9 つまらぬものですが。
佳奈巳が玄武を引き受けたことにより、ついにクワトロフォースのメンバーが揃った。灰塚実里はあの後、井村からかなり強く何かを言われたようで、以降、姿を見ることはなくなった。社内では、井村が怒った、ということが一躍話題になるほどだった。
「まぁ色々あったけど、これで新生クワトロフォース、無事にデビューできるな」
龍太郎は四人のメンバーを見回し、感慨にふける。
「ほんとにね。間に合ってよかった。……まさか私がメンバーになるとは思わなかったけど」
ため息をつく佳奈巳だが、その顔はどこか満足気だった。
「……そういえば、自分らのデビューって何するっすか?やっぱりみんなと同じ、名乗りっすかねぇ!」
「おっ!いいじゃん名乗り!考えとかなきゃねっ!」
楽しげな空と志麻子をよそに、龍太郎はきっぱりと言った。
「いや、名乗りはナシだ」
その声に、場が静まり返る。
「……え?」
「いや、名乗ってる時間が無駄だろ。その間に敵に攻撃されたらどうする。そんな暇があったら、敵の背後から奇襲をかけた方がいい」
「いや、それやってること悪役じゃ……」
戸惑う空と志麻子。
「じゃ、じゃあ必殺技を披露するとか!こう、技名を叫びながら派手にどかーん、と!」
「あ、それもナシ。技名叫びながらやったら読まれるだろ。攻撃は読まれないように、確実に当てにいったほうがいい。あと街に損害出したとき、賠償は誰がすると思う?」
空と志麻子は顔を見合わせ、しょんぼりとした顔をしている。佳奈巳はというと、また言ってるよ、という表情で腕を組んでいた。
「……素晴らしいと思います、指揮官」
口を開いたのは美羽だ。龍太郎はオホンと咳ばらいをする。
「……そもそも、ヒーローの役割は命と街を守ることだ。注目を浴びることではないし、ましてやそれで金儲けをすることでもない。……最近の業界は、金目当てになってきてるがな」
龍太郎に続くように、佳奈巳が淡々と続けた。
「それは実際そうなの。名乗りに時間と労力を割きすぎて人命救助が疎かになったとか、派手な必殺技を使ったはいいが損害も大きいとか、問題視する声も挙がってる。実際、テレビでも最近はそういうニュース流れるからね」
龍太郎がこうした主張をするのにはわけがあった。もちろんヒーロー業界に身を置く彼自身の思想は多分に含まれているわけだが、そこには美羽の過去も関係している。
「……指揮官と佳奈巳さんにはお話したことがありますが」
美羽は静かな口調で続けた。
「私の父は消防士でした。まだ私が子どもだった頃、大きな火事があって、父は出動して……。そのまま、帰ってきませんでした」
美羽の目には涙が浮かんでいる。
「だから私は思うんです、どんなに強かろうと、かっこよかろうと、生きて帰らなければ意味はない。生きて帰ってこそのヒーローだ、と」
いつの間にか空が涙をこぼしていた。
「う、うぅ……感動したっす……!自分が間違っていたっす!」
龍太郎は、空がまた詐欺に引っかかるのではないかと心配になった。
「そっか……そうだよね。ウチらがやろうとしてるのは、人助けだもんね。人よりお金集める方が大事にになっちゃいけないもんね」
志麻子も納得した様子で頷いている。どうやら今回は美羽の主張が通ったようだ。
「……そうだ、それでいい。きっとプロミネンスや世間からしちゃつまらないやり方だろうが……それでいいんだ。きっちり怪人倒して、無事に帰ってくればそれでいい」




