1 ライバル登場
朝、マルガリータに、一緒に闘技大会に参加してほしいこと、いつでも都合がいい日にコテージに来てもらって連携の練習をしたいことを伝えてもらう。
一方、今日も私は王立図書館に行き、時々文献を確認しながら卒業論文を書く。
本棚の奥にある席は、あまり人が来なくて静かだ。すっかり、お気に入りの場所になった。
こんな場所はゲームでは出てこなかった。
学園には図書室があり、そこに出没しているキャラクターもいたはずだが、ゲームでは三馬鹿攻略対象とのサブミッションばかり進めていた私は図書室すらあまり利用しなかったと思う。
また、前世を思い出す前は、王妃教育などで忙しく、しかも勉強はコテージでしていたから、図書室に行ったことはなかった。
実際は、学園の図書室もこういった素敵な場所だったのではないかしら。
行けるうちに行っておけばよかったわねと、ちょっと後悔する。
休憩がてら、私がぼんやりあたりを見回していると、こちらをじっと見ている人に気が付いた。
同い年ぐらいの、緑の髪に黄緑色の瞳でひょろりとした青年で、眼鏡をかけすっと鼻筋が通った賢そうな顔立ちをしている。
そうだわ、たしか宰相を務めているアウコフ侯爵の御嫡男ナザール・アウコフ様ではございませんこと?
あら、私に見惚れていたのかしら。
なんてね、私ったら、すぐ調子に乗ってしまうから、気を付けないといけませんわね。
ちょっとドキドキしながらその人を見つめ返すと、彼は立ち上がり、近づいて話しかけてきた。
「失礼、ライラ・オルロヴァ公爵令嬢でいらっしゃいますか。
お話させていただいてよろしいでしょうか」
「ええ、少しでしたら結構ですわよ。いかがなさいましたか?」
きゃあ、私が美しいから見とれていましたとか言い出されたらどうしよう。
そういう内心の妄想とうらはらに、私は冷静に回答した。
「私は、ナザール・アウコフと申します。
オルロヴァ様と同じ学園の9年生です。
先日より、オルロヴァ様がこちらに来られていたので、ご挨拶をさせていただきたいと思いつつ、遅くなりまして申し訳ありません。
熱心にスキル理論の調査をされていますね。
もしかしたら、最優秀生徒を狙っていらっしゃるのでしょうか」
「ご丁寧にありがとうございます。
最優秀生徒は、私ごときが狙ってなれるものではございませんわ。
ただ、卒業論文に不足がありましたので、その不足を補うために必死になっているだけですの」
「そうですか。
こんなにお美しい方を最近よく王立図書館でお見かけするようになったため、お話しできないかと様子をうかがっておりました。
いきなり話しかけた失礼をお許しください。
そういえば、ぶしつけで申し訳ありませんが、オルロヴァ様は最近スキルを授かったという噂ですが、闘技大会に参加されるご予定ですか」
「ええ、そのつもりですわ」
「噂では、支援タイプのバフ系と伺いました。
ということは、どなたかと組んで出場されるのでしょうね。
私も支援タイプのバフ系ですので、お手合わせをさせていただくのを楽しみにしているのですよ」
「まあ、そうですのね」
このころには、私はすっかり落ち着いていた。
残念ながら、色気のある話ではなさそう。
私のこと、美しいとかほめてくださっているけれど、貴族の社交辞令としてはありきたりの言葉しかないし、そもそも彼からは何の熱も感じないわ。
むしろ、なにかこちらの情報を探っているような感じね。
そのまま少し会話して、お互いの用事に戻った。
昼食をとるためにコテージに戻る。
お使いから帰ってきたダイに、ナザール・アウコフ様に話しかけられたと言うと思い当たるところがあったようで教えてくれた。
《ナザール・アウコフは、学園の図書室で勉強をしていたらエンカウントするSRキャラクターですね。
最優秀生徒を狙うには、図書室での自主勉強が欠かせませんから、ピョートル殿下のサブミッションを進めていると自然にエンカウントいたします。
今はなぜか王立図書館に行っているのですね。
SRですが、面白いスキル持ちなので、スカウトしたこともありますよ》
《あいさつされたのだけれど、私が闘技大会に出るか、誰と出るかと結構しつこく聞かれたわ。
なんだったのかしら》
《ゲームであれば、アウコフ様も最優秀生徒を狙っており、主人公が最優秀生徒になりそうな時は、ライバル宣言しに来て、エンカウントしたような記憶があります。
サブミッションのストーリーは、スキップしていたためあまり覚えていませんが、最初のサブミッションでは平民のくせに生意気だとか言っていたので、その後は、お互い張り合ううちにわかりあい、友情エンドや恋愛エンドに分岐するみたいな流れじゃないですかね。
ゲーム情報から推測すると、彼は、現在、お嬢様が最優秀生徒になりそうだと知り、ライバル宣言するとともに様子を探りにきたのではありませんか》
《ライバルうんぬんは言っていなかったわ》
《オルロー家のほうが、アウコフ侯爵よりも高位ですからね。
回りくどく言ったのではありませんか》
《なるほど!そういうことね!》
確かに、アウコフ様は、礼儀正しかったけれど、なんだかとげとげしかったのは、遠回しにライバル宣言をしていたからなのね!
でも、こういうの、いいわね。
ライバルがいて、ともに切磋琢磨して、最優秀生徒になる!
青春って感じだわ。
ピョートル殿下に会って覚醒してもらいオルロー家の没落を防ぐという目的を忘れたわけではないけれど、私、最優秀生徒になるための争いが、なんだか楽しくなってきたわ。
せっかく恋愛フラグを立てようとしても、ライラは速攻で折ります。




