第91話 勇者の大胆な作戦!
アルマは緊張で手が震えるのを無理矢理抑え込んで丁寧に一投目を投げる。
(ぐあっ!しまった!意識し過ぎた!コースは良いが勢いが足りん!)
アルマの感じた通り、先程までとは違い、ボーリング玉は弱々しくピンへと向かっていく。
「あっ!これはストライクは無理だろう!アルマ!ミスったな!!」
勝ちを確信したラヴィが喜びで飛び上がりながら声を上げる。
そして、全員が注目している中、ボーリング玉がピンを倒していくが、『カラン…コトン…』と勢いが全く無い。なんとか倒れたピンが両端のピンに当たるが、ほんの少し揺れるだけで倒れる気配は感じられない。
「ぐおぉぉぉ!!倒れるんだ!!神様ぁぁ!!」
「なんじゃ?」
「貴様ではないわ!」
「ほー。わしを貴様呼ばわりか…。偉くなったのー。」
パキパキと指を鳴らしながらセリーナが近付いてくるが、アルマはそれどころではなかった。
一番端の2本のピンの揺れが止まろうとして、アルマが両膝を地面に付いて諦めかけた時、突然建物が少しグラッと揺れた。
「な…!なんだ!地震か!?」
館内にいた人々が地震を恐れてザワついたが、揺れは一瞬で止まる。
みんながホッと胸を撫でおろしていると、誰かが驚いたように声を上げた。
「あっ!見て!ピンが全部倒れてる!」
その声に反応してラヴィ達もピンの方を見ると、見事に全て倒れてストライクの状態になっていたのだ。
「なにぃぃ!今の揺れで倒れたのだろ!?そんなの有りなのか!?」
「ククク!運も実力の内というからな!見よ!画面にもストライクと判定されている!これは有効ではないのか!?」
アルマが審判役のセリーナを見ながら判定の有無を求める。
すると、セリーナは何食わぬ顔で立っているイリスをチラッと見てから、今の出来事についての判定を説明する。
「アルマの言う通り!運も実力の内じゃ!それに、画面にもストライクと表示されておるという事は覆しようのない事実!
よって!アルマがストライクを取ったという事で試合を続ける事にする!」
「えーー!!そんな…。」
「ふーー!!危なかった…。こんなミス!我はもうせんぞ!!」
納得のいかないラヴィとは対照的に、今のラッキーを糧にアルマは心身共に持ち直す。
そして、次の投球は見事ストライクを掴み取り、とうとう最後の投球に差し掛かる。
「これを決めれば我の勝利だ!ラヴィよ!貴様も中々強かった…。だが!これで終わりだ!」
完全に落ち着きを取り戻しているアルマが、ピンをしっかり見つめながら前に進み出す。
(よし!今だ!私も最後まで諦めないぞ!)
そして、アルマがボーリング玉を投げようと後ろに振り上げた瞬間、ラヴィが先程思いついた作戦を実行に移す。
「キャッ!!」
と、もの凄く女の子らしい声を上げながら、ラヴィがわざとらしく尻もちをつく。
アルマはその声に反応してしまってラヴィの方をチラリと見ると、胸元と足の部分が大きくはだけたラヴィの姿があった。
「さっきの…日本酒が…効いてきたのかな…。酔っぱらって転んじゃったよ…。」
((わざとらしいぃぃぃ!!))
全員がラヴィの臭すぎる演技を見てサーッと引いているが、そんなしょぼ過ぎるお色気作戦に引っかかりそうになっている者が一人居る。そう、アルマだ。
(あ…!あいつめ…!ここに来てそんなドギツイ作戦を実行してくるとは!さすが勇者だ…!この魔王を倒すためにあんな姿に…!ありがとう!!)
