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メイド勇者とホスト魔王  作者: わったん
第六章 新しい日々の始まりと神官編
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第79話 女神と神官

 ここは一本橋の外れにあるヤオが所有していたタワーマンションの一室。


 神の文字で書かれた書類が山のように積み上げられたテーブルの前で、必死の形相でそれらに目を通しているセリーナがいる。

 ヤオから世界を引き継いだのは良いが、余りにもやらなければいけない事が多過ぎて、セリーナの目の下にはクマができている。


「こ…このままでは…わ…わしは死ぬぞ…。エルサンガの世界も調整していかねばならんのに…。」


 とうとうプルプルと小刻みに震えだしたセリーナに、ヨルカがコーヒーを淹れて持ってくる。


「そのまま死ねば私達は助かるアル。あ、ミルクと砂糖は自分で入れろアル。」


「お主は本当に…。真面目に働くのじゃ!」


 なんだかんだ言いながら、コーヒーが来たのは嬉しかったのか、セリーナはミルクと砂糖を大量に入れている。

 『ガーーーーッ』という音が聞こえてきたかと思えば、掃除機をかけているキョウが近くにやって来た。


「主さんがテーブルでうたた寝をしていた時、襲って殺そうかと思いんしたが、やれる気が全くしなかったでありんすね。あのハルさんですら言う事を聞いて風呂掃除しているとは…見事でありんす。」


 キョウが言い終わると、『ギーーーーッ!!』という叫び声が風呂場の方から聞こえる。おそらくストレスでハルが発狂しそうになっているのだろう。


 そんな叫びを優雅なBGMに脳内変換して、セリーナは一旦落ち着くためにコーヒーを口へと運ぶ。


「お主らを解放するにはもうしばらく様子を見んといかんのは分かるじゃろうが。元の世界に帰そうにもお主らの世界は崩壊しておったしな。」


「どうすれば解放してくれるアルか?」


「わしが良しと判断したらじゃ!まずはこの世界にお主らのような巨悪が何人もいらんのじゃ!

今は、大人しくこの世界に馴染んで生きていくための修行と思え!」


「面倒臭いでありんすね〜。」


「それに私達は今回の事を起こすまでは大人しくしていたアル。やればできるアル。」


「それはヤオやミユミユの監視があり、自分の欲を発散させるという目的があったからじゃろうが!

