第87話 獣王 VS ただのメガネ
まずはPKの先行後攻を決めるため、レナと白石はジャンケンをする事になった。
「フハハハ!白石は『ジャンケン王』の異名を持つのだぞ!これは勝ったも同然だな!」
「ただの先行後攻を決めるジャンケンだぞ。お前はバカなのか?」
ラヴィの言う通り、PKの先行後攻を決めるだけなので全くジャンケンの強さは関係ない。
それに、普通に白石はレナにジャンケンで負けてしまう。
「何をしておるのだ!白石!」
「ニャー!じゃあエロメガネに先行を譲ってあげるよ!」
「僕…1回もエロい事してないのになんでなんだろ…。」
「ニャ?レナ達の浴衣がはだけるたびに、チラチラ見てたよね?アルマと一緒に。レナの野生の目はごまかせないよ!」
「も…!もういい!もういいです!スタートスタート!」
「わ…我は見ておらんぞ!」
『ジーーー』という女子からの痛い視線の中、図星を突かれた男2人は、事実を隠すかのように急いで勝負を始めようとする。
そして、レナがキーパーの位置につき、白石がボールを置いて蹴る体勢に入ると、セリーナがどこからか持ってきたホイッスルで『ピーッ!』と開始の合図を鳴らした。
(う〜ん。相手は猫耳付けた可愛らしい女の子だし、まずは手加減して蹴ってみるか。)
そう思った白石は軽くボールを蹴る。だが、少しスッポ抜けてしまったため、ボールはゴールの右上角ギリギリの所に飛んでいく。
「あ!思ったのとは違うけど、これはゴールしたでしょ!」
白石の言う通り、常人のキーパーであれば反応しても手が届かない絶妙な位置にボールは向かっている。それに、相手はただのコスプレをした女の子だと思っている白石は思わず歓喜の声を上げてしまったのだ。
だが、ただのコスプレ女子でないというのは周知の事実である。
レナは目をギラリと光らせると、瞬速の動きで飛んできたボールを弾き返す。いや、弾き返すというか、『パーーーーン!!』という炸裂音と共にボールは弾け散ってしまった。
「え……。」
弾け散ったボールの残骸がヒラヒラと舞う中、白石は目の前で起きた事が受け入れられずに呆然と立ち尽くしている。
「ニャハハ!あれぐらいじゃレナから得点は奪えないよ!もっと岩を突き抜けるぐらいの威力がないとね!」
「え…。どういう事…?ボールどこ行ったの…?」
「白石!何をやっているのだ!貴様なら『アルティメットホワイトストーンシュート』とか撃てるだろうが!」
「撃てねーよ!勝手に人の名字を横文字に変えんな!恥ずかしい!」
白石は何が起きたかも理解できないまま、キーパーの位置にスタンバイする。
(何で僕がこんな目に…。まぁ…さっきのは何かの見間違いだよね。女の子のシュートぐらい僕でも止められるさ!なんたって仕事が出来すぎて『内勤の守護神』とまで言われてたんだもんね!)
そんな楽観的な事を考えていると、レナの方から凄まじい殺気が溢れているのに気付く。
素人の白石でさえ気付く程の殺気を漏らしながらボールを地面に置くと、レナは口角を大きく上げてニヤリと笑う。
(ななななななに!?なんなの!?女の子だよね!?凶暴な肉食獣にしか見えないんだけど!!)
『内勤の守護神』とはどこへやら、ガクガク足を震わせながら、白石はお漏らしをする5秒前状態になってしまっている。
「レナ!さっきみたいに力を入れ過ぎるとまたボールが弾け飛ぶぞ!加減をしろよ!」
「ニャ…。分かってるよ…。エロメガネの顔面をぶっ潰すぐらいにしとくね…。」
(なんか物騒な事言ってない!?あの子さっきと全然雰囲気が違うんですけど!?ニャー♪とか言ってたのに!バックに何故かイカついライオンが見えるんですけど!)
白石の心の準備がまだ出来ていないが、レナが右足を大きく後ろへ振り上げる。
足を上げた事によって、浴衣がハラリとめくれると、一瞬白石とアルマはドキッとするが、そんなラッキースケベな気持ちは一瞬で消え去る。
なぜなら、めくれた浴衣から見えたレナの足は、男性のボディビルダー顔負けなほど筋肉が隆起していたからだ。
(あれ…女の子の足なの…?あの形状…どっかで見た気がするなー…あっ!そうだ!屋久杉だ!屋久杉の立派な枝にそっくりなんだ!すっごいなぁ!)
とうとう現実逃避を始めた白石に向けて、レナはボールが破裂しないように細心の注意を払いながら思いっ切り蹴る。
蹴られたボールはメリメリ音を立てて、最早形を保つ事ができないでいる。
そして、レナの蹴りの威力により歪んだままの形で白石の顔面めがけて飛んでいった。
そんな物を白石が目で追えるはずもなく、『バヒュン!』という音だけが彼の顔の横を通り抜けていく。
「ズバーーーン!!」という奥の壁にボールがぶつかった音で我に返った白石は、恐る恐る後ろを振り返ると、シューーっと煙を出しながら穴が開いたゴールネットと、奥の壁にへばり付いている破れたボールの残骸が見えた。
「ピーーーッ!ゴーールじゃ!!まずはレナが1点じゃな!」
「ニャハハー!狙った所とはズレたけど、点が取れたなら良いか!」
「ナイスだ!レナ!そのまま点を取りまくってしまえ!」
「いやいや、殺す気かよ…。あの人固まって動かねーぞ…。」
レナの殺人シュートには全く触れずに、ラヴィチームが盛り上がっていると、白石は満面の笑みを浮かべながら振り向く。
「辞退します!!」
「な…!何を言っておるのだ!まだ1点取られただけではないか!」
「もう!大丈夫です!僕には無理ですから!ちょっとオシッコ出ちゃいましたし!デスゲームが始まるなんて聞いていませんでしたから!
だから辞退させて下さいね!では!股間を洗わなければならないので失礼しますね!あはは!生きてるって素晴らしいなぁ!」
そのまま曇りない最高の笑顔のまま退場していく白石を見て、アヤネは開いた口が塞がらないまま心配をする。
「お…おい…。あいつ壊れちまったんじゃないのか?良いのか?あんな目が笑ってない笑顔は初めて見たぞ…。」
「よっしゃー!まずは1勝だぞ!!」
「ニャー!やったねー!」
「うおい!少しは心配してやれよ!」
今のラヴィチームでの常識人は自分だけだと再確認できたアヤネであった。
「うむ!まずはラヴィチームの1勝じゃな!では次の勝負を始める前に、参加する者を決めよ!」
「では私のチームからはアヤネだ!」
「まぁそうなるわな…。」
この戦いに身を投じた事を心底後悔しながらアヤネが前に出る。
「ククク…。白石如き!負けるのは分かっておったわ!では我のチームからは貴様が行け!イリスよ!」
「ほ…本当に私も参加するのですか…?」
「当たり前じゃ!楽しむのじゃぞ!」
「今の試合を見て、楽しむなんて感情は出てこないのですが…。」
こうして、獣王と一般人の戦いは終わった…。だが、次のアヤネ VS イリスの戦いは白熱したものになるのである。
そして、次の会場に着いた時、みんなの目に映ったのは、少し大きめの四角いテーブルの真ん中に、低いネットがかけられた不思議な物であった。