今にもボーリング玉を落としそうなほど集中をかき乱されているアルマだったが、ふと頭の中にイリスの先程の言葉が再生される。
(そうだ!我には今応援してくれている人がいる!我の努力を認めてくれた人が!こんな拙い作戦に負けるわけにはいかんのだ!でも!ラヴィ!ありがとう!)
「そうです。アルマ様、あなたなら乗り越えられる。自分を信じて投げるのです。」
アルマとイリスは、こんなアホみたいな展開なのに、王道のスポ根並に感情が熱くなる。
そして、アルマが渾身の一投を投げようと前を向いたその時だった。
アヤネが大慌てでラヴィに忠告する声がアルマの耳に入る。
「おい!アホラヴィ!お前は今日下着を着けてないんだろうが!全部見えるぞ!」
「あっ!!忘れてた!!」
アヤネの忠告を聞くと、急いでラヴィははだけた浴衣を直して恥ずかしそうにする。
しかし、時すでに遅く、ギャラリーを含めた男子全員が鼻の下を伸ばしてラヴィを凝視していた。
特にアルマである。
「ノーブ…!ノーパ…!グハッッッ!!」
アルマはそう言い残して鼻血を噴出させるとその場でバタリと倒れてしまった。当然ボーリング玉はコロコロ転がって溝に落ち、最後の一投はガターという形で終わりを迎えたのである。
「よっしゃーーー!!私の勝ちだ!!」
「お前…それで良いのか…。」
呆れたアヤネとは違い、ギャラリーからは『ワァーーー!!』という歓声が沸き上がる。主に男性陣のだが…。
「よし!やり方はどうあれ!ラヴィチームの勝利じゃ!!」
「ニャー!やったー!アルマの奢りだー!」
「え…。本当に良いのかな?私とシルヴィアさんは参加もしてないのに…。」
「当然だ!なんだかんだアルマが持ちかけてきた勝負だからな!」
「さすがに悪いから、今度アルマを誘ってなんか奢ってやろうぜ…。心底可哀想に思えてきた…。」
「あ…あぁ…そうだな…。」
アヤネの提案に全員が頷くと、長かった勝負はこれでフィナーレとなった。
鼻血の海の中、幸せそうな笑顔で死んでいるアルマを残して…。
――そして、勝負が終わってから少しした頃、セリーナとイリスが露天風呂の温泉に浸かっている。
「ほーー!堪らんのー!これは癒されるわい!」
「そうですね。」
相変わらず無愛想な表情のイリスに、セリーナはニヤつきながらある質問をした。
「ボーリング対決の途中の建物の揺れ、あれはお主じゃろ?」
「…………。」
「ワハハハ!良いのじゃ良いのじゃ!あれで一段と盛り上がったからのー!
しかし、公平さを売りにしておる神官のお主があんな肩入れをしてしまうとは、さすがにわしも驚いての!」
「何故でしょうね…。私自身も良く分かりません。しかも魔王の手助けなど…。」
「アルマは他の魔王とは違うと感じてくれたか?」
「認めたくはありませんが…人を惹きつける何かを持っているのは確かです。
ですが、せっかく私が手助けをしたのに…最後は…。」
そこで言葉が詰まったイリスの顔を覗いたセリーナは、今までにないイリスの表情を見て、優しい顔で微笑む。
すると、そこで我慢できなくなったイリスが大声で笑い出した。
「あはははは!あんな負け方…!するもんだから…!可笑しくて可笑しくて…!」
「お主もそこまで顔を崩して笑う事もあるのじゃな!その調子で、あやつらの事をもう少し見てやってくれ。」
こうして、神官のイリスまで巻き込んで笑顔にしてしまったアルマとラヴィの打ち上げは、平和なまま幕を閉じ…ないのである。
それは、ラヴィ達がボーリングで白熱のバトルをしている頃に時間は遡る。
泣きそうな顔で廊下を歩く白石と、居酒屋で日本酒を飲みまくっているシルヴィアが、偶然鉢合わせした事で始まる物語があったのだ。




