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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第七章 過去との対峙

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第405話 凛とヘッドハンティング5

「そこは、回収エネルギーの再利用で補います」


 わずかに息を整える間に、淀みのない声で凛が動いた。

 同時にタブレットを取り出し、既に開かれていたページを迷いなく表示させる。準備していたのではなく、“来ると分かっていた”動きだった。


「高圧排水のエネルギー回収システム」


 指先が図面の一部を正確に捉え、鷹宮の視線が落ちる。

 余計な説明はない。必要な箇所だけを、的確に示していた。


「高圧排水のエネルギー回収システムを組み込めば、消費電力は三割ほど削減できます」


 凛の発言は、断言だった。揺らぎも迷いもなく、数字だけではない。その裏にある前提条件や計算過程までも、すでに整理し終えている者の言葉だ。

 場の空気がわずかに変わるが、鷹宮は何も言わない。示された図面を見つめたまま――微動だもせず、沈黙は妙に長く引き伸ばされて感じられる。視線の圧だけが、静かに場を支配していた。


「……なるほど。そこまで調べているとは思わなかった」


 やがて、鷹宮はふっと口元を緩めた。それは先ほどまでの“試す側”の笑みとは、わずかに質が違っていた。

 評価か、あるいは――興味か。少なくとも、軽く見ていた相手に向けるものではない。


「事前準備は大事なので」


 間を置かない凛の返しは、相手の変化を見逃していない証拠だった。

 柔らかな笑み。だがそこには、はっきりとした自信が宿って見える。受けに回らず、対等に立つ。――そう言わんばかりの表情だった。


「では、君はどう思う?」


 不意に鷹宮の視線が、静かにこちらへと向けられる。それまで凛へ向けられていた“評価の目”が、そのまま移ってきたかのようだった。

 逃げ場はない。試すような色は薄いだが――その分、より直接的に“本質”を問われている。


「……正直に言います」


 一瞬だけ言葉が喉の奥で引っかかるも、頭の中でいくつもの選択肢が浮かんでは消える。

 だが――長くは迷わない。ここで取り繕ったところで、意味はないとわかっていた。


「このプロジェクトは、かなり大きいです」


 言葉を選ばず、そのままを口にする。

 ブルーフロンティア計画。太平洋のど真ん中に人工島を築く――常識で測れば、現実離れした構想。理想論と切り捨てられても、おかしくない規模の話だ。


「でも——あなたの技術が入れば、現実になると思います」


 視線を逸らさず、言葉に余計な装飾は乗せない。理屈や打算ではなく、信じたことをそのまま投げる。それでこそ相手に届かせる、真の“重さ”が乗ると思ったからだ。

 ほんのわずかに――鷹宮の眉が動く。その変化は微細だが、確かに反応している。


「だから、来てほしい。本心から、そう思っています」


 飾らない言葉は交渉として見れば、あまりに直線的で隙だらけかもしれない。だが――その分だけ、濁りがないはずだ。

 ラウンジの空気が、わずかに静まり返った。周囲の音が遠のき、この場だけが切り取られたような感覚。鷹宮はすぐに答えはせず、観察するようにこちらを見つめている。

 先ほどまでとは、どこか違う視線。しかしその沈黙は決して空白ではなく、むしろ何かが確かに動いている“間”に思えた。


「……面白い」


 わずかな間を置いて、鷹宮はそう呟いた。

 静かな笑み。だがそれは、先ほどまでの柔らかさとは異なる。観察を終え、一定の結論を出した者のそれだった。

 ゆっくりと、指を組む。その仕草一つで、場の主導権が再び引き寄せられる。流れに乗りかけた空気が、静かに巻き戻されていくのがわかった。


「一人は理詰め。もう一人は直球。悪くない役割分担だ」


 鷹宮の言葉は軽く聞こえるが、その実しっかりと見極めた上での整理。

 評価だった。凛の論理と、こちらの言葉。その両方を、正確に受け取っている。


「だが——私を動かすには、まだ一歩足りない」


 鷹宮の視線が、ゆっくりと二人の間を往復する。試すように測るように、逃げ場を与えない距離で。

 小さな笑みは、余裕ではない。“次を引き出す側”の笑みだった。


「ではその一歩、教えてもらえますか?」


 すぐに応じる凛の目は、わずかに輝いて見える。

 引いたのではなく――むしろ、踏み込む準備を整えた光。姿勢を正し真正面から問いを投げるのは、受けではなく取りに行く構え。


「君たちの覚悟を見せてほしい」


 鷹宮は表情を崩さないまま、静かに言い切った。その言葉に、余計な説明はない。だが――重く、技術でも理論でもない。人間性を晒し出せ、と言っているかのようだ。

 ラウンジの窓から差し込む光が、三人のテーブルを静かに照らしていた。穏やかなはずのその光景が、この場に限ってはやけに鮮明で、逃げ場のなさを際立たせる。きっと、ここからが本番なのだ。


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