第84話 勇者と束の間の平穏 その2
「ニャッシャー!!一番乗りーー!!」
レナがそう叫びながらジャンプをして露天風呂の中へと飛び込む。『バシャーーン!!』と勢いよく水しぶきを辺りに撒き散らすと、その一部が後ろからついていっていたルルに思いっ切りかかってしまう。
「ちょっと!レナ!いくら貸し切りでもちゃんとかけ湯してから湯船に入らないとダメでしょ!」
「ニャ?何それ?こんなに気持ち良いのに飛び込まないなんて…可哀想…。」
「あなたは本当に…!何で私がそんな憐れみの目で見られないといけないのよ!」
ルルとレナがワーワーやっている中、遅れてアヤネが入ってくる。
「まぁまぁ良いじゃねーか。レナだったらこうなるって分かってただろ?」
「そうだけど…。」
「ルルのおっぱいオバケ!」
「ちょっ…!変なあだ名付けないでよ!レナだってそうじゃない!」
「はいはい、大きい同士仲良くな。うちはゆっくり浸からせてもらうぜ。」
アヤネがかけ湯を終わらせて湯船に浸かった頃合いで、ラヴィとシルヴィアの小山組が入ってきた。
「ぐ…。やはり服を脱ぐと明らかに差を感じるな…。特になんだあのルルは!おっとりした感じで乳デカだと!?おじさんが大好きなやつじゃないか!しかもメガネだぞ!メガネ!なぁ!?シルヴィア!?」
「私に話を振らないでもらえる?前も言ったけど私のスタイルにはこの胸が至高なのよ!一緒にしないで!見なさい!このエルフの究極のボディを!」
キランッとポーズを決めるシルヴィアだったが、ラヴィはそんな事よりシルヴィアが持っている物に興味が移っている。
「おいシルヴィア。その手に持っている物はなんだ?酒か?」
「柄にもなくポーズをとったんだから、ちょっとぐらい触れなさいよ!
まぁ良いわ。これはお盆と日本酒よ!お湯にお盆を浮かせてその上に日本酒を置き、湯船に浸かりながら1杯やる!私の夢の一つだったの!」
「な…なんだと!?そんな飲み方があったのか!?わ…私も一緒に飲ませてくれ!」
「仕方ないわね。その代わり、これから一生あなたの胸と私の胸を一緒にしないで!」
「分かりました!私は貧乳でシルヴィア様は美乳でございます!」
「うふふ。それで良いのよ!」
「バカじゃねーのかお前ら。二人共美乳じゃなくて微乳じゃねーか。」
タオルを畳んで頭に乗せているアヤネから痛いツッコミが入る。
そんな気持ち良さそうに湯船に浸かっているアヤネに、ラヴィとシルヴィアはネチネチと言い返す。
「え?ラヴィ?あれ誰?」
「ん?誰だろうな…。筋肉の付き方からして雌のオークかなんかじゃないか?魔物が居るなんて、女将さんにクレームを入れなければならないな。」
「てめぇら!人が最近気にしてる事をイジりやがって!」
「「お前もな!!」」
目くそ鼻くそな醜い罵り合いをしながらも、ラヴィとシルヴィアは日本酒を持って湯船に浸かる。
そして、浸かって早々お猪口にお酌し合うと、二人共満面の笑みで乾杯をする。
「シルヴィア姉さん!いただきやす!!」
「おう!飲め!」
クイッとラヴィが一口でお酒を飲み干すと、少し辛口だったためギュッと目を瞑ってしまう。
だが、お酒は温かく、そして優しく身体の中から癒すように胃に流れていく。
お湯で火照り始めた身体とは別に、日本酒によって顔まで熱くなってくる。そんな熱くなった顔を、外の涼しい風が撫でてくるとストレスなど吹っ飛んでいくようだった。
「これは…たまらん…。考えた奴は天才だ…。お風呂で飲食という罪悪感と、それを許されている自由の間でどうにかなりそうだ…。」
