮殿に攻め込んできた。
数は大した事がないが、一騎当千の精鋭である。
「一体何者なんだ?」
ジュリアンの情報網にも彼の存在は出て来なかった。エルドラストの中でも特殊な存在であったと推測される
「彼はミレイユの専属警備隊隊長セドリック。ミレイユとジャクリーヌ王妃が処刑されたのを私のせいだと思っているのね」
「専属警備隊。。そんなものが存在していたのか。僕の情報収集不足だ」
「仕方がないわ。専属警備隊はジャクリーヌ王妃が創設したミレイユのためだけの警備兵。その存在自体、王族以外には知られていなかったから」
「クラリス、出て来い! エルドラストを売り渡した売国奴。この手で葬り去ってやる」
セドリックの怒号がクラリスに向けられた。
これが傍若無人で何をするかわからないような人物なら迂闊に誘いに乗らないだろう。
だが、セドリックはそうではない事をクラリスは知っている。
「ジュリアン、彼は私との話を希望している。私が逃げたらまた同じ事が起きる。だからここで終わらせる」
「危険だ。相手は百人もの兵士を連れて武器も持っているんだぞ」
「絶対に大丈夫とは言えないけど、彼は話の通じない人間じゃないから」
「クラリス様、危険です」
メイドのセリーヌが心配するが、クラリスは大丈夫よ、と声をかけて宮殿の外に出る。
ジュリアンはクラリスの固い決意に押され、充分に護衛をつける条件で認めた。
クラリスのまわりを二十人の宮殿警護兵が取り囲み、城門を開いて外に出た。
クラリスの王妃としての資質が試される事となった。




