第86話 勇者と束の間の平穏 その4
片手を上げて挨拶をしながらセリーナとイリスが宴会の席に到着する。
「なんじゃ!楽しそうにしておるのー!」
ニコニコのセリーナとは違い、隣のイリスは警戒しているのか険しい表情をしている。
(この方達がヤオ様が連れてきたり、匿ったりしていた異世界の人達か…。悪いオーラは感じないけど…。)
そして、イリスは全員の顔を一瞥するが、アルマの顔を見るとそこで視線を止める。
(あれが勇者ヴァーニーに狙われている魔王アルマか…。思っていたよりアホな顔をしている…っていうか何か泣いていないか?
そして、その横にいるのがアルマと共鳴をしたという勇者ラヴィ…。2人を今見た感じでは、ベルゼ様が言うような危険分子には見えないが…。)
ジーっと見つめるイリスの視線に気付いたラヴィが、彼女についてセリーナに質問をする。
「セリーナ様、そちらの方は?」
「あぁ!この子はイリスというんじゃ!まぁこの世界で色々ゴタゴタがあったからの。神界から視察にやって来た神官なんじゃ。
しばらくこちらの世界に滞在するからみんな何かあればよろしく頼むぞ!」
「神官のイリスです。よろしくお願いします。」
セリーナから紹介され、堅苦しさが抜けない挨拶をするイリスに、全員が丁寧に頭を下げる。
そして、挨拶が済むとセリーナとイリスは、用意されていた夕飯の前に着席する。美味しそうな料理を前に、堅物のイリスも思わず目を輝かせてしまう。
(これがこの世界の料理か。見た目は美しく彩られて繊細な料理に見えるな。どれどれ…。)
まず、イリスは綺麗に盛られた魚の刺身を醤油に付けてから口に運ぶ。
(お…美味しい!生魚なのに全く臭みなんてない!この世界の料理のレベルは凄く高いんだ!)
イリスがキラキラと目を輝かせながらどんどん料理を食べている横で、セリーナが先程までの騒ぎについてラヴィに質問した。
「して!なんじゃ?さっきまで楽しそうに話をしていたみたいじゃが?」
「あー、アルマとここの料金を賭けて勝負しようってなってたんですが…。」
「面白そうではないか!それならばわしが審判をしてやろう!」
「ババ…女神にそんな事ができるのか?」
「アルマよ…。お主はまだ懲りておらんようじゃの。前回の戦いでわしの事を何度もババア呼ばわりしかけた事を大目に見ておるのを忘れるでないぞ。」
「す…すいません…。」
「では!誰が参加するのじゃ?全員か?」
セリーナの呼びかけに、それぞれが参加の有無を表明していく。
「私は行きたい居酒屋があるので不参加でお願いします。」
「私も…争い事は苦手なので不参加で…。」
まずはシルヴィアとルルが不参加を希望する。
「ふむふむ!アヤネとレナはどうする?」
「うちはどっちでも良いかなぁ。まぁ暇だし参加しても良いですよ。」
「ニャー!レナは参加参加!アルマをボッコボコにしたい!」
「よし!ではラヴィチームはアヤネとレナじゃな!それだとアルマチームはそこのムッツリっぽいメガネの小僧と2人になるのか…。」
突然現れ仕切りだしたセリーナについて、何も知らない白石は、はじめましてでいきなりムッツリ呼ばわりされた事に反論する。
「何で小さい子供にまでムッツリとか言われないとダメなんですか!?ってかそんなに僕ってムッツリに見えます!?どっちかというとオープンな方ですが!」
「や…やめよ!白石!あれに逆らうでないわ!大人しく言う事を聞いているのだ!」
「良い良い!わしの事を知らんとそうなるじゃろう。わしはセリーナというんじゃ!よろしくな!エロメガネ!」
「ムッツリを取れば良いって話じゃないよ!それにさっきから神官だとか神界だとか理由のわからない話してるし!子供なのにやたらと偉そうで老人口調だし!僕を何だと思ってるの!?置いてかないで!」
「白石!頼むから今は全て流すのだ!『水洗便所の白石』になるのだ!帰ったら我が説明してやるから!」
「誰が水洗便所だよ!まぁ…アルマさんの焦りようを見てるとヤバい人みたいだし…詳しくはまた後で聞くから今は勝負に参加する方向で良いです…。」
「よしよし!じゃが、キリ良く3対3にしたいからのー…。そうじゃ!イリスがアルマチームに入るのじゃ!」
「ブッ!!えっ!?私がですか!?」
イリスは黙々と食を楽しんでいる所に、突然セリーナにぶっ込まれたので、口の中の物を吹き出してしまった。
「ゲホゲホ!何で私なんですか!?」
「良いではないか!見聞じゃ!見聞!」
「セリーナ様…なんかそう言えば丸く収まるとか思ってませんか…?」
「そ…そんな事ないぞ!お主にもこの世界を楽しんで欲しいのじゃ!」
「分かりました…。神命とあれば、私も参加しましょう。」
「よし!これで3対3じゃ!先に2勝した方が勝利でよいな!?」
「異論ありません!」
「ククク…良いだろう!受けて立つ!」
「ニャ?アルマはさっきまで泣きそうになってたくせに。」
「うるさいわ!猫娘!」
こうして、セリーナの介入により、無理矢理行われる勇者チームと魔王チームの戦いの火蓋が切って落とされる。
夕飯を終えた後、シルヴィアはそそくさと目的の居酒屋へと消えていき、ルルは争いが気になるのか、戦いに向かうみんなの後をついてきている。
そんなルルに、アルマが1番大事な質問を始める。
「おい!メガネっ娘!貴様がこの会の幹事らしいな?貴様らの料金は合計でいくらなのだ!?」
「えっとー、露天風呂の貸切や1番高い料理のプランを選んでるんで、一人当たり1泊で三万円だから…全部で15万円くらいですね。」
「じゅっ…!15万だと…!?貴様ら…そんな贅沢を…!」
「何焦ってんだよ。うちらだってこんな贅沢初めてなんだよ。」
「うるさい!筋肉ポニーテールめ!」
「誰が筋肉だよ!どいつもこいつも…!
ルル…うちってそんなに筋肉目立ってる?」
「だ…大丈夫だよ!分かんない分かんない!」
「嘘がヘタ過ぎるだろ…。メガネ曇ってんぞ…。」
そうこうしている内に、1戦目が行われる会場に到着する。そこにはサッカーゴールなどが置いてある芝生のフィールドであった。
「よし!着いたな!ここで行うのはこの世界のサッカーというスポーツで行われるPKというものじゃ!
これはまず敵と味方がキーパーとキッカーに分かれる。キーパーはこのゴールの前に立って守り、そしてキッカーはこのボールを蹴って、キーパーに止められずにゴールさせたら得点となるのじゃ!
それを交互に5回行い、より多くゴールさせた方が勝ちというルールじゃ!
分かったら各チームから参加する者を1人選べ!」
「なんかセリーナ様が詳し過ぎないか…。よし!ラヴィチームからはレナを選出するぞ!」
「ニャー!!頑張るぞーー!!」
「ククク…では我のチームからは白石を召喚しよう!」
「えっ!?僕!?サッカーなんてした事ないって!」
ここに誰も予想していなかった『レナVS白石』というドリームマッチが開催されるのであった。