「はぁ…この世界に来て本当に良かったわ…。もう…世界樹とかどうでも良いもん…。」
「いや、そこはどうでも良くなったらいかんだろ…。」
「なんだ?雌のオークもこれが欲しいのか?」
「根に持ち過ぎだろ!うちは日本酒は飲めねーんだよ!後で風呂上がりのビールを楽しむために今は水分を我慢してる!」
「な!?しまった!カラカラに乾いた喉に流し込まれるビール…!そんな楽しみもあったのか…!」
本気で悔しそうにしているラヴィの横から、ジャバジャバと泳いできたレナが乱入する。
「ニャー!シルヴィア!レナにもそれ頂戴!」
「いいわよ。」
「あっ!ダメです!シルヴィアさん!レナにお酒飲ませたら!」
ルルが慌ててお酒を飲もうとするレナを止めようとするが、時すでに遅く、レナはクイッと日本酒を飲んでしまう。
「あー…、やっちゃった…。」
「え?何かダメだったの?」
「レナは酒癖がもの凄く悪いんです…。ネネさんから禁酒令が出るほど…。」
ルルのその言葉を聞いて全員がレナに注目する中、お酒を飲んでからしばらく立ち尽くして沈黙していたレナが、突然アヤネに絡みだす。
「ニャー!!何してんだよアヤネ!!アヤネも飲みなよ!!ノリ悪くない!?アヤネ!ノリ!悪くなーーい!?」
「うっぜぇぇ!!アホみたいな陽キャノリでくるんじゃねーよ!!」
「ニャニャー!!ちょっと!お酒貸して!!」
「な!?何をするの!?」
レナが無理矢理シルヴィアから日本酒の入った徳利を奪うと、お湯から出て逃げようとしていたルルの前で仁王立ちする。
「レ…レナ…。一体何をするつもりなの…?」
「ニャハハ…。ヒック…!ルルの胸の谷間にお酒を注いで飲む!!」
「や…!やめてよ!クズオヤジ社長がするような事しないで…!」
本気で嫌がるルルと、それを追いかけ回すレナを遠くから眺めていたラヴィはふと呟いた。
「胸…無くて良かった…。」
そして、酔っぱらったレナをラヴィとアヤネで取り押さえ、また後でゆっくり露天風呂に入る事にした一行は、旅館が用意してくれた浴衣に着替えて大広間へと向かう。
「はぁ〜…、本当に最悪だったよ…。」
「ルルよ!もう18時だし夕食を食べるんだな!」
「そうだよ。本当は部屋でも食べれたんだけど、どうせだし大広間でみんなで食べた方が良いかなって思って!」
「あ〜、早くビール飲みてぇ!」
酔い潰れてしまったレナを、ラヴィとアヤネが両サイドから支えながら歩いていると、目的の大広間の入り口が見えてきた。
そこからほのかに漂ってくる美味しい匂いが食欲を刺激してくる。すると、その匂いに反応したのか、レナがバッと目を覚まして大広間の襖を勢いよく開ける。
「ニャー!美味しそうな匂いだ!」
「おい!もう復活したのかよ!」
ラヴィとアヤネを吹き飛ばして襖を開いたレナが、開けたままのポーズで固まっている。
「ん?どうしたのだ?やはりまだ気分が悪いのか?」
ラヴィがそうやって心配して近付くと、レナは大広間の奥に向かって指を差す。
「ねぇ…あれって…。」
「ん?」
レナの指差す方向を、全員が襖から顔を覗かせて見てみると、そこには見知った男が誰かと2人でご飯を食べている。
「あれ、アルマだよね?」
「本当だ。クサレ魔王がなんでここにいるんだ?向かいに座っているのは確か白石という男だな。」
どり〜むは〜とのメンバーだけでも波乱が起きそうな日に、アルマまで絡むと一体どうなってしまうのか。
その頃、アムーザビルの前には、セリーナとイリスが遅れて到着した所であった。




