2 王子妃教育修了です
私は、手土産を差し出した。
「あら、ありがとう。
いつも変わった物を持ってきてくださるので、侍女たちも楽しみにしているのよ」
王妃様は、さらっと手土産は侍女に下げ渡しているとこちらを牽制してきた。
今までの私なら、王妃様は王族であるのみならず、将来の夫の母、つまり家族と思い、こういう嫌味もニコニコと受け流してきた。
だが、前世を思い出した私は、すでに今までの私ではない。
そうそう、確か、前世では、「職場の人間関係に疲れたら読む本」という本を読んだことがあったような気がしますわ。
こういった相手には、ええっと、「相手をほめて自尊心を満足させておいて、あとは自分が卑屈にならないように自分の好きなことをしゃべるようにする」といいのですわ。
自分の好きなことをひたすらしゃべるというのは、前世でオタ活をしていた時に同じジャンルが好きな人とやったことがありますけど、楽しいものですわよね!
これなら、私にもできそう。
さっそくやってみますわ。
「まあ、さすが、王宮の侍女を務める皆様は趣味がよろしいですわね!
何が特に好評でございましたか?
やっぱり木彫りのクマの置物かしら?それとも、ヘラジカの角かしら?
どちらもオルロー領のお土産として大人気ですのよ。
まあ、領地に戻れば、どこにでもある、ありふれた、つまらないものでございますけれど、皆様にそのように喜んでいただけるなんて、とてもうれしいですわ。
我が領土は、木がたくさんありますでしょ?
クマもたくさんおりますからね!
木彫りのクマの置物でよろしければ、ぜひ、今度20個ぐらいお持ちさせていただきますわ。
ええ、皆さんにいきわたるようにしなくてはいけませんからね。
あと、王妃様のために、等身大の木彫りのクマをお持ちしましょう。
やはり、特別な王妃様には、特別なクマが必要ですわ。
それに、趣味の良さで知られる王宮の皆様に大人気と伝えれば、一生懸命クマを作っている木彫り職人たちがきっと喜びますわ。
あと、申し訳ありません。
今日は、取り急ぎ参上したものですから、手土産には、このようなお菓子しかご用意できませんでしたの。
つまらないもので恥ずかしいですわ。
こちらも、オルロー領の伝統的な、、、」
私がとりあえず手土産について話を広げていると、後宮の客間のドアがノックされ、王宮で儀礼官を務めるゴルトヴァ伯爵夫人がお見えになった。
儀礼官は王宮の祭事の際などの作法を指導する役職であり、王族と対等に接することを許されている。
なかでもゴルトヴァ夫人は私の王子妃教育の教官を務めてくださっている方だ。
王妃様は、驚きながらもゴルトヴァ夫人を迎え入れた。
「今朝、ライラ様から、ご連絡をいただきました。
ライラ様は、ちょうど今日の午前中に王妃様とお茶会をなさるということでしたので、教育の進み具合を確認しに参りました」
王妃様からご連絡をいただいた際、ダイに転移術で儀礼官の部屋に行ってもらい、ゴルトヴァ夫人に連絡していたのだ。
「さあ、お茶会を続けてくださいな。
私が来る前、たいそう盛り上がっていたようね。
私はいないものと思っていただいてかまいませんよ」
ゴルトヴァ夫人はにこやかにおっしゃる。
「ええ、そうですね」
と王妃様は固くなりつつおっしゃった。
実は、王妃様は、出身家の格があまり高くないこともあり、礼儀作法に苦手意識をお持ちなのか、ゴルトヴァ夫人のことが苦手なのだ。
「ゴルトヴァ夫人、先ほどは、王妃様にオルロー領の名産物についてお話させていただいておりましたの。
オルロー領では、木彫りが名産物でございますのよ。
王妃様は、ほら聞き上手でございますから、私、うかれてしまって、一人でたくさんおしゃべりをしてしまいました。
ごめんなさい、はしたなかったですわね」
「あら、そんなことないわ。楽しかったわよ」
「うれしい、さすが王妃様はお優しいですわ。すてきです。
そういえば、王妃様がお召しになっているドレスの黄色、カナリアイエローというのかしら、とても素敵ですわ。
きっと、今年の流行色になりそう、、、」
私は、こういった感じで王妃様を持ち上げつつ、おしゃべりを続けた。
そして、近況として、スキルがないからスキル理論の卒業論文を出さないと学園を卒業できないのだか、コテージでは集中できなくて困っている、王立図書館なら集中できそうとさらっと言っておく。
王妃様は、興味がないのだろう。
「あら、そう。」とだけおっしゃった。
そろそろいいだろう。
「あら、もうこんな時間ですわ。
楽しくてすっかり時を忘れてしまいました。
ゴルトヴァ夫人、いかがでしたでしょうか?」
ゴルトヴァ夫人はにこやかにおっしゃった。
「合格!」
「ありがとうございます!
