第97話 魔剣王 VS 剣神
まだ完全に回復していない身体でガイアスは事件の概要を語り始めた。
「拙者が魔剣を使ってこの姿に戻ってすぐに戦闘が始まったでござる。
相手は刀を持ったご老人の方でござった。」
――ガイアスは真の姿に戻ると、間髪入れずにシャクレンへと攻撃を仕掛ける。その攻撃は、10mほど離れていた距離を瞬時に詰める速さであった。
ガイアスの体勢は低く、剣を横一閃に振り抜く。ハル戦で見せたスピードと剣筋とは比べものにならないものであり、ガイアスの真の力を測るに十分な一撃であった。
だが、そんな鬼気迫るガイアスの剣を、シャクレンはゆっくりとした動きで刀を抜いて止めた。『コン…』という静かな音がしただけで、激しい金属のぶつかり音などはしなかった。
「ほっほっほっ!なんとなんと素晴らしい剣筋じゃのー。さすがシュシュがSに近い力を持つと言った男じゃ。」
「いやいや…。なんでこざるか…この感覚は…。柔らかい絹を斬ったような…。剣技などという枠組みでは収まりませんぞ…。」
ガイアスは、シャクレンの流麗な剣の受け方で全てが分かった。この老人が自分より遥か高みに居るという事が…。
嫌な汗が一滴、ガイアスの顔を流れると、シャクレンから恐ろしい程の圧を感じる。
「すまんが時間がないのでな。もう少し君と手合わせしたかったが、ささっと終わりにしようかの。」
「くっ…!」
ガイアスは、シャクレンから発せられる圧に負けて後ろへ大きく飛び退いて距離を取る。
「なんという圧でござるか…!何もできないまま斬られる所でござった…!」
「ほ?何を言っておるんじゃ?もう斬ったぞ。」
「え…?」
すると、ガイアスの左肩から右足の付け根にかけて、『バッ!』と血飛沫が舞う。
「がっ…!なんですと…!?」
「むむ…。浅かったようじゃな。胴体から下半身まで真っ二つにしたつもりじゃったが…。飛び退いた反応が見事であったという事か。」
「がはっ…!避けるために退いたわけではござらん…。剣筋が見えないどころか…斬られた事さえ気付けなかったでござる…!一体…何者でござるか…!?」
「わしか?ただの刀好きの老人じゃよ。ただ…人を斬り続け、わしを悪だと難癖つけてきた英雄を斬り、神をも斬った時には、人々はわしを『剣神』と呼んで恐れておったの。
どうじゃ?このままわしらの事を見て見ぬふりしてくれるか?静かに消えてくれたら今なら見逃してやるぞ。」
「それが本当なら…拙者では歯が立たぬかもしれませんな…。」
「そうじゃろ?ではおとなしく去ね。」
「だが!!俺も魔剣士1000人の頂点に立って王になった男だ。ここで守りたいものも守れず!命を懸ける事もせず!おめおめと逃げるなど!俺を王として認めてくれていた彼らに会わず顔がない!!」
ガイアスは、傷から溢れて止まらない血など気にもせず、勇敢に立ち上がって再び魔剣を構える。
「なんじゃ。変なしゃべり方をやめたんか。」
「ねぇねぇじいさんさ、あいつ…また強くなったよ。ああいう善のタイプはさ、変に追い詰められると強くなったり面倒だから早く倒さないと。」
「分かっておるわい!さっきから気を付けろとかうるさいぞ!」
「気を付けろってのは、相手が中途半端に強かったらドンパチうるさくなってあたしらの存在が公になるリスクがあるから気を付けろって言っただけだよ!じいさんが誰かに負けるなんて思うわけないだろ!化け物のくせに!」
「あー!もう!若いもんはうるさくて仕方ないわい!ほれ!魔剣の兄さん!はよう攻めてこい!」
「言われなくても…!!」
ガイアスは魔剣の力を利用して、人知を超えた速さでシャクレンの背後を取る。ガイアスの超スピードによって起こった衝撃波が遅れて路上のゴミ箱や自転車などを吹き飛ばす。
「すまないが手加減はできない!死んでも文句は言わないでくれよ!ご老人!」
「ほっほっ!お気遣いありがとうな、若もんよ!じゃが、その程度では欠伸すらする余裕があるのー。」
シャクレンが笑いながらゆっくりと振り返ると、ガイアスの身体に10を超える切り傷が刻まれる。
そして、大量の血飛沫を撒き散らせながらガイアスは膝をついてしまう。
「くそっ…!これでもまだ剣筋を見切れないのか…!」
「君らはまだ剣に関してヒヨッコじゃ。
頭でどう斬るか考える、考えた事を行動に移そうとする、剣を構えて斬りかかる、剣を振り上げる、そこまでしてやっと人を斬るという結果に辿り着く。そんな遠回りな事をしておるからいつまで経っても剣に斬らされておるんじゃ。」
「その行程を瞬時に行うために皆修行や実戦を積むのだろ!」
「違う違う!そんな回りくどい事はせんでええんじゃ。何も考えんとただ『斬った』という結果だけ残せば良いんじゃ。
さすれば相手も気付けば『斬られた』になる。『斬った』も『斬られた』もすでに過去の事、そんなもんに見切るもクソもないという事じゃな。」
「そんなものに辿り着くなど人ができる事なのか…。」
「できるから見せてやったじゃろうが。この妖刀〝神斬〟でな。斬れ味鋭すぎて空間をも斬るこの刀だからこそ、辿り着いた極致と言っても過言ではないがな。」
「おい!じいさん!人が来るぞ!」
「ほいほい。それじゃあすまんが終わらせるでな。来世で今教えてやった事を思い出せたらええのー。」
「そうだな。教えてくれてありがとう。」
ガイアスが俯きながら笑みを作り、シャクレンにそうやって礼を言うと、突然シャクレンの左腕が勢い良く斬られる。
「なんじゃと!?」
「何やってんだじいさん!油断し過ぎだ!」
思わぬ事に、さすがのシャクレンも心を乱されて少しだけ後退った。
その隙に、よろめきながらも立ち上がったガイアスが魔剣を見ながら話し出す。
「なるほど…。教えられてやっと分かったが、なんとかできるものなんだな。どうやら俺も極致に辿り着けるんじゃないのか?
さぁ!ご老人!続きといこうじゃありませんか!
…いや…、やはり何か調子が出ないな。
さぁ!いくでござるよ!拙者はやはりこの話し方の方が落ち着くでござるな!」
「ほっほっ…。見事見事…。真に見事じゃ。褒美に剣の頂を見せてやろう…。」
なんとか一矢報いたガイアスであったが、その一手が虎の尾を踏んでしまう事になり、憤怒のシャクレンからは神に近い程のオーラが溢れ出るのであった。




