2 ボリスの野望
ボリス視点です。
長いけど、しょうもないです。読まなくてもストーリー上問題はありません。
真実の愛を見つけた。
かくなる上は、必ず俺が騎士団長になり、王となるべきイヴァン王子とその妃ツチャビッチ・ミトロヒナ、かわいいツーチャを守らなくてはならない、とボリスは思った。
イライラすることがあったため、ボリスは授業をさぼって一人で鍛錬していた。
そこに、ツーチャが駆け寄り、タオルを差し出した。
「闘技大会、がんばってね、ボリス。
私、こんな立場だから、こうやって陰から応援するしかできないけれど、ボリスが勝って、剣聖スキルに覚醒して、私を守ってくれるって信じているわ」
ボリスは、ツーチャの腕をつかんで引き寄せ軽くキスをすると、格好をつけて言った。
「ああ、任せとけ」
二人のそもそものなれそめは、今年の1月16日である。
この日は、新入生を歓迎するため、全校生が参加して王都の西にある森にハイキングに行くのが学園の慣例である。
この際、西の森には低レベルながらも魔物がいるため、騎士志望の学生は学園から指名を受け、又は志願して生徒たちの警備にあたることが多い。
ボリスは、自分が学園に指名されなかったことに不満を抱いていた。
もちろん、自分から志願して警備役を買って出たが、本来ならイヴァン王子の側近であり、また現在の騎士団長の息子であり、剣の兵という強いスキルを持っている、将来の騎士団長であるはずの自分に学園の教師が一番に頭を下げに来て警備を依頼すべきではないだろうかと思っていた。
そこでボリスは、わざと小さな魔物を見逃して騒ぎを起こしてやろうと思った。騒ぎの最中に自分が魔物を倒せば、周りは、自分を尊敬するだろうと思ったのだ。
このため、ボリスは小さなスライムらしきぶよぶよした魔物がハイキングコースの到着予定地である広場に向かっていくのをわざと見過ごした。
1月16日の昼頃、広場のほうから下級生らしき叫び声が上がる中、ボリスが悠々と広場に向かって歩いていると、ピンクのドレスを着た女が道端にうずくまっていた。ハイヒールのヒールが取れたようだ。
ミトロフ男爵の娘だというその女は、今年9年生に編入したばかりらしい。
ボリスは持っていた包帯を足に巻いて靴代わりにすると、広場に連れて行ってほしいと女が言い出したためやむを得ず女を背負って連れて行った。
ボリスたちが広場に現れたころには、すでにスライムは討伐されており、スライムを倒したマルガリータ・ジュコフスカヤ伯爵令嬢が生徒会役員たちから感謝されているところだった。
ハイキングの進行管理を担当していたレオニード先生が、ボリスに対して、見張りを怠って魔物を広場に近づけた上、連絡なく持ち場を離れたことを叱ると、女が叫んだ。
「ごめんなさい!私が全部悪いです。ボリス様は悪くないので叱らないでください。
私、今日、初めてのハイキングで、張り切りすぎて、ハイヒールのヒールが折れちゃって、ボリス様が助けてくれました。
周りに誰も知り合いがいなくて、絶望していたので、本当に助かりました。
ごめんなさい。私が悪いので」
ボリスはわざと魔物を見逃したし、なにをしていようが持ち場を離れたことに変わりはないのだが、レオニード先生はそれ以上叱るのを止めた。
もともと先生方はボリスを警備に指名していなかったが、それはボリスが攻撃的な上、婚約者であるケイトリンをいじめているという噂があるため生徒たちがボリスを怖がっていたからであり、そんなボリスが人助けのために持ち場を離れたのであれば、ボリスが精神的に成長したためだと受け止めたからである。
他の生徒たちはボリスの見逃しやなぜかハイキングでドレスを着ている女の存在を忘れて、その後始まったハイキングの最終プログラムであるゲーム大会を楽しんだ。
ボリスは、女を保険医のところに連れて行く仕事を頼まれ、おおいばりで任務を果たした。
これが、ボリスが女、ツチャビッチ・ミトロヒナ嬢と知り合ったなれそめである。
それからも、助けてもらったお礼と称してバレンタインチョコをもらったり、二人で隠れて秘密の花見をしたり、何回も授業をさぼってお忍びで繁華街に行ってデートしたりと密かに愛をはぐくんできた。
いつの間にか、イヴァン王子がツーチャに思いを寄せるようになったため、イヴァン王子の側近であるボリスは自分たちの関係を隠さざるを得なくなったが、その分、ツーチャは、本当はイヴァン王子よりもボリスを愛しているといつも気持ちを伝えてくれるし、二人きりの時はイヴァン王子に対するより親密な態度をとった。
