第99話 魔王と血の女王
アルマが指名をくれた新規姫の席へと到着すると、目の前にはスカートがこれでもかというぐらい短い赤いドレスを着た、妖艶な雰囲気を放つ女性が座りながらワインを飲んでいる。
(こ…これが白石の言っていたダイナマイトボディか…。はじめは何を言っておるのか分からんかったが…なるほど…これをダイナマイトボディと初めて表現した者は天才であるな…。)
思わずアルマはゴクリと生唾を飲んでしまう。それほどの魅力に、挨拶も忘れて惚けたまま立っていると姫が話し掛けてきた。
「あら?あなたが噂のアルマかしら?」
「はっ!?そ!そうだ!我がこのホストクラブのオーナーであるアルマという!指名した事を褒めて遣わす!」
「うふふ…。面白いのね。でも、まずは座ったらどうかしら?」
緊張のあまり、アルマは姫に促されてからやっと席に着席した。
「初めまして。私はローゼンっていうの。気軽に呼んでね。」
「我は魔王アルマだ!一緒に乾杯してもよいか?」
「どうぞ。私、赤ワインが大好きなのよ。」
「我もワインは大好きだ。って!?これはロマネ・コンティではないか!?どちゃくそに高いが大丈夫なのか!?」
「あら?そうなの?1番良い赤ワインを出してって言っただけだから知らなかったわ。」
アルマは、ガタガタ震える手でワインをグラスに注ぐと、ローゼンと軽くグラスを合わせて乾杯をする。
「美味しいな…。こんな赤ワインは飲んだ事がない…。」
「そうね、美味しい…けど何かが足りないのよね。」
「これよりも美味い赤ワインを飲んだ事があるのか?」
「えぇ。私が故郷で作っていたのだけれど…あるものを入れると凄く美味しくなるのよ。」
「あるもの?」
アルマがそう聞き返すと、ローゼンは距離を詰めて腕組みをしてきた。大きな胸が肘に当たっているアルマは鼻の下を伸ばして顔が真っ赤になっている。
そして、ローゼンはアルマの耳元に口を近付けると、艷っぽく舌で唇を舐めてから囁いた。
「血をね…。入れるの…。多ければ多いほど…美味しくなるのよ…。」
「血…だと…?貴様は何を言っている?冗談か?」
ローゼンの予想外の答えに、アルマはスケベな気持ちは一瞬で消えて真顔で彼女の顔を見る。
すると、アルマに見つめられ、艶っぽく笑ったローゼンの口の中に、異様な牙みたいな歯が前歯の横に2本見えた。
「おい…。その牙はなんだ?というか、貴様は一体何者なのだ?」
「私の事が気になるなら…屋上に来て…。私が先に行ってるから…待ってるわね。」
ローゼンはそう言い残すと、店の出口の方へと歩いていった。
「またややこしい事が起きておるのか!こういった時に限って女神からは何の連絡もないではないか!」
アルマはローゼンの後を追うかどうかで少し迷ったが、このままではまた周りの人間を巻き込んでしまうかもしれないと思い、覚悟を決めて屋上へと向かうのだった。
その様子を遠くから見ていたユウナは、店を出ていくローゼンとアルマに嫉妬心を燃やしていた。
「あー!アルマが女の人と出ていった!あのテーブルの上にあるボトルは…たぶんロマネ・コンティね!ぐぬぬ…高級ボトルを入れてもらったからって!」
すると、悔しがっているユウナの横の席で、それを鼻で笑う女の子がいる。なんとそれはライバルなはずのノンノであった。
「ふっ。あの程度で嫉妬なんてみっともないねー!ノンノなんか余裕だもん!」
「うるさい!っていうかなんでいつも私の隣に座ってくるのよ!」
「知らないもん!ノンノだって好きで隣にいるわけじゃないもん!」
アルマを想い過ぎるが故に、いつの間にか犬猿の仲になっていた2人は、今にも激しい口論を始めようとしている。
そんな2人の前に、たまたま通りすがった白石が一言添える。
「面倒臭いからです。2人を引き離すと今の口論よりも面倒な事になるので、アルマさんから隣同士で案内するように頼まれたんですよ。」
「アルマが!?面倒って何なんですか!?」
「そうだよ!ノンノ達が隣に居る方が揉めるの分かってるでしょ!」
「離れた席にすると、お二人共、アルマさんに根掘り葉掘り相手の事を聞くでしょ?それがストレスになってアルマさんは最近胃潰瘍になりかけたんです。魔王が胃潰瘍ですよ?必死で胃薬飲んでる魔王は嫌でしょ?
なので、その面倒臭い質問攻めを無くすために、何も隠さず隣同士で接客する事にしたんです!」
「むむむ…アルマにそんなにストレスを与えてたなんて…ごめんなさい…。」
「アルマ様…ノンノがその胃を癒してあげますからね!そのためにはやっぱシャンパンだよね!白石さん!ドンペリ5本持ってきて!」
「あっ!私だって!白石さん!こっちもお願い!」
「あのアルマさんの何が良いんだか…。分かりましたけど、お二人共あまり無理をしないで下さいね!」
白石が注文をキッチンの方に通すために、ノンノ達のテーブルを離れようとした時、蘭が2人の所にやって来た。
「あれ?蘭さんはアルマさんのヘルプですか?」
「うん…そんなとこかな…。」
(あれ?蘭さん元気ないな。目もなんか虚ろだし…。酔ってるのかな?)
いつもとは少し雰囲気の違う蘭に違和感を感じながらも、蘭に限って粗相はないだろうと思い、白石はさほど心配せずにキッチンへと向かった。
――そして、ペルソナの入っているビルの屋上にアルマは到着する。
そこには、屋上の真ん中辺りで綺麗な満月を見上げているローゼンの姿があった。
月光が照らす彼女の姿は、警戒するアルマでさえ、美しさで息を呑んでしまう程だった。
「おい、ローゼンと言ったか?我がわざわざ来てやったぞ。貴様が何者か正直に答えよ。」
「お誘いに乗ってくれて嬉しいわー!どうする?月の下で一曲踊ってみる?」
「ふざけるな!貴様はこの世界の者ではないな!」
「あら、つれないわね。良いわ。私の正体ぐらい教えてあげるわ。
私の名前はローゼン・ブルート。ヴァンパイアの女王をしていたの。よろしくね!」
「ヴァンパイアの女王だと…そんな奴が我に何の用なのだ!」
「色々あってねー。簡単に言うと、ヤオって神と戦った者達をみんな殺せって事なのよね。
ごめんね。恨みは別にないんだけど。」
「そういう事なら分かりやすいな。我が今から貴様を塵にしてやるわ!」
「あははは!面白い事言うのね!私を塵にする?そんなに弱いのに?」
「たかがコウモリ如きが!覚悟せよ!」
「うふふ…やる気満々な所に悪いんだけど、まだそんなに激しくプレイはできないのよ。私が煽ったのにごめんね。
だから…面白い余興をしてあげる。」
アルマの出鼻を挫くように、ローゼンは怪しく微笑みながらそう言った。
「余興…だと…?」
すると、アルマの背中側にある扉が開き、そこから3人の人影が姿を現した。




