6年越しの念願
クラリスは宮殿のバルコニーに1人立っていた。
〔終わった。。これでジュリアンとミレイユの婚約が成立し、私は排除される。王位継承権のない私に初めから勝ち目なんてなかったんだ。。〕
クラリスは完全敗北だと思っていた。
王位継承権のある正統王女の前では飾り物の王女の言葉など無きに等しい。
政略結婚の書面通りにミレイユがジュリアンの王妃となるであろう。
「私にはもう帰る場所もない。これから民間人となってどこか田舎町でのんびり暮らそうかな。。」
そう考えると今までの事が嘘のように思えてくる。
エルドラストでの事。
ジダルク王国に来てからの事。
「いっそのこと大勢の前で啖呵切ってやろうか。ジュリアンにあんたなんてこっちから払い下げよって言って砕け散って終わりにしてやる」
「払い下げはひどいんじゃないか」
突然背後から声をかけられてクラリスはびっくりする。
「ジュリアン? どうしてここに?」
「君の後を追って来た」
「私よりミレイユに行ったら。私はもうあなたの王妃じゃないんだから」
「誰がそんな事を決めたんだ? 僕はミレイユを王妃にするなんてひと言も言っていないが」
「だってミレイユがそう言ったし、あの子が王位継承権を持っている以上私はもう必要ないでしょ」
「僕が必要なのは王位継承権じゃなく君なんだけどな」
「え?」
本気なの? 信じていいの?
政略結婚なのに王位継承権が必要ないなんて。
ジュリアンはここで初めてクラリスに本音を伝える。
「6年前の社交ダンスの会場で初めて君を見た時から、君を王妃に迎えるために準備して来た」
「社交ダンス?」
クラリスは記憶を辿っていく。
〔6年前の社交ダンス。。確かに私は参加していたけど。。〕
ジュリアンと会った記憶がないので、首を傾げている。
「ははは。思い出せないだろうね。だって直接会ってないんだから。僕は遠くから君を見ていただけだった。あの時の自分には君をダンスに誘う資格がなかったからね」
それで合点がいった。
その時に自分を見てくれていた人がいた事も初めて知った。
「本当に。。信じていいの?」
クラリスはまだ半信半疑だった。
「ようやく君をダンスに誘えるまでになった。踊って頂けますか?」
手を差し出したジュリアンにクラリスは一瞬迷う。
じっと顔を見つめるが、彼の目は嘘をついていない。
そう思うとクラリスもようやく笑顔を見せてそれに応える。
「もちろん」
バルコニーで2人は社交ダンスを始めた。
ジュリアンも今はジダルクの王族の中でダンスは1番の実力である。
優雅に踊りながらジュリアンはクラリスに話しかける。
「最初にこの国に来た時に君が結婚に納得してないのにここに来た理由はわかるって言っただろう。
エルドラストにいても何も変わらない。ならば少しでも可能性がある方に行こうと思っていたんじゃないのか?」
図星である。
「なんでそんな事までわかるの?」
「社交ダンスの時に君がミレイユに罵倒されているのを見てしまったからさ」
見られてた。。恥ずかしい。
無論、クラリスは知らなかったのだが。
「あれ以来、王位継承権とはそんなに凄いものなのか。それをずっと考えていた。そんなもののために君が我慢する必要があるのか」
「あなたがそんな事を考える必要もないでしょう」
「あるさ。君を王妃に迎え入れるためにね」
「始めから私が目的だったのね。それにしては手の込んだ事するわね」
「あいつらに罪の償いをさせるためさ。ただの婚約なら君を指名すればいいだけだった。あえてこのやり方にしたのは身代わりにされると予想してたからさ」
始めから知っていたのはそういう事だったのか。
クラリスはようやくすべてが一本の線で繋がった。
「実はジダルクの王位継承者は僕なのさ。姉さんは女王になる資格がありながら自分は歴史の研究をやりたいって言ってね、継承権を放棄したんだ」
「姉さん?」
「そうか、クラリスにはまだ話していなかったな」
ジュリアンはアレクシスが女である事とミレイユを騙すための偽造だった事を伝えた。
クラリスもこれには呆れるような表情になる。
「そこまでやりますか? 普通。。」
「奴らを騙すにはいくつかの導線が必要だったからね。姉さんも喜んで協力してくれたよ」
そうなると気になるのはミレイユたちの今後だ。
「これからミレイユとジャクリーヌ王妃はどうなるの?」
「奴らには断罪を喰らわせる。君にとって辛い結果になるかもしれないが、黙って見ていてほしい」
クラリスはジュリアンの言葉にうなずいた。
この国に来てからここまでずっと彼を信用して来た。
ジュリアンに従えば間違えはないだろう。
それが辛い結果だとしても。
「行こう、クラリス。社交界の場へ。ミレイユと決着をつけてやる」




