68.ブラックローズ
魔界の天才人形師、Dr.ボンダンスの魔導工房。“それ”は今はまだ静かに、目を見開いたまま眠っている――……
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「いやー、オレは見たいけどね、姫のMNB」
「けど衣装がなー。この黒装束じゃないと、私キャラ死なない?」
くだらないことをしゃべりながら、いつもの総合病院、いつもの診察室のドアを開くと、わざわざド正面に据えたソファにDrその人がふんぞり返っていた。
「……ククク……フフフ……フーッハッハッハッーア!」
のっけから顔を左手で覆って三段笑いのお出迎え。
「良く来たナ、二人とモ!」
「うん、帰っていい?」
呼ばれたから来たけど、強烈に匂い立つヤな予感。この男が上機嫌で碌なことがあるはずがない。Drは優雅かつ芝居っ気たっぷりに立ち上がり、
「貴様らに面白いモノを見せてやろウ」
こっちがついて来るのを当然として、魔界側へのドアに歩き出す。
慎太郎を見ると頷いて寄越す。まあ、気にはなる。いいモノだとしても、悪いモノなら尚更に。
人形工房を抜けて、魔法人形工房へ。入ってすぐ目に飛び込んだ“それ”に、慎太郎はギョッとして足を止めた。
「ひ、姫……?」
私と“それ”を、きょろきょろ何度も見比べる。
うん、私もこれにはびっくりした。カクンと首と肩を落として立っているのは、1体の魔法人形。それも……
顔の造りから衣装まで、私とそっくりの、もう一人の『人形姫』だ。
いや、正確には鏡に映る私ではない。
陶器の肌はブロンズ色、髪は暗めのアッシュグレー。開きっぱなしの虚ろな瞳は琥珀色。衣装のデザインは同じだが白基調。私を反転したかのような所謂2Pカラー、色違いの『人形姫』だった。
驚く私達に創造主サマはいたくご満悦で、
「ククク、コレぞ吾輩の最新傑作、その名も『ブラックローズ』」
ぶらっくろーず。
「コッチで暇を持て余してナー。手慰みに新しイ人形を作り初めたラ、コレが思いの外良イ出来になりそうなのデ、急遽『人形姫』シリーズの新作としテ仕上げてみましタ」
暇つぶしで作っちゃいけない、偽物キャラを。
けど……この子が『人形姫』と同等のチカラを持っているなら、単純計算戦力2倍。来るべき『魔王』との決戦を前に心強い味方、そういうことなのね、Dr?
眼差しに期待を込めると、Drは自信に満ちて首肯する。
「サア、目覚めルのダ、黒薔薇の末姫ヨ」
パチン! 高らかに指が鳴る。
創造主が目覚めよと呼ぶ声が聞こえ、黒の人形姫の目に光が宿る。カタカタッと全身の球体関節を震わせ、少女人形が顔を上げる。
「おはよウ、ブラックローズ。動けるかネ」
「ஆம்,யுவர் ஆனர்(はい、ご主人様)」
初めはぎこちなく、すぐに滑らかに、ブラックローズはスカートの端をつまんでカーテシーの仕草をしてみせた。
私は一歩彼女に近づいた。まるで双子……いや、同じ“父”を持つのだ、私達は正真正銘双子の姉妹。色以外は見分けがつかない。
「君は、ブラックローズ」
おずおず呼び掛けると、
「そういうアナタはドロシーローズ」
妹も私のことはわかるようで……
「ドロシーローズ、アタシと勝負なさい! アナタとアタシ、どちらがボンダンス様の最高傑作か証明してあげてよ!」
あー……そういう感じなんだ?
Drを見ると、嬉っしそうな笑みが返ってきて、
「ブラックローズには『人形姫』シリーズの基本性能の上に、貴様の戦闘データを予め学習させてあル。ククク……勝てるかナ、ドロシーローズ?」
「ホンっト余計なことしかしねえな!」
いや実際その限りではないけれど。余計なことをコンスタントに供給しおる。
「因縁の対決ダ。今こそ雌雄を決すルのダ、愛しキ我が“娘達”ヨ!」
因縁も何も2分前に初対面だよ。そんで私、オスもメスもねえよ。
ブラックローズは寸分違わず同じ身長なのに、見下すよう顎を持ち上げ、
「ついて来なさい、旧型。真の最高傑作はどちらか教えてあげますわ?」
「あ、いい。ブラックでいいよ」
試験場へ誘おうとしたのだろう足を止め、琥珀色の目で睨んでくる。
「バ、バカにしていますの?!」
「してないしてない。私お姉ちゃん、ブラック妹。仲良し」
「妹より優れた姉なぞ存在しねえのですわ!」
面倒臭いなあ。末っ子シスター、マジ面倒臭い子だ。
あの子が私の妹だとすれば、あんた、彼女の何なのさ? 慎太郎を横目で見ると腕組みをして、
「褐色ロリの姫も悪くないなー」
ふーん? まーた私以外の女の子に目移りしてんだ? まあ、今回は見た目は一緒だから許すけど……
……“許す”って何なのさ?!
一瞬無意識の心の流れに、私は偽物キャラの登場よりも動揺し、先に立つ妹にふらふらとついていった。
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魔法人形性能テストフィールド、特訓で散々爆破魔法に焦がされた私のホーム。
ブラックローズは中央までトコトコ歩いていき、白装束を翻して、
「さあ! 掛かっておいでなさい、ドロシーロー……」
「『ですの』」
ドカーン! 「きゃあああああっ?!」
向き直った褐色の顔面に、私のお嬢様砲がモロにヒットした。ブラックの頭が外れて、首から下と別々にゴロンゴロン転がっていく。
「うわー、ヒデえ」
「ンー、違うナ。コレは戦イにおける年季の違いといウやつダ」
実況慎太郎・解説Drでお送りしておりますが、だから面倒臭いんだって。もう最後の戦いが迫ってるの。遊んでる暇ねえんだっての。
ブラックローズの胴体が、頭を拾い上げて嵌め直す。
「ひ、卑怯ですわ!」
「戦いを仕掛けておいて、卑怯もラッキョウもあるか。クロ、これがホンモノの戦場だったらお前は既に死んでいる」
言い放ってやると、ブラックローズは悔しそうに口をつぐんだ。生まれたての子はスレてなくて素直で可愛いわね。
しかしさすがは我が妹。魔剣士ジルバをも下した、お嬢様砲一発では沈んでくれなくて、
「今度はこちらから行きますわ!」
むしろやる気が上がってしまった。
はあ、しかたない。妹のワガママに付き合うのも、おねーちゃんの役目なのかしらね。




