第95話 魔剣王の真の姿
壁際に座っている白髪を頭頂で結った老人が、顔を歪ませながら女の子に話している。
「かぁ〜。この黒い飲み物は苦いのぉ〜。普通のお茶にすれば良かったわい。」
「あたしが頼んだこの冷たいのは甘くておいし〜!じいさんにはあげないよ!」
「ケチ臭いの〜。で、どうじゃ?お前の目で分析してみたじゃろ?あの子らは強いか?」
「ぜ〜んぜん。分かりやすくE〜Sで区分分けして説明してあげるよ。
まず、メガネの子がBクラス、エルフもB、獣人がAよりのB、髪を結んでる子は…CよりのBだけど発展途上ってとこかな。」
「ほーほー。目的の一人である勇者はどうなんじゃ?」
「1番ダメ。どれだけ良く見積もってもCってとこかな。ひっさびさの外なのに…楽しめそうにないね。」
「そうかそうか。それならば他の二人も早めに呼んでさっさと終わらせて神界で暴れた方が楽しそうじゃの〜。」
「うん。そうしよ。」
老人と女の子は、周りには聞こえないように話終えると、少し残ったコーヒーと綺麗に食べられたパフェを残してフッと消えてしまった。
その瞬間を誰も見ていなかったが、いつの間にか消えている2人に気付いたルルが慌ててテーブルへと向かう。
「あれ!?おじいさんと女の子が居なくなってる…。どこに行ったんだろ…。」
そして、ルルがテーブルの上にふと目をやると、そこには見た事のない金貨が2枚置いてあった。
「これってお会計の代わりって事なのかな?もしかして…。」
ルルはその金貨での支払いに違和感を感じ、異世界人がやって来たのかもしれないという考えが頭をよぎった時に、近くに居たガイアスが話し掛けてきた。
「ルル殿!拙者もそろそろお出かけしようと思うでござる!会計をお願いしたい!」
「あ!はい!分かりました!気を付けていってらっしゃいませ!」
ルルは一抹の不安を抱えながらも、ガイアスを見送ると、この不安が杞憂で済めば良いと思いながら店へと戻るのだった。
そして、先程の老人と女の子は、一本橋の人気の無い路地を歩いている。
「ではシュシュよ。レイヴァンとローゼンを呼んでさっさと用事を済ませるぞ。」
「シャクレンのじいさん。まずはこのベルゼに付けられた印をどうにかしないと自由に動けないの分かってるよね?ボケた?」
「ほっほっほっ!言うではないか小童が。斬ってしまうぞ…。」
「やってみなよ。あたしが全部見切ってあげるよ。」
会話が終わると、2人はピタリと足を止めて殺気を漲らせる。それに反応した周りの鳩やカラスがバタバタと飛んで逃げていく。
ピリピリと今にも殺し合いが始まる空気だったが、突然そんな2人に声を掛ける者が現れた。
「そこのご老人とお嬢さん!ちょっと待つでござる!」
声を掛けられたシャクレン達はゆっくりと振り返ると、そこに居たのはガイアスであった。
「何か御用かな?」
さっきまでの殺気を一瞬で消して、笑顔で丁寧にシャクレンが対応し、その横ではシュシュがガイアスを頭から爪先までじっくり観察をしている。
シュシュの目には六芒星の紋様が浮かび上がっているようだった。
「突然の声掛け失礼するでござる!さっきどり〜むは〜とで貴殿らの怪しい会話が耳に入ったので後をつけさせてもらったでござる!
あんな殺気を放つとは…やはり只者ではござらんな!どり〜むは〜とに何用があって訪れたでござるか!?」
「あちゃ〜。しょうもない事でシャクレンのじいさんが怒るからバレちゃったじゃないかー!」
「お前が煽るような事を言うからじゃろうが!仕方ない…君には何の恨みもないが…知られてしまっては生かしておけん。
どうじゃ?こいつの強さは?」
「Dって所かな。Dあるならたぶんこの世界の人間じゃないね。殺しても問題ないよ。」
「拙者のカップ数が何故分かったでござるか…。やたらと見てくると思っていたら拙者の胸を見ていたでござるな!
ぐふww少女にそんな目で見られるのも悪くないでござるww」
「何言ってるのか分かんないけど気持ち悪いってのは分かる!殺す!」
「待たんか!お前がやれば目立ち過ぎるじゃろ!儂が静かに殺ってやるわい。」
シャクレンはそう言うと、空間に穴を空けてそこに手を入れる。そして、ゆっくりと禍々しい気を放つ刀を取り出した。
「さてさて、痛くはせんからジッとしとるんじゃぞ。」
「これはこれは!見事な魔を宿した刀でござるな!魔剣とはまた違う…妖刀と言った所でござるか!?それなら拙者も負けてはおれませんな!
出でよ!魔剣パーリーナイトゥ!女の子には本気を出せないでござるが!ご老人とはいえ、男相手なら本気でいきますぞ!」
シャクレンの刀に対抗して、ガイアスは直ぐ様魔剣を召喚する。
すると、魔剣を持ったガイアスを見たシュシュが目を見開いて驚いた。
「へー!凄いじゃん!そいつ、魔剣を持ったら一気にAクラスの下位ぐらいの強さになったよ!」
「ほーかほーか!それならば5秒は楽しめるかもしれんな!
ほれ!おデブちゃん!かかっておいで!」
「ぐはっwwおデブちゃんとはやられましたな!しかし!さっき本気を出すと言ったでござろう!
魔剣パーリーナイトゥは体力を犠牲にして身体能力を上昇させるでござる!
拙者が太り続けていたのはこんな時のため!全ての溜めた体力を使うでござるよ!」
そして、ガイアスが魔剣を天に向けてかざすと、茶色い光が彼の全身を包み込む。
「きったねぇ色だな!ウンコじゃねーか!」
その汚い光の中、魔剣の枝分かれした刀身がグネリと伸びたかと思うと、ガイアスの身体に刺さって何かを吸収しているようだった。
そして、魔剣は一際強い光を放ち、その光が段々と収まってくると、そこに立っていたのは、スッキリと痩せてやたらと男前になったガイアスであった。
身体からは『プシュー!』と湯気のようなものを発している。
「ふ〜。元の姿に戻ったのはいつぶりでござろうか。これをやるとしばらく栄養失調気味になってしまうでござるが、どり〜むは〜とのみんなを守るためならどうって事ないでござる!」
「いや!誰なんじゃ!?」
「シャクレンのじいさん!気を付けろ!そいつ、今はSランクに近い強さだぞ!」
「さて、いくでござるよ!」
女子が大好きな中性的な顔になってしまったガイアス。顔だけ見ればアイドルと間違われるレベルだ。心無しか今はバンダナも格好良く見える。
どり〜むは〜とを狙うシャクレンとシュシュを討つため、今魔剣王は一人で立ち向かう!




