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メイド勇者とホスト魔王  作者: わったん
第六章 新しい日々の始まりと神官編
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第89話 拳士 VS 神官 決着!!

 アヤネは球をスッと上げると、普通にサーブをしてラリーを始める。

 先程とは打って変わって、普通に球はイリスへと向かっていく。


「どうされたのですか?こんな球速では点を取ってくれと言っているようなものですよ。」


 そう言ってイリスがラケットで球を打ち返そうとするが、ラケットに球が触れた瞬間、球は明後日の方向へと飛んでいく。


「な!?何でですか!?」


「さっきとは違って、あんたにバレないように静かに回転をかけてたんだよ!当たればうちだってどこに行くか分かんないぐらいにね!」


「ぐ…。そうでしたか…。卓球というものを経験した事がないはずなのに…その吸収力、感服しました。」


「うぉーー!!アヤネ!!やるじゃないか!!」


 さっきのミスを覆して、また空気を五分に戻したアヤネに歓声が上がる。


「次はこちらの番ですね!」


 サーブ権が交代し、イリスもアヤネと同じ様にサーブを打つと、上手に相手のコートへと球は向かっていく。

 それを楽に捉えたアヤネは、ラケットで球を打ち返そうとするが、触れた瞬間に違和感を感じる。


(これは…!?このまま打てば絶対球はどこか違う所に飛んでいく!うちと同じ様に回転をかけてきたな!?じゃあうちは!力ずくで!!)


 不規則な回転をする球を、アヤネは無理矢理力で相手のコートへと打ち返した。


「へぇー!やりますね!しかし!それでは球に変な回転を加える余裕はないでしょう!?ここからは集中力を切らせた方が負けですね!」


 イリスの言う通り、ここからはどちらかが小さなミスをした時点でラリーは終わる。

 お互いの打ち返す球のスピードが速すぎて、それに反応するために2人はコートからどんどんと離れながらラリーを続ける。

 『パキッ!』『パキッ!』とプロ顔負けの凄まじいラリーを繰り広げていると、いつの間にか2人の卓球台の周りには人集ひとだかりができてきた。


『おいおい。こんな凄いラリー見た事ないよ。』


『プロの人達かな?ってかやばくない?オリンピックみたいなんだけど!』


『よく見たらオーラみたいなのが見えるよね!あれなんなのかな!?』


 そんな群衆の様々な呟きを聞いていると、ラヴィが焦ってセリーナの肩を叩く。


「セリーナ様!不味いんじゃないですか!?バレますよ!」


「そうじゃな…。これはちといかんな…。」


 セリーナは腕を組んで少し悩むと、仕方無くルールの改変を行った。


「アヤネ!イリス!そのラリーを制した者が勝ちにする!このままではいかんからの!」


 セリーナの声で初めて周りに人が集まって来ている事にアヤネとイリスが気付く。

 それほどまでに2人は集中していたのだ。


「なるほど…。分かりました。」


「へっ!じゃあ話は早い!必ずうちが勝つ!」


 アヤネが英雄のオーラでラケットまで包み込むと、コートから3mは離れた位置から、渾身の力を込めて最大の一撃を打ち込んだ。

 打たれた球は空気との摩擦で炎を帯びているように見える。しかし、これは球が速すぎて一般の人間には見えておらず、周りの人は何が起きているのか理解できていないようだった。


「よし!アヤネ!ナイスだ!これはさすがにイリスさんといえど返せるはずはない!」


「ククク…それはどうかな?」


「あん!?どう見たって無理だろうが!」


「アホ勇者が。イリスをよく見よ!」


 アルマに言われて、ラヴィがイリスに視線を移すと、彼女はコートから離れていたはずなのに、今は卓球台の近くに移動している。


「最後となると、そうやって最大の力で打ってくると思ってましたよ。大きく卓球台から離れてね。

私はそれをずっと待ってました。」


 スッと静かにイリスは構えると、弾丸のように迫りくる球に優しく触れるようにラケットをぶつける。

 すると、暴れ狂う力を清流が優しく包み込むようなイリスの神業により、完全に勢いを殺された球は、アヤネのコートへと静かに『コトン』と落ちるのであった。

 当然、今のアヤネの位置からワンバウンドで球を拾いに行くのは間に合わず、そのまま何度もバウンドをすると球はやがてコートの上でピタリと動きを止める。

 それと同時に『ピーッ!』というセリーナのホイッスルが卓球場に鳴り響いた。


「勝者は!イリスじゃ!」


『ワァーーーーー!!!』


 試合が終わると、周りの人々から大きな歓声が上がる。『なにがなんだか分かんなかったけど凄かったね!』などとみんなが言う中、アヤネとイリスは卓球台の横で熱く握手を交わす。


「完敗っす!あれをあんな感じで打ち返されるとは思いませんでした!」


「いえ。私もここまで勝負に熱くなるとは思っていませんでした。凄く楽しかったです。」


 認め合った2人は笑顔でそう言い合っていると、そこにセリーナがやって来た。


「二人共天晴じゃ!諸事情ゆえにこんな終わらせ方をしてしまったがすまんかったな!」


「いやぁ…。これはさすがに不味いっすよね。うちは心残りなんかないっすよ!やりきりましたから!」


「イリスはどうじゃ?」


「私も同じです。人と本気でぶつかり合う機会など久しく無かったので…良い経験になりました。」


「うむ!気持ち良く終われたみたいで良かったわい!これで1勝対1勝じゃな!

では…残るは…。」


 何か変な気配を感じたセリーナがゆっくりとラヴィとアルマの方を振り向くと、そこにはすでに、額が引っ付くほど顔面を近付けてメンチを切り合う2人が居た。


「おう…。クサレ魔王…。木っ端微塵にしてやるからな…。」


「ふん。木っ端微塵にするようなゲームがこの建物にあるわけなかろう。バカか?やはり我らの勇者様はバカなのか?

おっと!これ以上近付くと貴様の胸に触れてしまうな!おや?触れないぞ?なんでだろうな?」


「はい、殺す。どさくさに紛れて必ず殺します。あ…童貞のまま殺すのはさすがに可哀想か…。」


「調子に乗っておるが貴様こそ経験などないだろうが…!」


「処女には価値があるが童貞には無い。こちらの世界で学んだ大事な事だ。」


 殺気を纏いながらバチバチと火花を散らせるラヴィとアルマを見て、イリスはセリーナに質問をした。


「あれが本当に『共鳴』をした2人なのですか?」


「い…一応そうなのじゃがな…。あやつらは本当に…。」


 セリーナが呆れながら頭を抱える横で、どんどんと熱気と殺気を帯びていく勇者と魔王の戦いはどう決着するのだろうか…。

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