最終回 新しい時代
ジャクリーヌとミレイユは捕縛され、別々の地下牢に入れられた。
翌日、2人は手枷をはめられた状態でジュリアンの前に連れ出された。
ジャクリーヌは自分たちが釈放されるものだと思っていたが、衝撃の事を伝えられる事となる。
ジャクリーヌは釈放されるつもりでいるので悠然とジュリアンを睨みつけている。
「早くこの手枷を外しなさい。私たちを誰だと思っているのじゃ? 我が国とジダルク王国は政略結婚で友好を結んだのですよ」
ジャクリーヌがそう言うとジュリアンは持っていた筆をトン! と強く机に叩きつけて立ち上がる。
「何か勘違いされているようだが。。お前たちをここに呼んだのはエルドラスト王国に対して宣戦布告を伝えるためだ」
「宣戦布告ですって?」
「どういう事?」
ジャクリーヌとミレイユは意味がわからず声を上げた。
「言ったままの意味だ。宣戦布告してこれより進撃を開始する」
「そんな。。何のための政略結婚なのよ」
ミレイユの問いにジュリアンは冷徹に答える。
「お前たちの大罪は2つ。一つは他国の王妃を暗殺しようとした暗殺未遂の罪。もう一つは身代わりの王女を送ってきた詐欺容疑だ」
「あんたは狂ってる。政略結婚したのにエルドラストに攻め込むなんて他国が黙って見ていると思うの?」
今度はジャクリーヌがジュリアンに反論するが、ジュリアンは眉ひとつ動かさず言葉を続ける。
「誓約書には確かに王女を嫁がせるとしか書いていない。しかし世間一般が思うエルドラストの王女とは王位継承権のあるミレイユだろう。お前たちはその誓約書を勝手な解釈に当てはめてクラリスを身代わりに立てた。これは相手国に礼儀をかく欺瞞になる」
「それは。。あなたが王位継承二位だったと聞いたからよ。王位継承権のあるミレイユが二位のあなたと婚約するわけにはいかないから、代わりにもう1人の王女であるクラリスに行ってもらった。これはクラリスも了承したことなのよ」
ジャクリーヌが必死に弁明するが、ジュリアンは一切聞く耳を持たぬと言う姿勢で2人を見下ろすように睨みつける。
「クラリスの立場からすれば了承する以外に選択の余地がなかった。お前たちはそれを利用した。そしてクラリスが我が国で名声を上げていくと、今度は命まで奪おうとした。夫としてこれは許すまじき行為」
自白してしまったミレイユは反論のしようがなく悔しそうにジュリアンを睨むしか出来なかった。
「お前たちが欲したのは権力と金だけだ。だからこんな簡単な罠に引っ掛かる。僕は始めからクラリスが目的だったんだ。
王位継承二位と言えばお前たちは身代わりにクラリスを立てるだろうと予測してな。
そしてもう一つの目的はクラリスを苦しめたお前たちに天罰を下す事。そのために国王や姉さんにも協力してもらった。その仕上げがエルドラスト侵攻と吸収合併だ」
ジュリアンにそう言われてジャクリーヌとミレイユは返す言葉がない。
2人はわなわなと体を震わせた。
やられた。。
クラリスを身代わりに出したところまでは自分たちが罠にはめたと思っていた。
だが、相手の目的が始めからクラリスだったとは想像すらしていなかったのだ。
2人にとって権力こそがすべてであったからだ。
「お前たちは斬首刑にする。罪状は詐欺と王妃暗殺未遂だ」
ジャクリーヌとミレイユはその場で崩れ落ちた。
そんなバカな。。
まだ自分に何が起きたのか理解が出来ない。
「どうした? お前たちの王位継承権でこの状況を覆してみたらどうだ?」
「あんた人間じゃない。。悪魔よ」
ミレイユが怒りのこもった声でジュリアンを非難するが、鋭く冷たい視線に恐怖を感じてそれ以上言葉が出なくなってしまう。
今まで他者に対して傲慢であったミレイユは、これほど鋭い視線で睨まれた事がなく恐怖を感じたのは生まれて初めてであった。
「お前たちがクラリスにしてきたのはこんな物じゃない。彼女はそれに何年耐えて来たと思っている。そう言ったところで理解出来る頭と心は持ち合わせていないだろうがな。用は済んだ、地下牢に連れて行ってくれ」
ジャクリーヌとミレイユは再び地下牢へと戻されていった。
☆☆☆
「2人はどうなるの?」
「処刑にする。生かしておけばまた君に害を及ぼすだろうからな」
クラリスはそれを聞いて複雑であった。
確かに憎しみはなかったと言えば嘘になるが、処刑となると何とも言いようがない。
気分が晴れるわけでもない。
ただ、不安も恐怖もない平穏な日々が訪れる事だけは確かであった。
この国に来たのは自分の運命を変えたかったから。
それがこんな形になるとは想像すらしなかった。
それから1週間後、ジダルク王国はエルドラストに宣戦布告した。
戦いはジダルク軍の圧倒的な兵力の前にエルドラストはなす術がなかった。
元々政略結婚で油断していたのもあり、侵攻されるなど予想すらしていなかったのだ。
ひとたまりもなく国を制圧されて2週間で地図上からエルドラストという国家が消滅した。
これによりジダルク王国は国土を倍以上に広げる一大国家となった。
豊富な金の産出に国力はさらに強化され、大陸内での最強国家の座は揺るぎないものとなった。
結局、この婚約を受けようと受けまいとエルドラストは滅びる運命であったのだ。
クラリスを除いては。
☆☆☆
ジャクリーヌとミレイユの処刑が翌日に迫った晩、クラリスはミレイユに会いに地下牢へ赴いた。
鉄格子を間に挟んで見つめ合う2人。
