第100話 魔王と最悪の2択
屋上の扉が開き、そこから現れた3人の人影の正体は、虚ろな目をした蘭と、その蘭に首根っこを掴まれたユウナとノンノであった。
「ユウナ!?ノンノ!?蘭よ!一体何をしておるのだ!」
「…………。」
アルマの質問に、顔をピクリとも動かさず一切の反応を見せない蘭は、ノンノ達を掴んでいる両手を上げる。
それによって、足が地面から離れたノンノとユウナは苦しそうな表情になった。ユウナに関しては、首が締まりすぎて気を失ってしまったようだ。
「蘭!やめるのだ!」
状況が中々掴みきれずに焦るアルマに、苦悶の表情を浮かべながらノンノが今の説明をする。
「アルマ様!ダメだよ!蘭さんは…たぶん誰かに操られてる…。ノンノ達は蘭さんに…『アルマっち達のいる屋上に行こう』って誘われたの…。
そしたら、その扉の前で蘭さんの態度が急変して…。本当なら…腐敗の力を使えば何とでもなるけど…それだと蘭さんが死んじゃうから…。」
「くそっ…!そういう事か!ローゼン!貴様が蘭を操っているのだな!?」
「そうよ。さっきすれ違いざまに私がカプッと噛んであげたのよ。あなた達と凄く仲良さそうだったから…。
私に噛まれた者はヴァンパイアの眷属になるの。だから、今その男は私の操り人形ね。」
「余興だと言ったな…。これは我を怒らせるための余興か…?」
「そういうつもりは無いんだけど、今私には鬱陶しい神の印がつけられてるのよ。」
そう言うと、ローゼンは胸元に刻まれた神の印をアルマに見せた。
「この印がついている間は自由が利かなくてね。この世界の一般人に危害を与えるとまた封印されちゃうのよ。
でも、このぐらいなら印は反応しないみたいね。あなたの強さを測るついでに、シュシュって子に『どこまでなら一般人に手を出しても良いか』って実験を頼まれててね。良い情報を手に入れられたわ。」
「ペラペラとうるさい!その実験とやらが終わったのならあいつらを解放せよ!」
「ダ〜メよ。ここからが楽しいんだから…。一目見た時から気になってたんだけど…。
あなたって…本当に魔王なの?」
「何が言いたい!!」
「だって、あなたって人間と楽しそうにしてるじゃない。魔王って言えばもっと残虐なはずでしょう?あなたからはそんな魔王らしさが感じれないのよね。」
「あれらは我の配下だ!何も知らぬくせに好き勝手言うな!我は魔王だ!必要とあらば世界を破滅させる事に躊躇などない!」
「そうなのね。じゃあ私の今からする問いにもすぐ答えられるって事ね。」
そこでローゼンが指を鳴らすと、蘭が2人を持ち上げたまま彼女の横へと移動する。
「2人の内の1人を選びなさい。選んだ方は助けてあげる。」
「貴様に命令されて何故そんな事に付き合わねばならんのだ!それに、ユウナを手にかければ貴様は封印されるのであろう?ならば2択にすらなっていないぞ!」
「大丈夫よ。殺すのは私ではないし、この男が殺すのだから関係ないわ。」
「く…。」
ローゼンとアルマが問答をしている所に、ノンノが割って入る。
「アルマ様!私は…!大丈夫ですから…!ユウナちゃんを助けてあげて下さい!
ただの人間の男に殺されるほどノンノは弱くないですから…!」
「あら、勘違いしてるようで悪いけれど、その男は女王の眷属になったのよ。その辺の雑魚と同じと思ってもらっては困るわね。
それに、あなたはこの世界の一般人じゃないでしょ?それなら私が殺しても問題ないのよ。」
「あなたが相手だろうと…!ノンノはただでは負けないから…!」
「やめよ!ノンノ!」
自分の身を犠牲にしてでも、この場を何とかしようとするノンノを、アルマが俯きながら叫び止めた。
「アルマ様…。」
「2択か…。もうよいわ。我は決めた。」
「あらそう?それならどちらを選ぶのかしら?」
「愚問だ。二人共助ける。」
「残念ね。じゃあ終わりよ。所詮あなたは腑抜けの魔王って事ね。」
ローゼンが手を挙げて合図を蘭に送る。だが、蘭は身体を震えさせながら抵抗を始めた。
「なんなの?私に逆らっているとでも言うの?」
「ククク…。貴様は人間を舐め過ぎだ!まぁ、我もこちらに来た頃はそうであったのだがな…。
蘭の目の奥の光は消えていなかった。それにな、蘭は我のホストとしての師匠だぞ!そんな人間が、操られようとも女を手にかけるはずがなかろう!」
そして、アルマは瞬時に蘭の背後を取ると、軽く首元を手刀で叩く。
それにより、蘭は気を失ってその場で倒れ込みそうになるが、アルマはユウナと蘭を抱きかかえてそっと地面に寝かせた。
「よくぞ踏みとどまったな、蘭よ。嫌な思いをさせた…。後は我に任せよ。」
「ゲホッ!ゲホッ!アルマ様、ノンノがついていたのにごめんなさい…。」
「良い。気にするな。ここで蘭とユウナをしばらく守っていてくれるか?」
「分かったよ!でも…あいつ強いとかって次元を超えてると思うんだけど…。」
「たった一つだけなんとかなるかもしれん手がある。それにはノンノの力が必要だ。力を貸してくれるか?」
「もちろん!!」
ローゼンは、人が苦悩し堕ちていく様を見たかったはずが、なんとも面白くもない結果になってしまい、怒りをあらわにしていた。
「あーあ…。せっかく楽しみたかったのに…。私が自由に動ければこんな結果にさせなかった…。本当に面倒臭い印のせいで台無しよね…。
まぁ…でも…あなたが戦ってくれるのなら…ちょっとは楽しくなりそうかしら…?」
そして、ローゼンは赤いオーラを徐々に纏うと、紫色だった髪の毛が血のように真っ赤に染まっていく。
「アルマ様…。やっぱりここは逃げた方が良いんじゃない…?あいつ…ノンノ達みたいな魔王候補だった者なんか足元にも及ばない力を持ってるよ…。」
「逃がしてなどもらえるはずがなかろう…。だから我が戦うのだ。」
「でもどうやって!?アルマ様の力はほとんど無くなってるんだよね!?」
ノンノの言う通り、アルマは先程からオーラを出そうとするが、瑠偉と戦った時よりも少ないオーラしか出せずにいる。
だが、アルマはノンノ達を守るような形で前に立つ。
「ノンノよ。今から言う我の質問に正直に答えよ。」
「う…うん。」
すると、アルマはノンノが予想もしていなかった質問をしてきた。
「ノンノ!我を愛しているか!?」
「えー!?急に!?」
突拍子もないアルマの質問が、満月が輝く五右衛門町の夜空に響き渡った。




