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だからもう迷わずに進めばいい

 シーダストン周辺に広がる平原地帯。大陸の中で比較的王都に近いこの地域では、定期的に討伐隊の遠征が行われるため、あまり危険な魔物は少ない。


 パーティ登録と冒険者登録を済ませた新生勇者パーティは、取り敢えず、冒険者ランクを上げることと、自分たちの実力を確かめることを目的とし、この場所を対象とする低ランクのクエストを受注していた。


 正式な勇者パーティの登録を行えば、冒険者ランクに拘わらず、あらゆるランクのクエストの受注ができるのだが、その手続きを行えるのは王都のギルドだけだ。

 非正規の勇者パーティは通常の冒険者パーティと同じ決まりに則り、メンバーの中で最も低いランクの者に合わせたクエスト受注しか行えない。


 つまり、報酬が良い高ランクのクエストを受注するにはリコリーとシルビアの冒険者ランクを上げることが必要条件であり、このパーティの第一目標となっていた。


「言い出してはみたものの、本当にこのパーティでやって行けるのかな?」

「大丈夫っスよ。何とかなるっス」

 

 フェネルは、いざというこのタイミングで、押し寄せる不満に後ろ髪を引かれながらとぼとぼと歩いていた。

 

「楽観的だなぁ……。元々勇者パーティに居たリコリーや現勇者の俺はともかく、元公爵令嬢だったシルビアに魔物との戦闘なんてできるのか? 貴族に戦闘技能なんて必要ないだろ?」

「それなら心配はありませんわ! 王都からシーダストンまでの道のりは誰の助けも得ずにやって来れたわけですし」

「そうは言っても、王都に向かえば向かうほど魔物のレベル的には安全圏になるわけだしなぁ……」

「あぁ。あと、貴族学園で三月に一回ほど行われていた実技試験ではAランク相当の評価を貰っていましたわ!」

「Aランクだとッ⁉」


 冒険者のランクは高い順にSS,S,A,B,C,D,E,Fの計8ランクに分類される。


 最上位のSSランクに関しては制度上、一応存在はするが、基本的には偉業を成し遂げた英雄に死後与えられるような絵本の中の称号のようなもので、実態はない。つまり、Aランクは事実上この大陸でトップ2のランク帯に身を置く実力者ということだ。


 因みに、フェネルが勇者として見出された時点での試験結果でも、Aランク相当という評価を貰っていた。


「……貴族学園の実技試験がザルだったってわけじゃないよな? あとは、公爵令嬢様に対する忖度とか」

「あら、フェネル。貴方、私の実力を侮っているのではなくて?」

「いや……そういうわけじゃないけども」

「ほーら、二人とも。実力なんて一度敵と戦えば自ずと理解できるもんじゃないっスか! アーミーホッパーの巣はもうすぐ近くっスよ」


 リコリーが二人の背中を押した瞬間──


「キャーッ! 助けてぇッ!」


 ──悲鳴が聞こえた。

 

 遠くからの鬼気迫る女性の声だ。

 フェネルが指示を出そうと考えたときには既に、シルビアは足を踏み出していた。


「シルビア! ちょっと待てッ!」


 フェネルはシルビアの腕を掴んで呼び止めた。


「待っている暇はありませんわッ! 今まさに、民が助けを呼んでいるんですわよッ⁉ 行きたくないというのであれば、二人はここで待っていてくださいまし!」

「そうじゃない! 行くなら一緒に行く。お前の力で俺たちを運べるならそうしてくれ。それが出来なくても、お前一人に行かせるわけにはいかない。それがパーティっていう物だろッ⁉」

「フェネル……」


 シルビアだけでなくリコリーでさえも目を丸くする。これまで天涯孤独のソロパーティをしてきた人間の言葉とは思えなかったのだ。

 

「貴方の気持ちと心遣いは受け取りました。ですので、頑張って私の後ろを付いて来てくださいまし」

「え?」


 フェネルがシルビアの真意を理解する前に、彼女は詠唱を始めた。


「空よ聞け。風よ従え。重力の鎖を断ち切り、我が翼無き身を天へと運べ──『飛行付与フライトブースト』!」


その瞬間、彼女は飛び出した。──そう、本当にこの文字通り彼女は“飛び”出したのだ。

 高貴なドレスが舞い、彼女の華奢な身体が宙に浮く。そして、遙か上空に上って周囲を見回した後、彼女はある一点を見つめて加速し始めた。


「うそーん」

「何あれ、飛行魔法っスか⁉ 貴族階級の名のある血筋にのみ受け継がれる『特権魔法』。ほんと、昨晩から聞いたことも無い話や見たこともない光景ばかりっス!」


 呆然自失で立ち尽くすフェネルと、初めて昆虫に触れた少年のように目をキラキラとさせるリコリーだったが、再度女性の声を聴いて我を取り戻した。


「こうしちゃいられない! リコリー、俺に掴まれッ!」

「え? フェネルも飛行魔法を使えるんスか?」

「今、自分で貴族にしか使えないって言ってたんじゃないか?」

「じゃあ、どうやって……って、えッ⁉」


 フェネルの小さな身体に負ぶってもらう形で身を預けたリコリーは、彼の詠唱を聞いて驚いた。それは、彼女がよく知る攻撃魔法の詠唱だったのだ。


「なんで、今このタイミングで風属性の攻撃魔法なんスか⁉ 敵なんて何処にもいないっスけど」

「飛べない俺が飛ぶ唯一の方法だよ。絶対に手を放すなよッ!」

「は⁉ ちょっと待ッ──」

「『乱流竜巻グランドサイクロン』──最大出力ッ!」


 地面に対して放たれたのは、筒状に圧縮された暴風だ。轟音を響かせながら大地を抉り取る。それに対する斥力はみるみるうちにフェネルの身体を宙に浮かして行った。


「確か、シルビアが向かったのはあっちの方角だったよなッ!」

「ちょいちょいちょいッ! マジで勘弁してくださいっスーッ⁉」


 平原地帯の上空。涙の軌跡を残しながら飛び往くジェット気流は、助けを呼ぶ女性の声よりもよっぽど大きな悲鳴を上げていた。


作者Xアカウント

https://x.com/Nagomu_Kietsu


他サイトでの掲載URL

アルファポリス

https://www.alphapolis.co.jp/novel/63248309/109064342

カクヨム

https://kakuyomu.jp/works/2912051602276471114/episodes/2912051602276737425


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