逆転
アレクシスというのは歴史書を書く時のペンネームである。
すでに何冊かの著書をこの名前で発表しているため、国民にその名は知られている。
だが、女性だとは王族以外誰も知らなかった。
体の弱いインテリで、書籍を書く王子。
それがアレクシスのイメージであった。
しかし、今宵の社交界の場でミレイユが女性だと開示したために貴族たちは疑問にに思っていた。
なぜ男だと偽っていたのか。
「アレクシスって歴史書を書いている作家ではないか?」
「そうか。歴史書を書くなら男性という事にした方が有利だ」
この時代、歴史書は男性が書くのが定石であった。
女性では不利と考えた王女が男性として執筆していたというのなら納得はいく。
アレクシスの著者を知っていた何人かの貴族たちの話が広まってその場は収まった。
そんな中、華やかな社交界の会場で勝ち誇っていたミレイユの前にジュリアンとクラリスが姿を現した。
「あの女。。ジュリアンまで一緒とは何をしに来たの?」
忌々しげに2人を睨むミレイユの前にジュリアンはクラリスと手を繋いで歩み寄って来た。
「会場の皆様。先ほどは失礼致しました」
ジュリアンが大きな声で会場にいる貴族たちに話しかける。
「ここにいるエルドラストの王女が何やら言ったそうですが、この場ではっきりと宣言致します。僕の王妃はここにいるクラリス・アントワーヌです。彼女以外を王妃にするつもりは一切ありません」
会場からどよめきとおお! という声が聞こえて来た。
「なんですって?」
それを聞いたミレイユが激怒する。
「どういう事よ! 私は王位継承権のある王女よ。なぜ何の権限もない女を選ぶの。どっちがお互いの国にとって有益かよく考えなさいよ」
「国の有益? 君がそんな事を考えているのか? 君は自分の有益しか考えていまい。第一、僕がいつ君に王妃になってくれなどと言った。世迷言を言うにはこの会場は場違いもいいところだ」
"勝手に王妃になると思い込んでたの?"
"言われてみればクラリス様が先に来てるのにおかしいと思ったわ"
会場の至る所からミレイユを非難する声が出て来る。
会場の空気が一気に変わった。
「クラリス・アントワーヌ。初めからの取り決め通り、君が僕の王妃だ」
「ジュリアン。。」
大勢の貴族たちの前でジュリアンは堂々とクラリスを王妃だと宣言した。
ジュリアン自らが宣言した事により、社交界の貴族たちはクラリスが正式なこの国の王妃だと認めた。
この屈辱にミレイユは体を震わせる。
「そんなバカな。。どうしてあんな無能な女なんか。私の方が美人だし有能なのに」
ミレイユの言葉にジュリアンは侮蔑の目を向けて答える。
「確かに身分だけなら君だと言う人がほとんどだろうな」
「どういう意味?」
「言った通りの意味だ。君にそれを話したところで理解出来まい」
ミレイユは自分が敗れた理由がわかっていなかった。
正室である王妃の娘でエルドラスト王国の王位継承者でもある自分が、王位継承権のない側室の娘クラリスに負けるなどあり得ないというのが彼女の信念であった。
「クラリスは王女としてやるべき事をやってきた。君はその手柄だけを横取りした。結果、形だけは君の手柄だが、王女としての評価はクラリスが得ている。それがすべてじゃないか」
「なんですって? 言いがかりよ。私に対する侮辱行為だわ」
「それが我がジダルク王国のエルドラスト王女2人に対する評価だ」
ジュリアンがそこまで言い終えたところで社交界の会場に警備兵が一斉に雪崩れ込んで来た。
「この女を捕らえよ。罪状はクラリス暗殺未遂だ」
ミレイユは両腕を警備兵に腕を掴まれる。
「離しなさい。私を誰だと思っているの? エルドラスト王国の王女よ。気軽に触るんじゃないわよ。だいたいクラリス暗殺未遂ってなんの事? 証拠でもあって言っているのかしら?」
ジュリアンが目配せすると、ミレイユの目の前に臣下だった男が連れて来られた。
「あの男がすべて白状した。君から暗殺を依頼されたとな」
ミレイユの目が怒りの表情に変わる。
「役立たずが。。失敗しただけじゃなく自白までするとは。こんな奴に頼んだ私がバカだった。。」
「違う! 俺は何も喋っちゃいねえ。こいつらにはめられたんだ」
男の言葉を聞いてミレイユはしまったという表情を浮かべた。
「その通り。あの男はひと言も話さなかった。だから少しばかりやり方を変えたのさ。結果自白したのは君自身だったというわけだ」
「ふざけるな。。」
ミレイユは拳を震わせてジュリアンに怒りをぶつけるが、自白してしまったのだ。
もはや逃げようもなかった。
「母親もすでに捕縛している。連れていけ」
ミレイユは抵抗を見せたが複数人の警備兵たちに押さえられ、手に枷をはめられて連行されていった。
「お前も自白したとみなす。我が国の警備兵を何人も殺害した罪を許されると思うな」
ミレイユの雇った傭兵の男は処刑となった。
クラリスはその状況を間近で見ていた。
ジュリアンの冷徹さを目の当たりにして、夫としての頼もしさと王子としての冷徹さに複雑な心境であった。
私に対する優しい目と全然違う。。
それは王子として、将来この国に担う者として決断し、行動しているんだとクラリスは思った。
ジュリアンを「王子」ではなく「夫」として頼もしく感じたクラリスであった。




