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67.オートマチック乙女チック

挿絵(By みてみん)

 で、肝心の話に聞き耳立てるべく、髪の毛を操って移動、も少し近づいてみる。


 慎太郎の同級生だろう少女の口調は普段通りを努めているが、耳たぶ真赤、思い詰めた横顔。いいなあ、青春だなあ。私にもあんな頃があったなあ。そう、あれは初めて智香と出会った頃のこと――……


 いや、私の話は今はええねん。



 陰から私が窺う先で、慎太郎は困ったような顔をして、頬を掻き、頷いた。

「うん……いるよ」

あー、バカ。もったいないことを。


 て言うか、まさかとは思うが、それって……私か?


 いやお前。人形姫可愛い可愛いはいいけど、それって同級生の女の子をフッちゃうレベルなワケ? 私、どんだけデザインが可愛くても、所詮モノで、何よりお前のお父さんなんだけど? いや、ちゃんと別に本命がいるのならいいんだけど。

 で、ほらあ。

「あー……そっかー」

女の子、極力軽い感じ出してるけど、耳に加えて目元も赤くなってきてるし。可哀そうと罪悪感で、私もちょっと泣きそうなんだけど。


 少女は一度だけぐいと袖で目を擦り、ニッと笑った。

「安治川―。誰、とは訊かないけどどんな子なん?」

うああ、健気だ。お父さん的には、お願いしても息子とお付き合いしてやってほしい子だ。

 慎太郎が視線を泳がせ、私はすっと陰に引っ込む。あっちでは、絵里香と百合子ちゃんも電柱の後ろに引っ込む。

「んーと、こう、ちっちゃくて可愛い感じ?」

「え? 安治川ロリコン疑惑?」

そうだね、背丈を示す手の位置、ちょっと低過ぎるね。地上130センチ、やっぱり私だね。

 慎太郎はクラスメートのジト目に、さりげなく手をやや上方修正して、

「うん、まあ、ちょっと背は低めなんだけど」


「けどさ。自分のことより誰かのために一生懸命になれる、オレもあんなふうになりたいって思う、そんな人だよ」



 私は橋の欄干に絡ませた髪を解いて……


 頭を胴体に戻し、両手で軽く据わりを調整した。

「これ以上盗み聞きするのは野暮だな」

「聞くべきことは全部聞いたからね」

父と姉の視線の先で、しどろもどろの様子の慎太郎、笑いながら慎太郎の腕を叩いている女の子。

「てえてえ」

カフッと指の間から吐鼻血している百合子ちゃん。


 やがて少女は慎太郎の背を向けて、少し行って振り返って手を振って、川沿いの道を来た時と同じく小走りに行く。その先に、彼女に付き添って見守っていた友達だろう3人が、半泣きな顔で待っている。

 勝手なことを言わせてもらえるなら、彼女が、明日も気後れなく慎太郎と顔を合わせてくれればいいな。そう思って離れていく二人を眺めていると、

「今日は突然のご馳走に預かり、ありがとうございました」

百合子ちゃんがペコリとお辞儀をした。うん? ああ。ノロケに対してご馳走様って返しあるよな。

「今夜のオカズ頂きました」

黙れ。こっちゃあピュアなモノ見て心が浄化されてんだよ。



 百合子ちゃんがホカホカした顔で、別れを告げて帰って行った。

 遼太郎が同級生の背中を見送り、やがて、ポケットに手を突っ込んで家の方へ歩き始める。私と絵里香は目配せし合い、ゆっくりと橋を渡ってから、

「慎―」

「おーい、今帰りかー?」

声を掛けると慎太郎は飛び上がらんばかりになって振り返った。

「ひ、姫、ねーちゃん……どしたの、二人で?」

「さっきベア子が散歩してるのに会ってさー」

「ああ、そーなんだ」

絵里香の目がきゅっと弧になる。慎太郎が用心深く伺う。

 どこから見ていた、と訊きたいが、この姉に下手に探りを入れると藪蛇だと、弟は経験的に知っていて深入りはしない。姉も何も言わない。


 エゲツないポーカーだな、お前ら。



 と、ふと慎太郎が私の顔を見て、

「あれ? 姫、何かいいことあった?」

「へ?」

きょとんと返すと、絵里香の猫笑みの矛先が向いて、

「そーなの。さっきからベア子、何かずっとニコニコしてて」

ふあっ?! 思わず口元を隠す。え、私、笑ってた? 狼狽(うろた)えると娘の目の曲線が深まる。

「なァ~んかいいことあったァ?」

猫じゃねえわ、蛇だわ。そんで父と弟は睨まれた蛙だわ。


 その、いいことは……そう! 年頃の息子にね、あんな人になりたいと思われているのは父親として嬉しいものです。だから断じて、別に勝った(・・・)という気持ちは私の中にはないのです。

「てかベア子、ちょっと乙女になってきてない?」

なってきてないです。


 ……たぶん。




 **********


 玄関開けると、狙ったかのタイミングで電話が鳴った。踵を擦り合わせて靴を脱ぎ捨て、慎太郎が廊下四歩でリビングに到達。

「行儀悪い」

「Dr。姫に」

しゃがんであっちとこっちに飛んだ靴を揃える私に、戻ってきた慎太郎が子機を差し出す。


『アー、吾輩吾輩』

「語呂の悪いオレオレ詐欺か」

『吾輩のトコに、MNBのプロヂューサーって人から連絡が来たゾ』

「は?」

『お人形たんさん、メンバーになりませンかっテ』

「はいぃ?!」


 受話器の向こうでDrが言うには……

 実はマモノビト(MNB)四十七士、“人形たん”がSNSに露出し始めた頃から既に目を付け、オファーは確定、というか私ありき前提のMNBなのだと。

 そこをあえてグループを先に立ち上げといて、からの「可愛過ぎるマモノビトと話題の“人形たん”、電撃参入!」と、こういう筋書だったのだと。

「何でDrに連絡が?」

『ジルバの奴が、吾輩の連絡先公表しやがっタからナ』

そう言やそうだったね。

『貴様のSNSにもメッセ来てないカ?』

あー、ホントだ。詐欺メッセージみたいなのが来てるわ。


 文面にさっと目を走らせ、スマホをしまう。

「Drからお断りしといてくれる?」

『やらンのカ?』

つまらなさそうな創造主サマに、

「明日にも『魔王』とドンパチしようかって時に、アイドルまでやってられるか」

『ちなみにMNBネーム(名前の間に挟むキャッチコピー)は“少女人形(ドールガール)”で、同時発表曲のタイトルは“恋する絡まり操られ人形(マリオネット)”だそうダ』

周到、つうかすげえ決め打ちしてくる。



 通話を切り、“空間転移”で子機を戻す。

 まったく、呆れて言葉もない。人間界と魔界の争い、消費する芸能界コワイ。お、何か韻を踏んだな。

 にしたって、中身オッサンの私がアイドルとか、リアルに可愛いマモノ少女47人押しのけて、何が“絡まりマリオネット”だかバカバカしい……

「Dr何だって? 姫、いい話だったの?」

「え、いや?」

「だってベア子、電話中からまたニヤニヤしてるし」

うえっ?! いや違……私はただ、ほんのちょっとだけ、「勝った」って。


「ベア子、やっぱ乙女になってきてない?」


 そ、そんなことはない。

 ただ、もしこの戦いが終わったなら、アイドル、やってみてもいいかなあって。ほんの、ほんのちょっと、思っただけ。




挿絵(By みてみん)

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