第81話 勇者と魔王と女神と新しい日々
ここはアルマが一度セリーナに肉塊にされたビルの屋上である。
そこに、セリーナが2つの光の渦を召喚すると、それに反応した宝玉によってラヴィとアルマがその渦から現れた。
「すまんのー!二人共!呼び出してしもうて!」
「ぬあぁぁぁ!白石と今月の家賃を賭けてゲームで対戦していたのに!!どんなタイミングで呼び出すのだ!!」
「私は大丈夫です!ところで話とはなんですか?」
両膝をついて悔しがっているアルマをよそに、ラヴィとセリーナは話を進める。
「うむ。それなんじゃが…。」
深刻そうな顔をしながら言い淀んでいるセリーナを、ラヴィが心配そうに覗き込む。アルマは未だに『ぬぉぉぉ!』と叫びながら悔しがっているようだ。
「どうされたのですか?かなり落ち込まれているようですが…?」
「実はの…もしかしたら気付いておるかもしれんが、お主らの力も宝玉に溜め込んだ善の力も、ヤオと戦う以前の状態に戻っておるのだ…。」
「えっ!?そうなのですか!?昨日と今日と力を使う事など無かったので気付きませんでした…。」
「最後にヤオがお主らの傷を治したり、建物を修復したり、ネネ達を復活させられたのは、時空分離された世界内の時間を戻したに過ぎんかったのじゃ…。
その影響でお主らがあの戦いで得た力もリセットされてしもうたという訳じゃ…。」
「なるほど…それは仕方ないですね!」
セリーナは、この事実を2人に伝えるともっと落ち込むだろうと思っていたのだが、意外とあっけらかんとしているラヴィを見て驚く。
「お主…ショックではないのか?」
「それは…あそこまでの力を手に入れた事が、全部無かった事になったのは少しショックですけど、私はそれ以上に大切なモノをたくさん手に入れましたから!全然大丈夫です!
集めた善の力は消えたかもしれませんが、そこに込められた想いは今も私の中で生き続けています!」
「ラヴィ…。お主はよくそこまで成長してくれたのー!わしは嬉しいぞ!」
嬉しさで思わずラヴィに抱きつくセリーナだったが、これだけ話を進めてもひたすら這いつくばって悔しがっているアルマには肩を落としてしまう。
「アルマ…。お主は今の事を聞いて何も思わんのか?」
「ククク…。そんなものどうでもよい!我はもっと凄いものを手に入れたのだ!」
「何!?それは一体なんなのじゃ!?」
「気になるか…それはな…。」
そして、アルマはその手に入れたものについて語り出した。
――時は遡り、ヤオとの戦いが終わって、アルマが白石の家へと帰った頃だ。
アルマが家の扉を開くと、たまたま玄関で白石が掃除をしている所だった。
「な…!なんちゅう格好で帰ってきてんの!?なんで半裸なの!?」
「激しめの運動をしてきたからな!セクシーな魔王もたまにはいいだろう!」
「どういう事!?よくここまで捕まらずに帰ってこれたね!?」
「警察に何度か呼び止められたがフル無視を決めてやったわ!」
「はぁ〜…。もういいよ…。ドロドロだし早くお風呂に入ってきてよ…。」
そうやって白石に促されるまま、アルマは風呂へと向かって体を綺麗にする。
風呂から上がると、リビングで白石がアルマへ淹れたコーヒーをテーブルに置いている所だった。
「おっ!気が利くではないか!」
「今日は瑠偉さんから店休日にするようにって言われてたからね。暇なんだよ。しばらくお店を休むみたいだし、どうしたんだろ。」
「どうしたんだろうな…。」
アルマは最後に見た瑠偉の笑顔を思い出す。それと同時にある事も思い出した。
「む!?そうだ!白石よ!瑠偉から何か封筒のような物を預かっておらぬか!?」
「あ!そういえば、瑠偉さんからアルマさんに渡しといてって言われて預かってたよ!」
そう言って白石は部屋に入って行くと、A4サイズの封筒を持って出てきた。
「これだよ。」
「ご苦労!」
アルマは白石から封筒を受け取ると、雑に破って中の書類のようなものを取り出す。
「ちょっと!もっと丁寧に出しなよ!」
「ん?これはどういう事だ?意味がよく分からんのだが…。」
「ちょっと見せてみて。」
白石がアルマから書類を受け取り、じっくり目を通すと衝撃的な事が書かれていた。
「えーーーーー!!!!!」
「な!なんなのだ急に!!殺すぞ!!」
「そんなにすぐ殺さないでよ…。って!違うって!これ…!これ…!」
白石は内容の衝撃から、上手く言葉が出てこないようだ。それを見ていたアルマは段々とイライラしてきている。
「だから一体何なのだ!早く言うのだ!」
「店…譲るって…。」
「は?」
「だから…アルマさんに…ペルソナ・アルクスを…譲るって書いてある…。」
「どういう事だ?」
「もう!これを見てよ!」
白石は、数ある書類の中から1枚取り出してアルマの目の前に突き出す。それは、瑠偉の手書きで書いてあるようだった。
『アルマちゃん!これを君が見てるって事は、僕はどっか遠くに行ってます!ってそれはアルマちゃんが一番分かってるか!なので!ご褒美としてアルマちゃんにお店あげるねー!じゃあねー!
PS.優愛ちゃんと上手くいくように頑張ってね!』
その紙に書かれた内容を見ても、アルマはあまり理解できていなかった。だが、段々と冷静になってくるととんでもない事だと理解できた。
「なにぃーー!!我がペルソナ・アルクスのオーナーになるという事か!?」
「た…たぶん…アルマさんに経営権を譲渡するための書類とか入ってるし…。」
テンションの上がったアルマは、ベランダに飛び出すと、夜空に向かって高笑いを上げる。
「フハハハハ!!!我の時代が来たのだ!ペルソナ・アルクス…確か『仮面の城』という意味だったか!?とうとうこちらの世界でも我は城を手に入れたという事だ!!フハハハハ!!!」
アルマが店のオーナーになるという事件に、白石は大きく頭を抱えてしまっている。
(終わった…終わったよ…アルマさんがオーナーなんて…秒でお店が潰れちゃうよ…。)
――そして現在。アルマの話を聞いていたラヴィとセリーナは、これからアルマの下で働いていくホスト達を思うと不憫でならなかった。
「なんと可哀想な…。こんな奴が店のオーナーとは…。童貞だぞ。無理だろ…。」
「お主…経営などできるのか?童貞には難しいのではないか?」
「童貞童貞うるさいわ!!経営には関係ないだろうが!世の童貞社長のみなさんに謝るのだ!!」
「ふむ、まぁ良い。さらに人間社会を学ぶ良い機会じゃ。精進するのじゃぞ。
で、ラヴィはこれからどうするのじゃ?どり〜むは〜とで働いていくのか?」
「はい!また善の力を集めていくのならそれが最適解だと考えています。少しの間お店を閉めて打ち上げに行こうって話になっているので、セリーナ様も暇があるなら一緒に行きましょうね!」
「そうかそうか。行けたら良いのー!」
そして、セリーナはもう一つの重要な事、『流浪の勇者』の件を2人に今話そうか迷っていたが止める。新しい日々が始まり、それがもう少し落ち着いてからで良いと思ったのだ。
「今はこれぐらいかの!また何かあれば呼び出すからその時は頼んだぞ!」
こうしてセリーナ達は話を終えて解散した。ラヴィ達が帰路についた後、セリーナは夜空を見上げて1つだけ静かに願う。
『平穏に全てが終わるように』と…。




