2 ダンジョンに入りました
部屋に入ると、まぶしい光に包まれた。
つぶった眼を開くと、きらきら揺れる光の中にいた。
淡い色のついた光の粒が重なったり離れたりしていて、透明な森の中にいるみたい。
「ここは、伝説の場所!」
ピョートル殿下があたりを見渡して叫んだ。
「こんなにすぐに来る方法があるなんて。私は、ここにたどり着くために、何年も試練を繰り返していたのに」
ピョートル殿下はちょっと涙目になっている。
そう、いつの間にか、ピョートル殿下は、またキラキラオーラがなくなり髪が短くなっており、銀縁眼鏡をかけているが、レオニード先生の姿に戻っていた。
伝説の場所に試練、って何かしら。
王家には、一般に知られていない、このダンジョンにまつわる言い伝えがありそうね。
考えているうちに、背中のリュックがもぞもぞ動き始めた。
口を開けてやると、スビートが頭を出して、あたりのにおいをかいだ。
「ママ!」と叫んでリュックから飛び出し、一直線に走り出す。私も慌ててスビートの後を追った。
スビートが走っていった先には、立派なたてがみの大きな金色のライオンが座っていた。先代の聖獣様だろう。馬車ぐらいの大きさで、とても威厳がある。
スビートは駆けよると、ライオンの胸元に飛びついた。ライオンは前脚でスビートをパシッと払い、抑え込みされた。
スビートは、ライオンの脚の下からわめいた。
「ママ!ママ!大丈夫なの!悪い奴が来てママをいじめたって、神様に聞いたよ!
ママ!僕が助けに来たよ!ねえ、ねえ、もう大丈夫だよ!」
それ、相手の脚でホールドされた状態で言うセリフじゃないわよね。
「……まずは、落ち着きなさい」とライオンは低い男性の声でおっしゃった。
スビートはまだにゃあにゃあ何か言っている。
私は、さっさとライオンに近づくと、あいさつした。
「初めまして、お会いできてうれしいです。スビートからママさんのお話は伺っています。
スビートはいつもママさんに会いたがっておりました。
スビート、ママに会えてうれしいのはわかったけれど、ちょっと黙って」
「むむぅ」スビートは黙った。
ピョートル殿下も近づくと最大の礼をして言った。
「現王が長子、ピョートル、参りました。聖獣ザラトーリェーフ様に置かれましてはごきげんうるわしゅう」
「ちび、二人も光の承継者の資格持ちを連れてきたのですね。よくやりました。
お前たちも、かしこまらなくて結構ですよ。光の承継の試練を受けに来たのですね。
ただ、残念なことに、現在、この聖なる場所に侵入者が来ていて、その対応を先に終わらせてよろしいでしょうか」
「ライラは、僕と一緒に、ママを助けに来てくれたんだよ!侵入者をやっつけるんだ!」
スビートが体をねじって、ライオンの脚の下から抜け出して、自分の背中をなめながら言った。ちょっと毛並みが乱れているので、私は横から背中を撫で、整えてやった。
「そうですか、ありがたいですね」
「私も、何かお手伝いさせてください」ピョートル殿下が勢い込んで言った。
「状況を伺ってもよろしいでしょうか」
「ここは、あなたたちが言うところの王宮地下ダンジョンの5階層で、最深部になります。
あなたたちの世界の時間で言うと7日前、2階層に我々の許可を得ない方法で2名の人間が侵入しました。
落とし穴の仕掛けから侵入したようです。許可なしの侵入ですので、我々聖霊は侵入者たちを説得して退出するよう求めましたが、侵入者たちは、闇魔法を使うなどして、2階層にいた聖霊たちを蹂躙し、現在、3階層に侵入、闇の結界を展開しています。
侵入者たちは、攻撃無効と速度上昇といった魔道具を渡せと要求しています。
しかし、それらの魔道具は試練達成の証ですから、こちらも渡すわけにはいかず、事態は膠着しています」
「7日前、イヴァン殿下とトノリ・タハロフ子爵令息が行方不明になったのですわね。闇魔法を使うのは、トノリ・タハロフではありませんか?」
私が指摘すると、ピョートル殿下が驚いたように叫んだ。
「イヴァンが、ここに、先に入ったのか!」
「確かに、侵入者のうち1名は光を承継する資格者ですが、試練のことは知らないようですね」
ライオンが冷静に答えた。
「ああ、イヴァンは婿入り予定だったから、教えられていないはずです」
「ちょっと待って、光を承継する資格者とか、試練とか、どういうことか、教えてくださる?」
ピョートル殿下は困った顔をしていたが、教えてくれた。
「王位を承継する者は、この王宮地下ダンジョンで聖獣ザラトーリェーフ様から試練を受け、合格しなくてはなりません。
どのような試練かは聞いておりません。
現在の王は、試練を受けることができなかった。だから、現在も、正式には祖父が王で、父は代王です。
だから、私は、試練を受け合格するために、この場所にたどり着く方法を探していました。
光の承継者、とは、王位承継権者のことです。
アルテリア王国の創設王が、聖獣ザラトーリェーフ様から人民を導く光属性のスキル【聖なる王】を授かったことに由来する呼び名だと聞いています」
「そうでしたの」
私、知らない間に、王位承継権争いに巻き込まれてしまったみたいだわ……。




