第96話 勇者と迫りくる驚異
シャクレンとシュシュが店に訪れた日の夜、ラヴィが部屋のテレビをつけると、一本橋で大きな事件があった事をニュースキャスターが伝えている所だった。
『本日午後4時頃、一本橋の路上で一人の男性が刃物で身体を数十カ所切られて意識を失っている状態で発見されました。男性を発見し、警察と救急に通報した女性は、激しい物音を不審に思い見に行くと、血まみれの男性が横たわっていたと証言しているようです。
救急搬送された男性は、意識不明の重体であり、詳しい事件の経緯は分かっておりません。
では、次のニュースです。物価高に悲鳴を上げる人々が集まり…。』
ニュースを黙って見ていたラヴィは、部屋の端で着替えていたアヤネに声を掛ける。
「なんだか一本橋で物騒な事件があったみたいだぞ。」
「ん?どんな事件だ?」
「男性が刃物で切られたって言っていたな。なんだか嫌な予感がする…。」
「うちらが関連するような事件なら、セリーナ様がすぐに教えてくれるだろ。まぁ、治安が悪くなるのを傍観はできないから、事件が解決するまで見回りとか手伝っても良いけどな。」
「そうだな。私達で出来る事は協力していくように、明日みんなにも伝えよう。」
そうして、事件についての話が終わった所で、バタバタと騒々しく階段を上ってくる音が聞こえてくると、勢い良くドアを開けてルルが部屋に飛び込んできた。
よっぽど急いで走ってきたのか、ルルは激しく息を切らせている。そして、開口一番に驚く事を口にする。
「ガ!ガイアスさんが…!大怪我で病院に運ばれたみたい!」
「魔剣王がか!?どうしたというのだ!?待て…まさか…さっきニュースで言っていた被害者の男性というのは…。」
「そうなの!今ニュースでやってる一本橋の事件にガイアスさんが巻き込まれたって、ガイアスさんと仲の良いご主人様から連絡があって…!」
「おいおい、ラヴィ…。確かガイアスは相当強いって言ってなかったか?」
「あぁ…、ルルを守るためにあの四天王のハルとやり合うぐらいの強さを持っていたはずだ。」
「という事は…、こっちの世界の人間に負けるわけねーよな?そう考えると、この事件の犯人は異世界人がやったってのが濃厚じゃねーのか?」
「その事も含めてガイアスさんに話を聞かないとって思ったんだけど、教えてもらった病院はまだ警察の警備が厳しくて入れなかったの。
だからアヤネかラヴィちゃんに一緒に行ってもらおうと思って急いでここに来たの!病室に入れれば私の治療魔法もかけれるし!」
「では私がルルと一緒に魔剣王の所に行こう。アヤネはレナとシルヴィアに連絡を取って集まっててくれないか?
個別で行動していると、いつ犯人に狙われるか分からないからな。」
「分かった。こっちはうちにまかせろ。」
そして、ラヴィとルルは急いでガイアスが運ばれた病院へと向かう。そこは一本橋と五右衛門町の間にある大きな総合病院だった。
病院の裏手に着いたラヴィ達は、まずガイアスの部屋を特定しなければならなかった。
「ラヴィちゃん、ガイアスさんのオーラを感知できそう?私にはそんなのできないからさっき来た時もどこか分からなくて…。」
「大丈夫だ。瀕死とはいえ、生きているならあいつのオーラは分かる。」
ラヴィは目を瞑り、集中して微かなガイアスのオーラを探す。しばらくすると、病院の6階辺りにそれらしきオーラが発せられている事が分かった。
「居たぞ!たぶん魔剣王だ!」
「良かった!でもどうやって侵入する?」
「ちょっと失礼するぞ。」
そう言うとラヴィはルルをお姫様抱っこで持ち上げると、病院の窓やパイプなどの凹凸を使って屋上まで駆け上がっていく。
そして、屋上に着地すると、直ぐ様病院内に入るためのドアの鍵を壊して中に侵入した。
「これ…なんか私達が悪い事をしているみたいだね…。」
「緊急だから仕方ない。それよりも急ぐぞ!」
コソコソと気配を消しながら、感知したオーラの部屋の近くへと2人は辿り着くが、階段の陰から部屋の方を確認すると、ドアの前には警官らしき人物が警備しているようだった。
「チッ!あれじゃ入れないな…。あの人には申し訳ないが強行突破させてもらうしか…。」
ラヴィがそう言っていると、ドアの前に立っていた警官が、急に糸の切れた人形のように廊下にへたり込んだ。
「な…なんだ!?」
「大丈夫だよ。私があの人に睡眠魔法を掛けただけだから!さぁ!行こう!」
ルルが言う通り、警官は気持ち良さそうに寝息を立てながら眠っている。
このままでは周りからすぐバレてしまうので、近くの椅子を持ってきて警官を座らせる。
その後、病室の名札でガイアスのこちらの世界での名前を確認すると、2人は周りを警戒しながらコッソリと病室へ入った。
すると、病室にはベッドに横たわる包帯まみれの男性の姿が見える。その姿は痛々しく、たくさんの管が身体に刺さり、顔には人工呼吸器が付けられている。
2人は恐る恐る男性に近付き、その顔を確認した。だが、2人が知るガイアスとは別人の男性がそこに居たのだった。
「おい!魔剣王じゃないぞ!オーラを感じていたから間違い無いと思ったのだが…。」
「でも表の名前もガイアスさんのこっちの世界での仮名で間違いなかったし、警察の人も警備してたし…。」
思わぬ誤算に2人が慌てていると、寝ている男性の目が薄っすらと開き、ラヴィ達に声を掛ける。
「そこにいるのは…ラヴィ殿…ルル殿…でござるか…?」
「えっ!?何故私達の名前を…!?」
「今ござるって言ってたよ!もしかしてガイアスさんなんですか!?」
「そんなわけないだろう!こんな美男子が魔剣王なわけない!」
「拙者は…ガイアスで…ござる…。」
「「えーーーっ!?」」
横たわる男前がガイアスだとまだ信じれていない2人に、ガイアスがなんとか本人だと証明しようとする。
「ほら…ここ…左目の下にホクロがあるで…ござる…。拙者の1番のチャームポイント…だったから…覚えているでござろう…?」
((いや…知らねぇよ…。))
と、声に出したい所だが、ラヴィとルルは我慢して心の中でツッコミをいれる。
「と…とにかく魔剣王なのだな!?ルルよ!治癒魔法を頼む!」
「う…うん!ちょっと未だに信じれないけど…。」
病室の中が、ルルの治癒魔法の光によって、薄く緑色に照らされる。
すると、ルルの魔法のおかげで少し回復したガイアスは、自ら人工呼吸器を外す。
人工呼吸器を外したガイアスの顔を見たラヴィとルルは、その美顔をハッキリと見てしまい、思わず少しドキッとしてしまった。
「ラヴィ殿、ルル殿、本当に助かったでござる。」
「い…いや…それは良いんだが…。顔が変わり過ぎてて凄く話し辛いんだ…。」
「何を言っているでござるか?魔剣の力でほんの少し痩せただけですぞ!さほど変化はないはずでござる!」
「ドリアンとパイナップルぐらい違うわ!
ん!?お…おい!待て!魔剣の力を使ったのか!?という事は異世界の者に襲われたという事か!?」
「そうでござる。今から拙者の話を落ち着いて聞いてほしいでござる。
あと、ドリアンは言い過ぎでござる。」
そして、ガイアスはシャクレンとシュシュと相対した話をラヴィ達に話し始めるのであった。




