第90話 勇者と魔王とボーリング
セリーナを先頭に館内を移動する一行の一番後ろには、睨み合いながら歩いているアルマとラヴィがいる。
「やんのかコラ。お前にだけは絶対負けんからな。15万円分の大ダメージを与えてやる。」
「うるさいわ!どんな種類の勝負になろうとも我が負けるという事は有り得んのだ!あと、15万は本当にキツイ!」
2人がギャーギャー言い合いをしている内に、次の勝負をする場所に到着した。
そこでは、人が重そうな玉を並べられている標的に向けて投げているようだった。
「セリーナ様、ここはなんですか?」
「次の勝負はボーリングじゃ!!」
「フハハハ!勇者のくせにそんな事も知らんとはな!我は店のアフターで来た事があるぞ!」
「なにっ!?魔王のくせにアフターとか行っているのか!?何か…ダサいな…。」
「ニャ、本当に何かダサい。」
「黙れ!お金を稼ぐというのは難しいのだ!」
「ならばアルマはルールを知っておるのじゃな。ではラヴィにボーリングについて説明してやろう。」
そして、セリーナはラヴィへ簡単にボーリングのルールを説明する。
「どうじゃ?簡単じゃろ?」
「はい!ただ単純にあの並べられたピンを玉で多く倒した方が勝ちなのですね!」
「それはそうなのじゃが、ストライクやスペアなどを取ると、大きく点が変わってくるからの!」
「フフフ、そんなのは全てストライクを取れば良いだけの事です!では勝負だ!アルマ!」
「望むところだ!経験者の我が可愛がってやろうではないか!」
「お前が言うと何故かキモく聞こえるな。」
「ニャ、本当に何かキモい。」
「あの!早く始めないともう1回露天風呂に行けなくなるよ!」
「何!?そうなのか!?まだセリーナ様達は露天風呂に入っていないし…ならば早急に始めるぞ!」
いつまでもゴチャゴチャしているラヴィ達だったが、ルルの一言でテキパキと動き始める。
そして、ボーリング玉も選び終わり、準備が整うとラヴィとアルマはレーンの前に立つ。
「貴様に先行を譲ってやろう。」
「順番などどうでもいい!ストライクとやらを取り続けるのみ!」
「では!最終戦!始めるぞ!」
またもやセリーナの『ピーッ!』というホイッスルを合図に戦いが始まった。
ラヴィはボーリング玉に指を入れて、周りの人の見様見真似で構えるが、やはりどこかぎこちない。
「中々…しっくりこないな…。」
「フハハハ!そんな状態で本当にストライクなど取れるのか!?」
「こんなものはな!気合でやったったら良いんじゃーーーい!!」
『どっせーーーい!!』という掛け声を上げながら、ラヴィは全力の力でボーリング玉をピン目掛けて真っ直ぐ投げる。
「ミスったな!ラヴィよ!ボーリングはただ真っ直ぐ投げれば良いというものではないのだ!
ど真ん中に真っ直ぐ玉が入りすぎると端のピンは倒れんぞ!」
これに関してはアルマの言う通りだったのだが、ラヴィの投げたボーリング玉がピンに突っ込むと、倒されたピンは想像とは違う動きをする。
それは、ボーリング玉に触れたピンが暴れ狂うように吹っ飛び、端のピンを巻き込んで薙ぎ倒すと、見事ストライクとなったのだ。
「何だあの動きは!?」
「おい、ドエロ魔王。私を甘く見るなよ!さっきのアヤネの試合を見て学んだのだ!玉は回転をかけると凄まじい動きをするというのをな!