それが無い今はお主らがどう行動を取るか分からん!じゃから危険が無いと判断するまではわしのそばで色々学ぶのじゃ!」


「はいはい、分かったアルよ。」


 問題が山積みでも、ヨルカ達の面倒をしっかり見ているセリーナだったが、とある気配が近付いてくる事に気付いた。


「む…来おったか…。」


 すると、『ピンポーン!』とチャイムの音が鳴る。セリーナがインターホンの画面を見ると、そこには賢そうなメガネを掛けたOL風の金髪女性が立っている。

 それを見たセリーナは、『はぁ〜…』とため息をつきながら下の扉のロックを解除した。


 しばらくすると、今度は玄関のチャイムが鳴る。


「来客アルか?」


「うむ…。今のわしにとって一番厄介な者じゃ…。」


 頭を抱えるセリーナの耳に、玄関の方からハルの発狂した声が聞こえてくる。


「ガーーーー!!!さっきからピンポンピンポンうるさいんだよね!ただでさえイライラしてるのに!誰だよ!」


 セリーナ達のいるリビングのドアの向こうから、『ガチャ!』というハルが玄関の扉を開けた音が聞こえる。


「誰だよお前!あっ!何だ!?何をするんだ!?やめろよ!」


 セリーナからは玄関で何が起きているのかは見えないが、だいたい想像がつく。

 玄関で『バタンガタン!』と騒々しい音が聞こえたが、すぐに静かになる。


 そして、セリーナ達がリビングのドアに注目していると、しばらくしてドアがゆっくりと開く。

 ドアの開いた先に居たのは、先程インターホンの画面に映っていたOL風の金髪女性と、その女性に片手で首根っこを掴まれて持ち上げられているハルの姿であった。


 まるで猫のようになっているハルを、ポイッと部屋の隅に放り投げると、その女性はセリーナに話し掛ける。


「セリーナ様。素晴らしいお出迎えありがとうございます。私、神官の『イリス』と申します。

以後お見知りおきを…。」


「知っておるわ…。ただでさえ神官が来るのは鬱陶しいと思っておったが…まさかお主がやって来るとは…〝ジジイ〟は相当怒っておるという事か?」


「最高神のベルゼ様をジジイ呼ばわりは、神法しんぽう第二条に抵触する恐れがあります。お気を付け下さい。」


「かーーっ!噂に違わぬ真面目さじゃな!」


「それが私の取り柄ですので。」


 イリスと名乗る女性が、手でクイッとメガネを上げる横で、いつの間にか臨戦態勢に入っているヨルカとキョウがセリーナに質問をする。


「こいつ…何者アルか?」


「只者ではないオーラを感じるでありんす…。」


 今にもヨルカ達がイリスに飛び掛かりそうな雰囲気の中、セリーナは2人をたしなめるかのように答える。


「良い良い。少し大人しく向こうで待っておれ。」


 セリーナのその言葉を聞くと、納得しかねる顔をしながらも、ヨルカとキョウはハルを連れてリビングから出て別の部屋へと行くのだった。


 その3人の後ろ姿を眺めながらイリスはセリーナに質問をする。


「あの方々がヤオ様に連れて来られたという他の世界の魔王候補ですか?」


「そうじゃ。」


「未だに彼女達を生かしているというのは何故でしょうか?危険ではありませんか?」


「大丈夫じゃ。この建物全てを覆うようにわしの結界を張っておる。あやつらがわしの許可無しでは出入りできんようにな。」


「いえ、私は彼女達を生かしている理由をお聞きしているのです。」


「ぐぐぐ…!お主は面倒臭いのー!」


「申し訳ございません。全てを調書せよとベルゼ様のご命令なので。」


「あやつらはヤオが連れて来ていなければ、元の世界で運命を全うしておったじゃろう。その結末が幸か不幸か…どちらであったかは分からんがの。

じゃから、わしの監視下であやつらの納得いく最期を迎えさせてやりたいと思っての。」


 セリーナの答えに、イリスは少し首を傾げる。


「理由としては不十分ですね。セリーナ様との話が終わり次第、私が処分しておきます。」


 イリスの返答に、セリーナから怒気が漏れ出る。それは目の前のコーヒーカップを『パリンッ!』と割ってしまうほどであった。


「おい。わしがしばらくあやつらの面倒を見ると言っておるのじゃ。邪魔をするのか…?」


 いくら幼女の姿とはいえ、セリーナの怒気に触れた者は恐れおののくのだが、イリスはそれに眉一つ動かさずに対応を始める。


「私の発言により、セリーナ様の気分を損ねてしまった事は謝罪致します。

ですが、そのような理由でベルゼ様がご納得されるとは到底思えませんでしたので。」


「あー!分かった分かった!この件はまた後で話す!それにあやつらを生かしているのにはもう一つ理由がある!」


「お聞かせ下さい。」


「もしも、この世界を脅かす存在が現れた時に、あやつらを戦闘に参加させるためじゃ!

この世界を狙う者はまだまだ数多い。そうじゃろ?」


「えぇ。今回私が来た大きな理由が2つあり、その内の1つがそれですね。」


「という事は…。もう誰かがここを狙っておるのか?」


「ヤオ様との戦闘中に生じたあるモノを感知して、『流浪の勇者』がこちらに向かおうとしていると報告がありました。」


「なっ!?『流浪の勇者』じゃと!?そのあるモノとは…まさか…。」


 イリスの口から出た『流浪の勇者』とは一体何者なのか。セリーナの表情から読み取れるのは、それがとてつもなく危険な者に違いないという事だけだ。


 一難去ってまた一難、ラヴィとアルマの運命を大きく変える出来事が起きようとしている。

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