1 領地の様子を聞きました
すっきり目覚めた。
昨夜はリタのマッサージを受けているうちに眠ってしまったみたい。
サイドベッドを見ると、もうリタの姿はなかった。さっさと起きて、朝の用事を片付けてくれているみたいだ。ありがたいわね。
スビートが私の足元で丸まって眠っている。
そうっと起き上がると、気配を察知したリタがポットを持ってやってきて、ほうろうの洗面器にお湯を入れてくれたので、顔を洗う。よく気が付くわね。【剣神】スキルのおかげかしら。
そのまま自分で服を着る。
キアラに任せればきれいに装ってくれるけれど、昨日は遅くまで使用人たちに仕事をさせたし、今朝もオルローから来た使者の世話など忙しそうだから、わずらわせたくない。
それに、自分で服を選ぶとシンプルで締め付けないものを着て過ごせるから、楽でいい。
髪をとかしていると、お湯を捨てに行ってくれたリタが帰ってきて、さっと三つ編みにした髪を上げてくれた。
いつもしぜんと縦ロールになっていたので、髪をとかすだけしかしていなかったけれど、リタ、ドリル髪を編むなんて、すごいわ!
「お姉さまは、そういう大人っぽいのも似合いますね」
「ありがとう、とても気に入ったわ」
お礼を言うと、リタは、少し頬を染めてうれしそうだ。
今日ぐらい、おじいさまが王都にお見えになるかと思っていたけれど、使者の話ではまだ先のようだ。
お茶会やお見舞いの申し込みを承諾している人はもういないし、今日もひきこもるわよ!
昨日の使者も目を覚ましているようだ。
ちょうどいいので、使用人で手が空いている人も皆一緒に朝食をとるように言う。
結局、使者レナートとキアラとテーブルを囲んだ。リタが給仕してくれる。
レナートは30歳ぐらいで、私が領地にいたころのことを覚えていた。
その頃は新米の兵士だったが、お転婆だった私が木に登ったり、森で迷子になったりと騒動を引き起こした時に巻き込まれていたようだ。
ごめんなさいね。
「いや、もう、すっかり大きくなられて、オルロー領に帰ったら皆に自慢しますよ」
「懐かしいわ。卒業したら1回はオルローに帰りたいわね」
「お嬢様がお帰りになったら、みんな喜びますよ。
いや、びっくりするかな。やんちゃだったお嬢様が、こんなにきれいになっているから」
「あら、ありがとう。ここまでの道中はいかがでしたか。1日半で王都まで来てくれたのですもの、大変だったでしょう」
「早く届けたほうがいいと思いましたので、馬に無理をさせました。
俺は、この通り、すっかり元気ですよ。
でも、ここはオルローよりちょっと寒いですね。凍えそうです。
公爵様が着いたら、早くオルローに帰りたいです。
オルローでは、農作業が終わって少し時間があるので、みんな、会えなかった人に会ったり、溜まった用事を片付けたりしていたのですが、ドラゴンのなわばりに侵入者がいるという警告が出て全部吹っ飛びました。
自分も、親に頼まれて実家の塀にペンキを塗っていた途中だったので、気になります。
まあ、ドラゴンについては結果として何事もなくてよかったのですが、王都の近衛隊長の息子がドラゴンを挑発したそうじゃないですか。
オルロー領では、若旦那が抑えていますが、王家の陰謀じゃないかと言ったうわさが流れていて、商業ギルドや冒険者ギルドのお偉いさんたちが抗議するために王都に来ると言っているようです。
こちらに来る途中の町でも、ドラゴンのことは関心が高く、ちょっとした休憩時にいろいろ質問されました。
まあ、俺は黙っていましたがね」
「そうね、王家は、何も知らなかったと言っているけれど、それでもその抗議は聞かざるを得ないでしょうね。
若旦那、ってお父様のこと?
お父様はお元気かしら。オルローを出て以来、全くお会いできていないのよ」
「そうです、次期公爵様なんですが、みんな気安く若旦那と呼んでいます。
若旦那がうまく指示してくれるので、麦や野菜の取れ高も上がっているし、災害の対応もできるし、本当にありがたいですよ。
ただ、王都には全く顔を出さずに、領官の仕事に専念してらっしゃるから、みんな少し心配しています。
若奥様も、お元気ですよ。
御存じのとおり私兵団の騎士出身ですから、俺たち兵隊のことや兵団の運用のこともよくわかっていてくださるので、助かっています。
時々、若奥様が先頭に立って魔獣退治に行くのは、危険だからやめてほしいですけれどね。
今回のドラゴン騒ぎでも、団長がお帰りになるまで若奥様が指揮を執ってくださいました」
リタが食器を下げて、デザートとお茶を用意してくれる。
「マルガリータちゃん、そういえば若奥様が懐かしがっていたよ」
「まあ、ありがとうございます」
そういえば、リタはお母様と魔獣退治で一緒になったことがあると昔言っていたわね。
すっかり懐かしい気持ちになった。
レナートさんは、朝食が終わると、タウンハウスに行った。
私とリタはそのまま試験勉強をすることにした。
用事を片付けたキアラが数学を教えてくれる。
とはいっても、こちらの数学は加減乗除にちょっとした図形で、日本の小学生から中学生レベルだ。
二次方程式の問題だと思って解いていたら、つるかめ算の方式しか教えられていないみたいで、キアラに驚かれたので、慌てて止めた。
休憩のため、リタと一緒にお茶をいただく。
「リタは、お母様と仲がいいのかしら」
お母様は、もともと貴族の出身ではなく、兵団に勤務していた縁でお父様と結婚したと聞いている。
このため、アルテリア学園を卒業していないこともあってあまり社交が得意ではない上、お父様が領地にこもっていることもあり、年に数回しか王都にいらっしゃらない。
一緒にいる時はかわいがってくださるけれど、私は王子妃教育だのなんだので忙しかったし、お母様はお母様で、狩りや鍛錬がお好きなのでいまいち話が合わない。
「そうですね、若奥様は、まだ小さかったころにお会いしたことがあります。魔獣狩りを頑張るよう、励ましてくださいました」
「お母様もおじいさまと一緒にこちらにいらっしゃるのかしら。
そういえば、ギルドの人たちもいらっしゃると言っていたわね。
王家への抗議は激しくなるのかしら」
「そうですね。
オルローの人は、みんな気はいいのですが、冒険者ギルドや工業ギルドには気が荒い人もいますから、少し心配です。
あと、レナートさんはここに来る途中、質問があっても黙っていたというけれど、あの人は調子がいい、おしゃべりおじさんですからね」
私は、リタと顔を見合わせると、少し冷めたお茶を飲んだ。




