3 調子に乗ってました
コテージに戻るが、なかなか興奮が冷めやらない。
「お嬢様、王子妃教育修了おめでとうございます。
果実水をお持ちしましょうか」
「ありがとう。いただくわ。
ああ、合格できて、うれしかったわ」
ダイは、どこからともなく果実水を取り出してコップに注ぐと差し出した。
アイテムボックスを使ったのだろう。
そして、ダイは何か考えている様子で言った。
《ゴルトヴァ夫人にスキルを使えば、王妃様にあいさつしなくても合格させてもらえたのではありませんか》
《ズルはよくないわよ。
それに、私のスキルは、使い方が難しいから、いろいろと使い方を試してみたかったの》
《チートはいいけど、ズルはよくないという感覚はよくわかりませんね。
まあ、いいでしょう。
先ほどのお茶会はスキルの使い方の実験だったのですか?》
《そうなのよ。
パッシブスキルは発動を止めることができないわ。
そして、【公爵令嬢のお願い】スキルは、相手に「私の言うとおりにしなくてはならないと感じさせる」スキルでしょう。
だから、相手が、私に対して私の希望をかなえたいと思うような好意を持っていればいいけれど、そういった好意がない場合、なぜ私の言うことに従わなくてはならないのかわからないため、相手がモヤモヤしてしまうのよね。
そのモヤモヤが、私に対する悪い印象になってしまって、私の評判が悪くなっていたわけでしょ》
《まあ、そういう面はありますね》
《そこで、私がお願いしても、相手がモヤモヤしない方法を考えたわけ。
たんにお願いするだけじゃなくて、お願いをかなえると得られる大きなメリットと小さなデメリットを伝えて、かなえたほうが得だと自分で決めるように誘導すればいいのよ》
《また、黒い感じできましたね。洗脳ですか》
《誘導よ。それに、策を弄するのは得意なはずよ。
だって私、悪役令嬢ですもの》
「職場の人間関係に疲れたとき読む本」には、こちらの要望を伝える時は要望をかなえた時のメリットとデメリットを伝えて、相手に選んでもらうようにしましょうというようなことが書いてあった。
メリットのほうが大きいように話して相手を誘導したほうがいいのではないかしら、というのは私の思い付きよ。
今回、私には、3つの要望があった。
・王妃様とできるかぎり会いたくない
・王立図書館に行きたい
・でも王妃様とのお茶会をさぼって王立図書館に行っていると思われて王妃様の御機嫌を悪くするのは避けたい、の3点ね。
だから、王子妃教育を修了したから、王妃様はもう私を指導しなくてもいいというメリットを提示した。また、卒業するために王立図書館で勉強しなくてはならないという私の都合も示し、私のお願いをかなえることができるというメリットも示した。
一方、王妃様に会いたい、とお願いすることで、私のお願いを断らなくてはならないというデメリットを示した。
王妃様は、おそらく、メリットとデメリットを比較して私を当面お茶会に呼ぶのは止めようと自分で選択したと思っているはずだ。
私は興奮したまま、実験の前提として立てた仮説や今回の実験のやり方をとうとうとしゃべった。
私がついに疲れ切って黙った時、それまで静かに聞いていたダイが言った。
《まあ、王妃様も嫌になったのでしょうね》
《え?》
《王妃様は途中から、明らかにいらいらしてらっしゃいましたよ》
《そんなはずないわ。
前世の社会人スキルをフル活用して、王妃様をたくさんほめて、ごまをすったのですもの。
ゴルトヴァ夫人だって、合格だとおっしゃっていたわ》
《合格条件は、お嬢様が王妃様とのお茶会でも卑屈になることなく、楽しめるようになること、だったと思います。
確かに、お嬢様は、王妃様に負ける様子もなく堂々とふるまっておられましたからね。
そういったマイペースこそ、王族に求められるものかもしれませんね。
あと、木彫りのクマの置物を推しすぎです。
もらっても、迷惑でしょう》
《え、木彫りグマは、かわいいし、オルロー領のお土産として一番人気なのよ》
《お嬢様、現地に行ってテンション高い状態で買うお土産と、普通のテンションの時にもらってうれしいプレゼントは違うでしょう。
それに、会話はキャッチボールって、前世で習いませんでしたか?
お茶会では、お嬢様だけがしゃべっていたでしょう》
あ、会話はキャッチボールって、「会社の人間関係に疲れたとき読む本」に書いてあったような気がするわ。
《まあ、目標を達成できたのですから、よかったです。
最優秀生徒になって、ピョートル殿下にエンカウントして、覚醒を促し、オルロー家の没落を回避するため、ぜひがんばってください》
固まっている私に、ダイは淡々と言った。
そ、そうね、失敗は置いといて、明日から図書館、がんばりますわ(テンションは下がってます。)。




