第94話 女神と四大魔王
ベルゼに無理難題を押し付けられたセリーナは、唇を噛み締めて、溢れ出そうになる怒りを抑え込む。
「いつ…四大魔王を送り込んでくるのですか…?」
「もう送っておる。」
「はぁ!?さっきから下手に出ておれば好き放題やりおって!何様のつもりじゃ!?」
「最高神様でございます。セリーナ様、ベルゼ様にその口調は神法第4条に…。」
「イリスは一旦黙っておれ!」
横暴とも取れるベルゼの行動に、セリーナの溜め込んでいたものが一気に爆発する。
「もう四大魔王を送っておるとはどういう事じゃ!?」
「ふぅ〜。私へのその口調、今は我慢してやろう。ほんの1時間ほど前に四大魔王をそちらの世界へ送った。そなたらと入れ違いであったか?」
「わざとらしい!はじめから狙っておったのじゃな!今すぐわしも帰らせてもらう!」
「何を言っている?そなたはこの神界にしばし滞在してもらう。これからの処遇の話もあるしな。」
「な…!?さっきこの試練を乗り越え、共鳴の力を証明すれば認めると言ったではないか!?」
「それはヤオの世界をそなたが管理する条件だ。エルサンガについては、そなたの手でしっかりと物語を完結させるのだ。どう足掻いても、2つの世界を管理するには、神とはいえ力の範疇を超えているからな。」
ベルゼの語る事は決して間違ってはいない。そんな理解する気持ちと、2つの世界への想いの間で、セリーナはどこにもぶつける事の出来ない感情を押し殺すために拳を握りしめる。
そして、ここで反抗的な態度を取り続けても利が無いと判断したセリーナは、今出来る最適な案をベルゼにぶつける。
「取り乱してしまった事は謝ります…。しかし、この件についても見届け人はいるはずです。
公正な審判を下す事のできる者として、イリスの派遣をお願いしたい…。四大魔王が暴走し、一般の民にも被害がでるかもしれませんので…。」
「暴走の件は大丈夫だ。ヤオの世界の住人に被害が及ぶような事をすれば強制的に封じ込める印を施してある。
だが、そなたの言う通り万が一という事もあるかもしれん。よって、イリスの派遣は了承しよう。」
「ありがとうございます。では、私は一旦これで下がらせてもらいます。」
「神殿の横にある塔にそなたの部屋を用意してある。逃げ出さぬように結界は張らせてもらうが、牢ではない普通の部屋だ。何か用があれば神兵に頼むがよい。」
「お気遣い感謝いたします。では…。」
そう言ってセリーナは何も言わずに用意された部屋へと向かっていく。去り際に、周りに分からないようにイリスへ伝言を残しながら…。
そして、神界にも夜が訪れた時、セリーナの部屋の窓から、イリスが誰にも気付かれぬように侵入する。張られた結界は、神兵の出入りなどがあるため、悪しき考えを持つ者以外は自由に出入り出来るという事が分かった。
その代わり、指定の印を押され、閉じ込められている者はどんな事があろうと出られないようだ。
「セリーナ様…おられますか?」
「ここじゃ。すまんの。無理を言ってこんな事をさせてしまって…。」
「構いません。今回の決定はさすがにベルゼ様の横暴としか思えませんので。」
「お主が担当の神官に選ばれたのが不幸中の幸いと言ったところか…。」
「あの時の去り際に『頼みたい事』があると仰っていましたが…。」
「四大魔王と戦うには、あの街に生きる全ての異世界人の力が必要じゃ。じゃからわしが匿っておるヨルカ達の力も戻さねばならん。
あやつらの力を封じた宝玉が一本橋の神社にある御神木に隠してある。
それを手に入れてヨルカ達が戦えるようにしてほしい。」
「分かりました。しかし、彼女達が裏切った際はどうされますか?」
「うむ。その時はお主の判断にまかせる。煮るなり焼くなり好きにせい。」
「はい。了解致しました。」
「後…ラヴィとアルマの力はヤオと戦った時より大分弱くなっておる。四大魔王がすでに一本橋に潜伏しておるなら、善の力を集める時間もない。
じゃから、あやつらの力が戻るまでなんとかサポートしてやってほしい…。」
「最大限の努力はしますが、十中八九ベルゼ様の監視が付くと思いますので、目立った行動はできないと思われます…。」
「それは仕方ない。お主が派遣されるだけでも御の字じゃ。
四大魔王…ラヴィ達が勝てると思うか?」
「〝星喰いのレイヴァン〟〝剣神 シャクレン〟
〝超越者 シュシュ〟〝血の女王 ローゼン〟。
歴史上たった4人しかいない『神殺し』の大罪を犯した魔王達です。
神の力をもってしても断罪できなかった魔王…勝ち目は相当薄いかと…。」
「また共鳴の力を覚醒させるしか手は無いか…。しかし、そんな四大魔王をもヴァーニーなら倒せる自信がジジィにあるのは何故じゃ?」
「それは…極秘なのですが…。」
イリスがそこまで話しかけた所で、何者かが部屋に近付いてくる気配を感じ、急いでイリスは窓から逃げる準備をする。
「すいません。話の途中ですがここで退散させていただきます。
セリーナ様からの神命は承りました。出来る限りの事はさせていただきます。」
「うむ。頼んだ!武運を祈るぞ。イリスよ…。」
「セリーナ様もどうか無理はなさらず…。」
「いざとなれば、破壊の女神と呼ばれた力を発揮して逃げ出してやるわい!」
どん!と胸を叩きながらそう言うセリーナに、イリスは笑顔を見せるとそのまま闇夜に消えていった。
(ラヴィ…アルマ…そしてあの世界に住む者達よ…。また神の勝手な考えで迷惑を掛ける…。本当にすまない…。
じゃが、これを乗り越えれば歴史が変わる!信じておるぞ!子供達よ!)
――そして、そんな大事件が起きているとも知らないどり〜むは〜とでは、平和な時間が流れているようだった。
そんな中、店内でルルがニコニコしながらある人物を眺めている。視線の先には魔剣王ガイアスがいるみたいだが、それが気になったラヴィがルルに話し掛けた。
「ルルよ、どうした?そんなにガイアスを眺めて。まさか!あの防衛戦の時に良い感じになったのか!?おめでとう!!」
「違うよ!何言ってるの!?私はそのガイアスさんの奥に座ってるおじいちゃんとお孫さんの女の子を見てたの!
なんだか凄く平和だな〜って思って!」
「それなら安心した…。ルルの頭がバグったかと思ったぞ。」
「言い過ぎだよ!ガイアスさんだってあの時は格好良かったんだよ!」
ルルに言われて、ラヴィがガイアスの奥を見ると、そこには、コーヒーを飲む白髪の優しそうな老人と、笑顔でパフェを食べる15歳ぐらいの青髪の女の子が幸せそうに談笑している。
「本当だな。頑張って世界を守って良かったと思うよ。」
その2人の姿を見て、感慨深くなるラヴィであったが、老人と女の子が話す会話はとんでもない内容だったのだ。




