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終末の黙示録  作者: 無神 創太
第七章 過去との対峙

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第401話 凛とヘッドハンティング1

 朝の空気はまだひんやりしていた。

 昨夜の熱気が嘘のように、通りには静かな光が落ちている。店の看板も消え、街はすっかりいつもの顔に戻っていた。


「……眠ぃ……」


 目をこすりながら、ぼそりと呟く。目の下にはうっすらと影ができて、昨夜のせいで完全に睡眠時間を削られている。

 思い返せば――昨日の夜。


「若いうちは回復が早い!!」

「まだまだ夜は終わらねぇ!!」


 司が勝手なことを言い出し、ガイがそれに乗って勢いづく。

 そんな流れで、結局ずるずると店に残ることになり、気づけば夜どころではない。そんな時間まで、付き合わされていた。


「……さすがにきついな」


 まぶたが重い。目はしぱしぱしているし、頭もどこかぼんやりする。耐えきれず、大きなあくびを一つこぼすくらいだ。


「蓮夜くーん!!」


 通りの向こうから、弾むような声が飛んできた。

 ゆっくりと顔を上げると、朝の光の中――こちらへ駆けてくる人影。白を基調としたワンピースに、胸元には大きな赤いリボン。頭にはボルドー色の柔らかなベレー帽と、手を大きく振っている少女――同じ選択者の紅凛だった。


「おはよ!!」


 凛は息も弾ませず、いつもの調子で笑う。


「……おはよ……」


 対してぼんやりとしたまま、手を上げて応えた。声もどこか、眠気に引きずられている感じだ。


「……」


 すると凛はそのまま近づいてきて――ぴたり、と足を止めた。

 言葉はない。ただ、まっすぐに視線だけが向けられている。凛はこちらの顔を、じっと観察するように見つめていた。


「どうした?」


 視線の意味がわからず、目を擦りながら問い返す。


「蓮夜くん」


 凛は一歩だけ、身を乗り出す。さっきまでの明るい雰囲気は消えて、真剣な顔つきだった。


「すっごく眠そう」


 凛は眉を少し寄せ、顔を覗き込むようにして言った。


「実は昨日、司たちに連れ回されてさ……」


 頭を掻きながら、苦笑いを浮かべる。

 スナック紬での出来事。司とガイの馬鹿騒ぎに巻き込まれ、気づけば帰宅はかなり遅い時間になっていたこと。そんな昨夜の顛末を、簡単に説明した。


「……」


 だが、話し終えても凛はすぐには何も言わなかった。

 視線だけが、どこか遠くを見るように宙へ向いている。その沈黙に――ほんの少しだけ、嫌な予感がした。


「蓮夜くん」


 ゆっくりと名前を呼ぶ凛の声は、声は優しいけれど――いつもより少しだけ低い。不思議と逆らえないような響きがあって、思わず背筋を伸ばしてしまう。


「夜更かしはだめだよ。体調を崩したらどうするの?」


 まっすぐ向けられる視線に、凛の言葉はどこまでも正論だった。


「……」


 返す言葉がすぐには出てこない。確かに、付き合いとはいえ無理をしたのは事実だ。


「……付き合いなのはわかるよ? でもね、自分の体はちゃんと大事にしないとだめ」


 凛は小さくため息をつくも、その声音は責めるようなものではない。どこか心配しているような、やわらかな優しさが滲んでいた。


「……だよな。これからは気をつけるよ」


 指摘されていることは、まったくその通りだ。小さく息を吐き頷きながら、反論の余地はない。

 むしろ――自分でも、どこかで思っていたことだ。付き合いとはいえ、昨日は少し無理をした。反省すべき点は、きちんと反省するべき。


「うん。素直なのはえらい」


 凛はじっと顔を見つめ、それからふっと笑った。ぽんと軽く肩を叩き、いたずらっぽく指を一本立てる。


「睡眠はちゃんと取らないとね」

「そうだな。体調管理もできなければ、一人前を名乗れないぜ」


 凛は満足そうにニコっと笑い、助言を素直に受け入れていた。

 睡眠不足がパフォーマンスを落とす――そんなことは言うまでもない。集中力も、判断力も、身体能力も大きく鈍る。そこにポジティブな側面など、ひとつもないのだから。


「蓮夜くんを連れ回した人たちには、あとでちゃんと注意をしておくから」


 凛は笑顔のまま言った。だが、その笑顔にはどこか妙な迫力がある。

 普段の凛は、可愛らしくて柔和な雰囲気の少女だ。


 ……怒らせると、一番怖いタイプなんだよな。


 けれど――内心では、そっとそう思っていた。


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