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異世界転生不幸共有ーこれで世界救えますか?ー  作者: 飛翔カケル
第一章 あなたは世界を救えますか?
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いいえ、亡くなりました

 意識がゆっくりと浮かび上がる。


 さっきまで頭を打った鈍い痛みも、体を押し潰した物の重さも消えていた。

 恐る恐る目を開ける。そこは真っ白な空間だった。壁もない、天井もない。

 床だけは確かに存在するのに、どこまでも白が続いていて、境界線すら見当たらない。不思議と眩しさはなく、静寂だけが耳に残る。


「あ。ここ病院じゃないな」


 何が起きたのかは全てを把握しているわけではないが、何らかの事故のあとなら病院が定番だろう。

 だが、この場所は消毒液の匂いもしなければ、心電図の電子音も聞こえない。現実離れしすぎている。


「ええ、ここは病院ではありません」


 澄んだ声が返ってきた。

 声のした方へ視線を向けると、一人の女性が静かに立っている。

 銀糸のような長い髪。

 雪のように白いローブ。

 どこか人間離れした整った顔立ちに、青く澄んだ瞳が真っ直ぐこちらを見つめていた。

 綺麗だ。

 テレビや雑誌で見る芸能人とは違う。作り物めいた美しさではなく、神話の一枚絵からそのまま抜け出してきたような…幻想的な存在だった。


「…あれ?」

「急な展開で混乱するかもしれませんが、私は迷える魂を転生させる担当をする女神、セレスと申します」


 物腰低く、それでも心の通った言葉に戸惑いが浮かぶが、今聞き捨てならない単語が聞こえたな。


「え? 女神?」

「はい」


 即答だった。あまりにも迷いがない。どこかのコスプレとかではなく、本物の女神? アニメの見過ぎかな。俺が変な夢でも見ているのだろうか。逆に彼女の言葉が怪しく感じる。


「宗教の勧誘はお断りだから」

「違います」

「あ。じゃあドッキリ? 俺はそんなドッキリ詐欺にも遭いませんからね!?」

「違います」

「じゃあ夢か。夢の中でなら俺があなたに何をしても自由ですよね! 犯罪にならない」

「その発想は今まで担当してきた者の中で初めてですね…」


 自称女神様は初めて表情を崩し、こめかみを指で押さえた。

 その仕草だけで妙に人間臭くて、神秘的な雰囲気が少しだけ台無しになる。いや、これは俺のせいなのかもしれない。


「先程も言いましたように、急なことで混乱なさっているのかもしれません。でないとそういった発言はしないはず。私はそう信じたい…。今からお伝えすることは事実ですし、更に混乱を生むことになるかもしれませんが」

「え。なんすか。笑顔でストレートに言ったほうが相手には伝わるよ」


 俺の言葉にわかりましたとも言うような笑顔で自称女神様は信じられないような言葉を告げる。


「あなたは死亡しました」


 わお。殴りたい、この笑顔。人の死をそんなに綺麗な笑顔で言うことがあるのか。


「マジで?」

「はい、マジです」


 あまりにもあっさり告げられた。もっとこう、神妙な空気とかないのか。俺の人生、三秒で終了宣告されたんだけど。


「死因は?」


 尋ねると、女神は一瞬だけ視線を泳がせた。言いにくいことなのだろう。近くに現れた一冊の書類を開き、小さく咳払いをする。


「ガチャを引いて虹色確定演出が出て興奮し、その場で火事が発生していたにも関わらず、それを自身の情熱の熱さだと勘違いして、気付いた時には手遅れでした。…とそういう流れですね」

「恥ずかしい!」


 せめて誰かを庇っての交通事故とか! せめて階段から落ちたとか! どうして人生最後がガチャに勝った勢いで自爆なんだ!


「担当部署でかなり話題になりましたよ。私の担当だったので私は恥ずかしかったですが」

「やめて!」

「『今年一番締まらない死因ランキングトップ候補』です」

「そんなランキングあるの!?」


 死んでまで黒歴史を更新するとは思いもしなかった。来世には持ち越したくない情報ランキング一位である。

 女神は書類を閉じ、何事もなかったように微笑んだ。


「人生全うして来るならともかく、あなたは若くして亡くなりました。人生半ばで終わりを迎えてしまった魂を転生させるのが私の仕事となります。これはあなたに拒否権などないものだと思ってください。それでは…転生特典を選んでいただきます」