だから自分でも良く分からないぐらいの回転をかけてやったのさ!」
「おぉー!ラヴィ!すげーぞ!」
「そんな無茶苦茶な理論が通用するなど…!そんなラッキーがいつまでも続くと思うなよ!我がボーリングというものを見せてやるわ!」
ラヴィのファインプレーに沸くラヴィチームを背に、孤独の中、アルマはボーリングの玉を右手で持つと、左手をそっと添えるように綺麗に構える。
「おい、なんかアルマの奴…様になってるぞ…。」
「どうせ格好だけだ!あいつと私は来た時期が一緒だぞ!ボーリングをマスターする時間など無かったはずだ!」
そんなラヴィ達の野次が飛び交っていても、アルマは集中をしてゆっくりと前へ歩を進める。
そして、レーンギリギリの所で『シュッ!』と足を横に滑らせながら、プロボウラー顔負けのフォームを披露すると、ボーリング玉を優しく放った。
だが、ボーリング玉は横に逸れていき、レーンの端の溝に落ちそうになる。
「ほれ見ろ!あの溝に落ちたらダメなんだろ?やっぱり格好だけじゃないか!」
「ククク、素人が!玉を良く見てみるのだ!」
アルマにそう言われて、ラヴィ達はボーリング玉をもう一度見ると、溝に落ちるかと思われた玉は、グググッと中心へとカーブしてピンの中心の少し横に向かって転がっていく。
そして、そのままピンに玉が当たると、全てのピンは美しく倒れて見事ストライクとなった。
「何ぃーーー!?なんなんだ今の動きは!?お前!玉になんか仕掛けをしたんじゃないのか!?」
「フハハハ!貴様と同じで回転をかけてカーブさせたのだ!しかもストライクになりやすいよう、ピンの中心から少しズレた所を狙ってな!
実は…アフターでボーリングに来たが、ボコボコにやられてな…。それからというもの…時間があれば修行を積んできたのだ!これが我の集大成なのだ!」
「何か…分かんねーけど…。友達作れよな…。今度からはうちらを誘えば良いからな…。」
「うむ…。魔王が一人でボーリングなど…お前ぐらいだぞ…。」
「ぐぬぬ…。素直に努力を認めれば良いものを!だが、今度からは誘っていいなら…誘うね…。」
みんなが同情をアルマに向けていると、レナがいらない一言を発する。
「ニャー。でもアルマの投げ方、凄くダサいというか、キモいというか…。お尻がプリンッてなってて面白かったよね!」
「「ギャハハハハハ!!!」」
改めてさっきのアルマの投球フォームをイジるレナの一言に、全員が爆笑する。
それによってアルマは顔を真っ赤にして半泣き状態になってしまう。
「むむむむ…!本当に…!貴様らは…!人の努力を何だと思って…!」
そこまでアルマが言った所で、誰かが慰めるようにアルマの肩にポンッと手を乗せる。
それは真剣な顔をしたイリスであった。
「私は笑いませんよ。異文化のスポーツをここまで極めた努力、感服致しました。アルマ様、勝てば良いのです。」
「き…貴様…。良い奴だったんだな…!その通りだ!勝った方が正義なのだ!」
イリスの優しい励ましに息を吹き返したアルマは、そこからストライクを量産していく。
しかし、ラヴィも一歩も退かずにあの無茶苦茶な投げ方でストライクを取っていき喰らいついていく。
そして、お互いがストライクを決め続けて最終の10フレーム目がやって来た。
そこでも先攻のラヴィが2回連続ストライクを決めるのだが、最後の一投で1ピンだけ残ってしまった。
「なんだと!?最後の最後で…!」
「フハハハ!抜かったな!それでは我が3連続でストライクを決めて終わりにしてやろうではないか!」
「こいつら…平気でストライク取り続けてきたけど、普通に考えて有り得ねーだろ…。特にラヴィなんて今日が初めてなんだぞ…。
その証拠にすげぇギャラリーがまた集まってきたし。」
アヤネの的確なツッコミの通り、有り得ない出来事にいつの間にかまた人集りが出来てきた。
「ニャッ!?またアルマがプルプル震えてるよ!」
(外したら15万…外したら15万…外したら15万…外したら15万…外したら15万…。)
ただでさえプレッシャーに弱いアルマなのに、集まってきたギャラリーのせいで余計に緊張しているようだ。
その中で、ラヴィは心の中である作戦を決行する決断をしていた。
(あいつが2連続でストライクを決めたら…あれをやるしかない…!)
各々の思惑が交錯する中、長くなったラヴィチーム対アルマチームの戦いがやっとこさ終わろうとしている。




