第93話 女神と最高神
ジメジメとした空気が肌にまとわりつき、嫌な雨の日が増え始めた頃、セリーナの元に一通の手紙が届けられた。
それを、いつもよりも真剣な表情のイリスがセリーナに手渡す。
「セリーナ様、これを…。」
「はぁ〜…。ベルゼのじじぃめ…とうとう連絡をよこしてきおったか…。」
「はい。どうぞ中身をご確認下さい。」
厚めに押されたシーリングスタンプをバリリと破ると、中にはたった1枚の手紙が入っていた。
そこに書かれていたのは簡単な一文だけである。
『女神セリーナ。早急に神界に戻り、最高神ベルゼ様と謁見されたし。』
セリーナは、その手紙を確認すると、また大きなため息をつきながら天井を見上げる。
「行かねば…ならんか…。」
「はい…。行かなければこの世界を問答無用で消されるかと…。」
「『おー!セリーナか!頑張っているな!これからも2つの世界を頼んだぞ!』とは…ならんかな?」
「なるわけありません。私がこちらへ送られる時でも大地を震わせる怒りが見えてましたので。」
「かーっ!面倒臭い!イリスも同行してくれるのか?」
「そのつもりです。できるだけこの世界で起きている事を良く伝え、セリーナ様の弁解に協力できたらと思っています。」
「イリスはええ子じゃな〜!頼りにしておるぞ!」
そこまで話が進むと、奥の部屋から不機嫌そうなヨルカが出てきた。
「またどこかに行くアルか?行くならちゃんとお金を置いていくアル。外に出れないから出前頼むアル。」
「お主らは危機感がないのー。これからのお主らの処遇にも大きく関わる案件なんじゃぞ。」
「そうアルか…。朗報をピザでも食べながら3人で待ってるアル。」
「もし…また戦いになったら…お主らはどちらにつくのじゃ?」
セリーナは険しい表情で、ヨルカに重要な質問をする。それに対してヨルカは自信ありげな笑みを見せて答える。
「それは、私らがムカつく方を殺す。それだけアル。」
「はぁ〜。やはりまだまだお主らを解放するのは難しいのー。」
「まぁ、こうやってなんとか生きてるのはあなたのおかげアル。ちょっとぐらいなら協力してやらんでもないアルな。」
「そうか。ならわしの行動も無駄では無かったということか…。なるべく大事にはならんように話をするしかないの!
では行くか!イリスよ!」
「了解致しました。」
そして、セリーナは神界へと続くゲートを開くとイリスと共にその中へと入っていった。
2人がゲートから出ると、金色の空が広がり、色とりどりの花びらが舞い踊る、そんな荘厳な世界に浮かんでいる神殿が目の前に現れる。
「ここに来るのは百年ぶりか…。相変わらず下品な世界じゃ…。」
「ベルゼ様に聞こえますよ。」
「聞こえるように言っておるんじゃ!」
悪態をつきながらも、セリーナは真の女神の姿に戻り、イリスと共に神殿の中へと入る。
内装も外と変わらず、金色に輝く装飾品などが所狭しと立ち並んでいる。
数百メートル先へと進むと、両サイドに頑強な鎧を着た神兵が数十人並んでいる大広間へと出た。
その奥には、虹色に輝く宝石が散りばめられた玉座に座る老人がいる。
その老人は、金の糸で施された装飾が美しい赤い法衣に身を包み、立派な白い髭を撫でながらセリーナ達を見ている。
セリーナとイリスは、その威厳に満ち溢れた老人の前まで行くと、片膝をついて頭を下げる。
「女神セリーナ、ベルゼ様の呼び出しに応じ、馳せ参じました。」
「久しぶりではないか…セリーナ。元気にやっているようだな。」
「はい。して…いかな用で私を呼び出したのでしょうか?」
わざとらしい質問をするセリーナに対して、ベルゼは持っていた杖を地面に強く叩きつける。
『ガンッ!』という音が、静寂が支配する神殿に鳴り響くと、さすがのセリーナとイリスもビクッと身体が動いてしまう。
「そなたは相変わらずだな。自由に生き過ぎておるようだ。」
「そう…でしょうか…。」
「回りくどい言い方は面倒だ。単刀直入に言うぞ。ヤオの残した世界を手放し、自分で創ったエルサンガの世界へと帰るのだ。」
「それはできません!」
片膝をつき、頭を下げたままセリーナは大声でベルゼの命令に反抗する。
「私の神命が聞けないと言うのか?」
「あの世界を…他の者に譲る気は毛頭ありません!2つの世界を私が必ず上手く成り立たせます!」
「どうやってだ?何を目的にそこまであの世界に固執する?」
「善と悪が争わずとも…力が得られる世界を創りたいのです。そのためにはヤオの世界もエルサンガの世界も必要なのです!」
「戯言だ。そんなものは不可能だと分かっているだろう?言っておくが、私は譲歩してやっているのだ。今もヤオの世界を狙う神々の手綱を握って止めているのは私だぞ。」
「どうか…私の夢の証明のために…もう少し時間をお与え下さい…。」
そして、ベルゼは少し沈黙してから、その眼差しをイリスに向ける。
「イリスよ。短期間ではあるが、ヤオの世界を見た感想はどうであった?」
「はい。他の世界とは比べものにならない程、平和だと感じました。
ヤオ様が連れてきていた異世界人と、セリーナ様の世界の勇者や魔王も、何の別け隔てもなく穏やかに暮らしている様子でした。今しばらく様子を見ても問題はないかと…。」
「『共鳴』の力を体現した勇者と魔王か…。では、もう一度その共鳴の力を見せてもらおうではないか。猶予が欲しいと言うなら…それが条件だ。」
「それが…今は…。」
「分かっている。ヤオとの戦いで負った傷を治すために時を戻したらしいな。イリスの報告にあった。だから、ある試練をそなたらに与えよう。同じような状況を私が作ってやる。」
「試練…ですか?一体どのような…?」
「この神殿の奥深くに封じ込めている『四大魔王』をヤオの世界に放つ。
また窮地に陥れば力が覚醒するだろう。」
「『四大魔王』を!?気は確かですか!?ヘタをすれば世界が一瞬で滅びます!」
「それならそれで構わんのだ。その世界が滅びれば今回の問題は全て解決するのだからな。」
「もしも…我々が負けて世界が滅びたら、残った四大魔王はどうされるのですか…?」
「丁度、私の創りし勇者であるヴァーニーがそちらの世界に目をつけておる。
荒廃した世界でヴァーニーが四大魔王も掃討してくれるだろう。」
「そんな…無茶苦茶な…。」
ベルゼから突如言い渡された試練の内容に、セリーナの背中に冷たい汗が流れる。
セリーナが驚く程の魔王、『四大魔王』とは一体何者なのか…。