 白い机が音もなく現れる。その上には、六枚のカードが等間隔に並んでいた。

 それぞれが淡く光を放ち、いかにも「選ばれし者の能力です」と言わんばかりの神々しさを漂わせている。


【剣聖】

【勇者】

【大魔法使い】

【聖騎士】

【錬金術師】

【ドラゴン】


 如何にもというような単語がずらっと並んでいた。ゲームとかでよくある選択肢だ。


「普通だな」

「え?」

「もっとこう……『自販機になる』とかないの?」

「ありません」

「じゃあ『スライムより弱い勇者』とか」

「ありません」

「『畑だけ最強』とか……」

「ありません」

「つまんねぇ!」


 バンッ! と女神が机を叩いた。

 さっきまでの神々しさはどこへやら、完全に笑顔でキレている。


「あなたは注文が多いですね! クレーマーですか!」

「だって異世界だぞ!?」

「普通に勇者でいいじゃないですか!」

「嫌だ!!」

「なんでですか! テンプレでいいでしょう!?」


 しばらく睨み合う。静寂が落ちた。

 さっきまで感情的になっていた女神は、長い溜息を一つ吐くと、観念したように肩を落とした。


「……では、普通じゃ嫌だと言うのなら最後の一枚です」


 そう言って彼女が指先を向ける。机の一番端になかったはずのカードが光とともに現れた。しかし、すぐに光を失う。端はわずかに欠け、表面の文字も擦り切れて読めなかった。

 まるで触れるなとでも訴えている不気味な存在感がある。


「これは?」


 俺が手を伸ばしかけると、女神はピクリと方を震わせる。


「……おすすめはしません」

「逆に気になるんだけど。その物言い」


 即答だった。人間、おすすめしないと言われるほど興味をそそられる生き物なのである。

 そんな俺とは真逆の困ったような反応を見せる女神。眉が下がっているじゃん。


「本当に?」

「もちろん」


 彼女の問いかけにも俺は迷わない。

 女神はカードと俺の顔を何度も見比べた。まるで「まだ引き返せますよ?」と無言で訴えているようだった。


「苦情は受け付けませんよ?」

「いいよ」

「返品不可ですよ?」

「いい」

「交換もーー」

「いいってば!」


 勢いよくカードを掴む。次の瞬間には眩い閃光が白い空間を埋め尽くした。カードはガラス細工のように砕け散り、光の粒となって宙へ消えていく。 

 その様子を見た女神の表情から、一瞬で血の気が引いた。


「あ」


 さっきまで冷静だった女神とは思えない、間の抜けた声。


「間違えました」

「え?」

「それ没の中でも一番没スキルでした」

「え。……ん? 没?」


 聞き返すと、女神はまたこめかみを押さえ、今にも倒れそうな顔で説明を始める。


「創造神が、これは失敗作だと判断して封印したはずの能力です」

「は?」


 嫌な予感しかしない。


「名前はーー」


 女神がごくりと唾を飲み込んだ。神様でも緊張することがあるらしい。震える声で、そのスキル名を告げる。


「《不幸共有アンラッキーリンク》」

「……なにそれ」

「あなたが不幸になると、周囲も巻き添えをくらいます」

「最低じゃねーか!」

「しかも周囲の感じた不幸も、あなたにも返ってきます」

「もっと最低じゃねーか!」


 女神は取り繕った笑顔で…。


「つまり……全員が不幸になります」

「なんでその封印を解いた!?」

「あなたが引いたんですよ! 出したのは確かに私のミスでしたが!」

「お前が止めろよ!」

「止めてましたよ!?」

「もっと本気で止めろ!」


 女神は両手で頭を抱え、その場にしゃがみ込んだ。今そこにいるのは、仕事で重大なミスをやらかした新入社員のような女神だった。


「……世界が荒れます」

「今更言うなぁぁぁ!」


 その叫び声を合図にしたかのように、白い床一面へ巨大な魔法陣が浮かび上がる。複雑な紋様が次々と光を帯び、低い駆動音のような響きが空間を震わせた。


「て、転送開始です」

「おい! 説明不足!」

「まとめて言えば頑張ってください!」

「待て待て待て!」


 慌てて手を伸ばしはしたものの、光は容赦なく体を包み込み、足元の感覚がふっと消えていく。


「あ、ちなみに初期装備は木の棒です!」

「装備ですらねぇぇぇぇ!」


 最後に見えたのは、申し訳なさそうに頭を下げる女神の姿だった。

 そして視界は白く塗り潰されーー。

 こうして俺は、世界一迷惑なスキルを押し付けられたまま、異世界へ放り出された。

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