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1 王妃様登場

今朝はちょっと寝坊してしまった。

まあ、おじいさまが帰ってくるまでやることもないから、のんびりしよう。


そう思っていたら、キアラに起こされて、着替えさせられた。王妃様がお見えになるという先触れがあったのだ。

簡易な朝食をいただいていると、もうお見えになったという。

食堂から出ると、コテージの入り口横のウェルカムスペースに王妃様がいらした。

ウェルカムスペースには、オルロー領の特産品やお土産を飾っているスペースがあり、そこに置いてある等身大木彫りのクマを見ていらっしゃる。


私は、敬礼をしながら、お迎えが遅くなったことを詫びた。


この方は、こうやって抜き打ちで思いがけない行動をして、こちらがちゃんと対応できるかを試されるような面がおありになる。

きっと、王子妃教育の一環なのだろう、と思っていたこともありましたわね。

もう私、イヴァン殿下と婚約を解消しましたから、王子妃になる予定はないのに、このような抜き打ち試験をされるいわれはないように思いますわ。


どんな嫌味を言うのかしらと待ち構えていたが、王妃様はおだやかにおっしゃった。

「今朝、先触れを送ったばかりですもの、気にしないでちょうだい。


こちらの木彫りのクマは前にライラからいただいた物と同じですわね。

なつかしいわ、どうして最近は遊びに来ていただけないのかしら。

お茶会のお手紙を送ったけれど、お忙しいとのお返事でしたが、お茶会のような機会でなくても、いつでも、気軽に立ち寄ってもらっていいのよ」


最近、王妃様のところに伺っていないのは、王妃様の息子と婚約を解消したからである。だが、そのようなことを口に出せば不敬になるだろう。


『職場の人間関係に疲れた時に読む本』にも、王妃様タイプには、「相手をほめて自尊心を満足させておいて、あとは自分が卑屈にならないように自分の好きなことをしゃべるようにする」と書いてあったのだわ。

あと、これまでのお茶会の経験から、王妃様は、頼みごとがある時は、回りくどいしゃべり方をすることを知っている。

どういった用事できたのかを慎重に探ったほうがいいだろう。


「暖かいお言葉恐れ入ります」


「いろいろとお話は伺ったわ。

学園の武術大会で優勝されたらしいわね?すばらしいじゃないの。


あと、例の法改正の審査に立ち会っていらしたよね。女公爵になるのかしら?」


「王妃様から、丁重なお褒めの言葉をいただき、大変恐縮ですわ。


武術大会は、たまたまペアを組んだ友人が剣術を得意としておりましたものですから。


ただ、珍しい経験をさせていただき、とても楽しかったですわ。

決勝戦は、ケイトリン・アローリナ公爵令嬢とトニア・ハーリング伯爵令嬢と対決しましたが、ハーリング嬢の彼女の風魔法はなかなか優秀でしたのよ」


「そう、すばらしいわね。


そういえば、そのアローリナ嬢たちと対戦したボリス・サハロフ伯爵令息のことを聞いているかしら?」


確かエンシェントドラゴンのなわばりに入り込んで死亡した侵入者は、彼ではないかという情報があったわね。

あと、ピョートル殿下が、彼が行方不明だと言っていたわ。イヴァン殿下とトノリ・タハロフ様も一緒でしたかしら。

でも、まだ不確定情報だったはず。うっかりしたことは言えないわ。


「サハロフ様も武術大会でご活躍でしたわね。

確か、覚醒して、【剣の閃き】スキルを取得したと記憶しております。もともと、【剣の兵】スキルをお持ちでしたかしら。二重に強化されますわね」


王妃様は、一瞬、いらだったように見えたが、あくまでも優しい声でおっしゃった。


「ライラ、婚約を解消したあなたにお願いするのは間違っているかもしれないけれど、これまでの私たちのいい関係に免じて、どうしても教えてほしいの。


ボリス・サハロフが死んだのかしら?

オルロー領で、ドラゴンに殺されたと聞いたわ。ドラゴンのなわばりの侵入者がもう1名いたとも。


それは、だれかしら?その侵入者は、助かったのかしら?」


「申し訳ありません。よくわかりません」


「はぁ?はっきり言ってほしいの。息子は、イヴァンは生きているのかしら?」


なるほど、王妃様はボリスのことを聞き、イヴァン殿下も巻き込まれたのではないかと心配になったのだろう。


私は、ダイから、侵入者は男女でバカップルだと聞いている。イヴァン殿下ではないと思うけれど、確定情報ではないのに伝えていいのかしら。


そういえば、余談になるけれど、どうして一部乙女ゲームでは危険だらけの冒険で好感度が上がるようなイベントがあるのかしら。

前世では、手を取り合って危険な状況に立ち向かう主人公たちにときめいていたような気がするけれど、危険なら手を取り合う前に剣を取れって感じよね。


ちょっとぼんやり考え事をしていると、何を思ったのか、王妃様は涙ぐんで言った。


「私は、少しあなたに意地悪だったかもしれないわ。

でも、わかるでしょ?女同士は、どちらが優位かをはっきりさせておかないと後後めんどうくさいのよ。

あと、あなたはまだ子供を産んだことがないからわからないかもしれないけれど、イヴァンは私のかわいい子なの。生きているか、心配でたまらないのよ。


教えてくれれば、恩に着るわ。なんでも、望みを言えば叶えてあげる。

お願い、教えてちょうだい」


「どこまでお伝えしていいか、考え込んでしまったようで、王妃様を不安にさせてしまい、申し訳ありません。


死亡した侵入者がボリス・サハロフ伯爵令息だという情報はありますが、まだ確定した情報ではありません。

また、これも不確実な情報ですが、侵入者は二人で、もう一人の侵入者は女だと聞いています。これらの情報がすべて正確であれば、イヴァン殿下はドラゴンのなわばりに侵入していないと考えられます」


「そう」


それから、王妃様は、16日の武術大会後、イヴァン殿下が国宝の魔道具を勝手に使ったという密告があり、17日に宰相の命令で宝物庫の調査がなされ、密告の内容が確認されたこと、王がイヴァン殿下に謹慎を命じたにもかかわらず、その日の夕方にイヴァン殿下が王宮から抜け出したこと、少なくとも18日から、ボリスやトノリ、ツチャビッチも学園の寮にいないことが確認されたことを教えてくれた。


先日、王妃様がお茶会に誘っていただいたのは、私にイヴァン殿下の行方を知らないか確認したかったようだ。

まあ、他にも、水星の杖の話や、婚約解消を願い出ていたことなど、いろいろとお知りになりたいことはあったようだけれど。


「イヴァン殿下の状況、お辛いと思いますわ。お元気で帰ってくるよう、祈っております」


私は、つまらない慰めを言うことしかできなかった。



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