第9話 初仕事後の一息
正直、今回のオークの討伐は楽しかった。
いつものように、生態系を気にして殺さないように、わざわざ手加減する必要もなく、向けてくる殺意も少し前世を思い出させるものであり、焼肉食べ放題に行った時の様な満足だった。
強いて言えば、もう少し骨のある相手がいれば尚良かった。
「今回の素材は本当に全部換金していいのか?」
「いいわ。私が今欲しいのはお金なの」
二人はマイヤーの冒険者ギルドに帰ってきていた。
「わかった。じゃあその金は後日精算して渡すとして、とりあえずこれが今回の達成報酬だ」
この世界でのお金は、前世と同じで紙幣と硬貨が使われている。通貨単位はルミナだ。
報酬の百万ルミナを受け取る。
依頼の報酬は、基本的に依頼を出した者が出すことになっている。
今回はオークの被害があった村からの依頼であったが、あの村から百万ルミナを出すのは結構な負担がある。
だからといって、依頼を出さずに放置していると被害は拡大していき、最悪この街まで被害が及ぶこともある。そういう時のために、依頼の内容によっては報酬の何割かは国が負担する決まりがあるようだ。
「それとこれが嬢ちゃんのギルドカードだ」
秘匿冒険者であるため、本人情報はファーストネームしかギルドカードに記載されていないが、ギルドカードには所持者の魔力が登録されており、魔力が一致しているかいないかで本人確認ができる仕様だ。
ちなみにアステリアのランクはAになっている。
このランクに関して、ギルドマスターは頭を抱えていたらしい。上位個体のオークキングがいる五百を超える集団を殲滅したため実力的にはAで問題はないが、年齢が五歳の子供であるため、Aランクを本当に与えていいのか悩んだらしい。
まあ登録できれば、ランクなんてなんでもいいわ。
「聞きたいことがあるんだけどいいかしら」
「なんだ?」
「この辺の治安ってどう?」
正直今日マイヤーの街を見た感じだと、人が少ないせいなのか目立った治安の悪さは感じなかった。
ギルドマスターは少しだけ考え込み、口を開いた。
「悪いと言われれば悪いのかもしれないな。他の街と比べると犯罪件数は確かに少ない。だが、人が少ないが故に巨大な犯罪組織の拠点の一つになってると話を聞いたことがある。本当にあるかは知らないがな」
「そうなのね。分かったわ。ありがとう」
楽しみが増えそうね。
アステリア密かに笑みをこぼす。
「そういえば今更だが名乗ってなかったな。俺はローナン。ローナン・ギルフェルドだ」
「アステリアよ。改めてよろしくね」
別れ際に遅すぎる自己紹介を済まし、冒険者ギルドを後にする。
「確か、地球の人間を召喚し始めたのは、おおよそ十万年前って言っていた気がしたけど、この文明の発展速度はかなり遅いわね」
アステリアは、街の高台からマイヤーを眺めている。
精霊神とは、あれから何度も話をし、さまざまな情報を得ていた。
二十万年前ほどにこの世界が誕生し、その後時間をかけて植物や動物、魔物を様々な世界から召喚し、この世界に定着させてきた。そして人間や亜人を召喚し始めたのは十万年前とのことだ。
ちなみに召喚は様々な時代から呼べるらしく、基本的にはアステリアが秋風廉次郎だった時代から召喚することが多いとのこと。
それなのに、十万年経ってもあまり発展していないのはおかしい。
ただ全く発展していないかと言われるとそうでもない。
ある一点の分野だけ地球レベルに発展していて、他は中世並といったアンバランスな発展の仕方をしている。
「魔道具を使用しているとはいえ、下水処理技術は地球並の発展はしているけど、車は無くて移動手段は基本馬車なのはね……。お金持ちの人は飼いならした魔物で、さらに速く移動できるみたいだけど」
文明が発展していないのには色々理由がある。まず召喚される地球の人間は、高校生ぐらいの子供が多いことだ。
知識が豊富な大人の技術者が召喚されていたら、かなり発展していたかもしれないが、そこまで専門的な知識を持たない学生が召喚されていたことが大きな要因の一つだろう。
精霊神オーロリアを含む三神は、この世界の発展を目的としている。それなのに技術者を召喚しなかったのはなぜか。それは結果だけでなく、その過程も大事にしているからだ。
いきなりポンと高度な技術の産物が出来上がるよりも、様々な苦悩や挫折を経て発展していく、その過程も目的の一つらしい。
それにしても、この発展速度はあまりにも遅い。
それに関しては、三神も同意で遅いと悩んでいる。
過去には刺激を与えるために、地球の物語を参考に人類共通の敵として、魔王を誕生させたこともあったしたらしいが、結局効果がなかったため、数百年で辞めたとのことだ。
三神は意外とポンコツなのかもしれない。
アステリアは、その後しばらく街を眺めてからヴィステール領の家に帰った。