いつの間にか二人は、お互いをボリス、ツーチャと呼び合い、密かに手をつないで学園内を闊歩し、隠れて体を寄せ合う仲となった。
もともと、ボリスは剣の修行のため、友達付き合いもせず、婚約者であるケイトリン・アローリナ公爵令嬢からの誘いも無視し、イヴァン王子との交流に使う以外の自由時間の全てを剣の修行に充ててきた。
しかし、去年の闘技大会では、ケイトリンとマルガリータのペアに決勝で敗れた。
ケイトリンのバフスキルの効果だろう。
しかし、バフを使うなんて卑怯だ、とボリスは思った。
実は、馬鹿にして無視し続けていた婚約者が、男より下であるはずの女剣士と組んで自分を倒したことにショックを受けていたのだ。
大会後、ボリスが人の来ない場所で呆然としていると、近くで闘技大会の手伝いをしていたらしい生徒会の役員たちがうわさ話を始めた。
「ボリス・サハロフ様がケイトリン様たちに負けていたな」
「ケイトリン様を理由なく無視していたらしいし、たいして強くないのに威張っているし、ざまあって感じだね」
すると、昨年、生徒会のイベント担当副会長を務めていたナザール・アウコフ侯爵令息が言った。
「しかし、ボリス様は将来どうするつもりなのだろう。
サハロフ家は伯爵とはいえ領地がなく騎士団に勤めることが役目とされる家なのに、婿入り王子の側近では、騎士団で上に引っ張り上げてくれる人がいないだろう。
まあ、今の彼の実力では、生涯一騎士として生きるつもりかもしれないけれどね」
自分は当然父の跡を継いで騎士団長になると思っていたボリスはショックを受け、それ以来、剣の修行にも身が入らなくなっていた。
父はその能力の全てを騎士団の統率と剣技の上達に投入しており、そんな政治的なことは教えてくれなかった。
ツーチャにそんな悩みを話すと、ツーチャは「私はボリス様が強いって知ってますよ」と慰めてくれ、そしてささやいた。
「私、予言能力があるの。
大丈夫、ボリス様は剣聖のスキルを取得するのだから、騎士団長にだってなれますよ」
このように、ボリスには優しいツーチャだったが、ツーチャは、時々、激高して人を攻撃することがあった。
ただ、どうも相手を見ているのだろう、激高する相手は一々ボリスが面白くないと思っている者を絶妙に傷つける相手であった。
例えば、ナザール・アウコフ生徒会長をしたう生徒会書記だの、ハイキングで魔物を倒した上、婚約者のケイトリンを助けて闘技大会で優勝したマルガリータ・ジェコフスカヤ伯爵令嬢だのといった相手だ。
こういった者たちが土下座して謝罪する姿を見るたび、ボリスは暗い喜びを感じていた。
だが、こういったツーチャの言動は、それを許しているボリスの評判を下げていた。
授業をさぼり、独りよがりの修行も身が入らず、結果、剣の腕が上がっているという実感はわかなかった。
そして、先日、ついにアローラ公爵からケイトリンとの婚約を解消するとの申し入れがあったと聞いた。
父がさすがに驚き、ボリスを叱った。
もう、ボリスには、ツーチャの予言にすがるしか将来の望みはなかった。
確かに、剣聖のスキルを授かることができる者は天下に一人であり、そのスキルを授かれば、アルテリア王国の王が自分に頭を下げて騎士団長になってくれと頼みに来るだろう。
しかも、自分が側近を務めているイヴァン王子は、雷帝のスキルを授かるらしい。
雷帝スキル持ちなど偉人伝に出てくる人物しか思い当たらない。そんなスキルを授かったイヴァン王子は、第一王子を押しのけて王になることは間違いない。
王妃になれば贅沢し放題であり、けなげなツーチャも喜ぶだろう。
俺は、騎士団長として、そんなツーチャをそばで見守り、守り続けよう。
それに、ツーチャは、本当はイヴァン王子よりも俺のことが好きだと言い、今ですらあんなことやこんなことをさせてくれる。
もちろん、自分は立場上、この恋を隠し続けるつもりだが、もしツーチャが心から望むなら、そしてうまく立ち回れば、自分たちの愛の結晶である子供が、王族になる可能性がないとは言えない。
他人との交流が少ない修行の日々と、あまり上達しない剣技という現実がボリスの心をゆがませていたのかもしれない。
ボリスの野望は、際限なく膨らんでいく。
このころのライラ
論文執筆終了!お昼食べたらひたすら護身術の練習ですわ!
このころのダイ
ルカとお昼を食べながら報酬を折半してぐだぐだおしゃべり
ダイが水戸黄門ばりに暗躍していたおかげで、アステリア王国では魔獣等が減り、武術より文化を楽しむ人が増えたため、ボリスはゲームよりもボッチ度が上がっています。