ミレイユはクラリスを睨みつける。
「何しに来たのよ」
「最後だからひと目会いに。。」
「笑いに来たんでしょ。さぞ気分がいいでしょうね。卑しい身分の子供が王妃になるなんて世も末よ」
その言葉にクラリスはキッとミレイユを睨みつける。
自分の事はいい、だが母の侮辱は許せなかった。
「お母さんはそんなに卑しい身分なの? 踊り子は卑しいなんて言われる職業なの?」
「王族に比べたら最下級の人種よ」
「そんな事誰が決めたの? 私はこの国で働く全ての人たちが平等に暮らせるようにしていくつもりよ」
「あんたらしい綺麗事ね」
合理主義のミレイユに比べたら私は理想を追い求めるタイプなのかもしれない。
クラリスはそう思ったが綺麗事と言われようとこれは譲らない。
必ず誰もが平等になれる国を作ると心に決めていた。
「あんたがいなければこんな事にならなかった。。あんたさえいなければ。。なんで私の姉に生まれて来たのよ!」
ミレイユは涙を流して怒鳴りつける。それは立場が逆転された悔し涙なのか、ここで人生が終わる無念の涙なのかクラリスにはわからない。
「私たち、逆の立場だったら仲良くなれたのかな?」
「そんなの知るものですか。あなたジダルクの次期王妃なんでしょ。私たちを助けなさいよ」
その言葉にクラリスが反応を示す事はなかった。
「さようなら、ミレイユ」
ただひと言、それだけ言うとクラリスはミレイユの前から立ち去っていった。
翌日、元エルドラスト王妃ジャクリーヌと王女ミレイユの処刑が行われた。
ギロチンによる斬首刑である。
クラリスは見たくないとジュリアンに伝えて部屋で祈りを捧げた。
そして最後までわかり合う事が出来なかった妹のために涙を流した。
余談だが、エルドラスト国王は王族の身分を剥奪され、民間人として追放された。
王妃と王女の暴挙を止められなかった罪は問われたが、クラリス暗殺と身代わり婚に直接関与していないとして、処刑は免れたのだ。
☆☆☆
エルドラストの吸収合併とジャクリーヌ、ミレイユの処刑。
色々とあって気分の晴れないクラリスであったが、少しずつ心の整理もついてきていた。
「すべてが終わったな。君はこの国の王妃としてやりたい事をやってみるといい」
「では、困っている人を助けてあげたいな。病気の人には医者と病院を。貧困の人には食事を。身分や地位に関係なく誰でも平等にそれらが与えられる国にしていきたい」
クラリスらしいとジュリアンは思った。
彼女ならやり遂げるだろう、自分はその手助けをする。
クラリスを見るジュリアンの目は優しい。
「それと。。どこか見晴らしのいい場所にお母さんの墓石を建ててあげたいんだけど。今のままじゃかわいそうで。。どうかな?」
「いいじゃないか。丘の上の見晴らしのいい場所なら国内に何ヶ所かある。クラリスの好きな場所を選んであげるといい」
「ありがとう」
「あの日、君と出会えて良かった」
「私は知らないんだけどね」
「終わり良ければすべて良しって東洋のことわざにあるらしいから。これで良かったという事だ」
「私も。。あなたに会えて良かったよ」
その時、2人の名を呼ぶ女性の声が聞こえた。
「ジュリアン様、クラリス様」
「セリーヌ。どうしたの?」
「はい、私はこれからクラリス様付きのメイドとして働かせて頂ける事になりましたのでご挨拶に」
ジュリアンが一瞬え? という表情を浮かべた。
だが姉のヴィクトワールが後ろで笑っているのを見てそういう事かと笑みを浮かべた。
「お取り込み中のところを失礼しちゃったかしら?」
ヴィクトワールにそう言われてジュリアンは咳払いをし、セリーヌに声をかける。
「セリーヌが来てくれたのなら安心して任せられるよ。これからよろしくな」
セリーヌは一度はミレイユに操られてクラリスを殺害しようとした。
しかし彼女は本来そんな事が出来る人間ではない。
妹の病気を診てあげればメイドとしていい仕事をしてくれる。
ジュリアンはそう思っていた。
ヴィクトワールとジュリアンの手配でセリーヌの妹は最高の医者と施設で診てもらい、病気も回復して来ている。
そして次期王妃付きのメイドという事で給金は格段に良くなり、家族の暮らしも楽になったという。
そしてクラリスは初めて会うヴィクトワールと挨拶をかわした。
「弟をよろしくね。可愛い妹が出来て嬉しいわ」
「私も、こんな素敵なお姉さんが出来て嬉しいです」
クラリスは長女だったので姉が出来て嬉しかった。
頼れる人がもう1人いるのは心強い。
「姉さんにも婚約者を探してあげないとな」
「それなら歴史学者がいいわね。古書を解読してくれる人が欲しいのよ」
ヴィクトワールがそう言うと笑いが起きた。
彼女が王位継承になんの興味もない人だったからジュリアンは表舞台に立てたのだ。
そんな姉をジュリアンは尊敬していた。
ジダルク王国に新しい時代がやって来た。
ジュリアンとクラリスは新王国の礎を築き上げたとして後世にその名を語り継がれて行く事になる。
。。とヴィクトワール著書の歴史書に書かれる予定である。
ー完ー
いかがでしたでしょうか?
ベタベタ、ラブラブの恋愛物は書けませんでした。
クールな王子とか弱い王女、意地悪王女の王道パターンだけはどうにか保ちました。
これに懲りてラブコメは書かないかもしれないし、受けが良ければまた書くかもしれません。
この作品がお楽しみ頂けたというのなら幸いです。