では、王子妃教育は修了ですね。うれしい!
これも、王妃様に鍛えていただいたおかげです。
とはいえ、まだまだ王妃様のような淑女には程遠いことは重々自覚しております。
たくさん勉強を重ねて、王妃様のような素敵なレディになれるよう、頑張ります」
実は、私は、半年ほど前、ゴルトヴァ夫人から、王子妃教育ついてはもう教えることはない、あとは実践のみですと言われていたのだ。
ただ、最後に残されていた課題が、王妃様との協力体制の構築だった。
私は、前世の言葉でいうところの、「マウントをとりにくる」王妃様を苦手としており、お茶会で王妃様と同じ席になった時など会話に苦労していた。
そこで、ゴルトヴァ夫人から、苦手な人が参加者でもお茶会を盛り上げなくてはならないとご指導を受け、王妃様のお茶会で楽しく過ごせるようになれば王子妃教育を修了と認めると課題をいただいていたのだ。
王妃様は、あっけにとられたご様子だったが、笑顔を作っておっしゃった。
「あら、おめでとう。
もう、私とのお茶会は必要ないのかしら」
「そんなことはありません。
今日はとても楽しかったですし、また王妃様とお茶会をしたいです。
それに、王妃様には、木彫りのクマの置物を差し上げるとお約束をしてしまいましたから、今度来るときは、必ず持ってきますね!
後宮の入り口に等身大の木彫りのクマが置いてあれば、きっと映えるでしょうね!
ぜひ置いてくださいね!
今は卒業のための論文が忙しいのですが、でも、またお茶会に誘ってください。
私、急いで木彫りのクマの置物を手配しなくっちゃ」
「当面は、卒業論文が忙しいのでしょう?
無理はしなくていいのよ。お勉強を頑張りなさい。
また、落ち着いたら連絡するとよろしいわ」
王妃様はほほえみながらおっしゃったが、少し頬が引きつっていたような気がする。
うん、当面誘ってこないような予感がするわ!
また「ゲームの話じゃない詐欺」の上、引きこもってないのですが、まあ、自宅敷地(王宮)内なので、、、。すいません。
ライラが前世で読んでいた「人間関係に疲れたとき読む本」は、実在しません。
また、その本に書いてあったという内容について、ライラはうろ覚えな上に自分の勝手な解釈で実行しています。
また、王妃様は、ライラの修了試験の内容を聞かされていません。
ライラの王子妃教育の仕上げとして、王妃様に鍛えてもらう、程度の認識です。
王妃様はいろいろと指導したのですが、指導内容が間違っていたり、言っていることに矛盾があったりしたため、以前のライラは結構イライラしていたみたいです。
あと、木彫りのクマの置物をディスっているわけではありません。
ライラは、コテージの入り口脇に等身大の木彫りのクマの置物を飾ってあるぐらいクマ好きです。




