12 悪質な引き抜き
クワトロフォースのデビュー前日。最後の練習を行った後、明日の流れを確認し、この日は解散となった。終業のベルが鳴り、他の社員がぞろぞろと帰っていく中、龍太郎はひとり残っていた。
練習、というのは模擬戦の練習である。ヒーローはデビュー日に模擬怪人と戦い、どんなヒーローかをアピールするのが恒例となっている。最初は合わなかったメンバーの息も、今ではぴったりだ。
「龍太郎くん、まだいたんだ」
背後から声をかけてきたのは佳奈巳だ。
「……帰ってなかったの?」
「うん。龍太郎くん、きっと残ってなんかやってるだろうなーって」
「大したことしてないよ。地方の怪人出現情報漁ってるだけ。デビューしてすぐ動けるようにね」
そこへ、井村がやってきた。
「二人とも、お疲れさん。明日はいけそうかい?」
「まぁ、できることはやったので、あとはなるようにしかならないというか……」
「はは、大丈夫大丈夫。きっとなんとかなるから。……それより、ちょっと重大な情報なんだけど」
ここにきてなんだよ、と思う龍太郎だが、大人しく耳を傾けることにした。
「……プロミネンスからデビューするストロングフォー。あのメンバーが誰なのか、色々聞いて回ったんだよ。そしたらびっくり。前にここを脱退した三人が入ってる」
龍太郎は思わずデスクから立ち上がった。佳奈巳はうわぁ、という顔をしている。
「いやいや、じゃあプロミネンスの連中はあの三人をこっそり引き抜いてたってことですか?」
「たぶんそうなんだろうね。いやー参ったね。いくらなんでもそこまでするかい?普通」
親会社に対する怒りとともに、龍太郎は僅かな安堵を覚えていた。前にクワトロフォースを脱退した三人。それならば、協調性はないに等しいだろう。特に、指示待ち人間の水原涼香とプライドの塊の砂田敦は、確実にチームに亀裂を入れるはずだ。
「……まぁ、向こうは向こうでほっとくしかないですね。こっちはやれるだけのことやればいいんで」
「うん。期待してるよ。黒亀さんも、わざわざありがとうね」
佳奈巳が井村に会釈をすると、井村はその場を去っていった。
「……龍太郎くん、大丈夫?」
「え?何が?」
龍太郎はけろりとしている。
「いや、だってここまで全部プロミネンスの思うツボだったってことでしょ?」
「まぁね。でも、黒亀さんは見てきたでしょ?あいつらがどんな人間か。ストロングフォー、あれ余程のことがない限り、上手くいかないよ。むしろ楽しみだ」
龍太郎はマグカップの中のカフェオレをぐいっと飲み干した。
「明日のデビュー、世間の目はまずストロングフォーに向く。そこであいつらがどこまでやれるのか、見ものだな」




