第8話 大量発生、殴り放題
馬に乗った一人の男性に対し、その隣を走る一人の少女。
「あなたも、走れば良かったのに」
「そんなことしたら、嬢ちゃんに置いていかれるだろ。まさか嬢ちゃんが、こんなに速いとはな」
いくら身体強化をしているからと言っても、子供がここまで速く走れるのはおかしい。しかも馬より速いときた。
「ひとまず、そこの村に馬を預けてから森に入る」
「わかったわ」
目の前にある村に向かい、馬を預ける。そして村人から軽くオークの情報を聞いてから森に入った。
「やはり日に日に被害が増加しているらしいな」
「マイヤーは冒険者不足だから大変ね」
「そうだ。だからこの案件は俺がしようかと考えていた」
ギルドマスターは元Aランク冒険者らしい。ちなみに名前はまだ知らない。
「良かったじゃない。私がいるからこれからはそういう苦労はしなくて済むわよ」
「それは嬢ちゃんがちゃんと実力を示してくれなきゃな」
「あなたもそろそろ気づいているのでしょ?私の実力が口先だけではないことに」
視認でき、強大な圧を感じる魔力と、ここに来るまでに見せた異常なまでの身体強化術。
確かにもう疑いようがなかった。
「それでもこの目で見ないと登録はできない」
「わかっているわ」
「ちなみにだが、オークは単体でもCランク案件の魔物だ。それが五百体以上。そしておそらく上位個体もいるだろう。トータルで見てもの今回の案件は、最低でもAランクに相当する。ちなみにだが、嬢ちゃんが対処しきれないと判断したら俺も参戦するからな」
「安心して。そんなことにはならないわ」
森を歩くこと一時間。
前方にはオークが三体。それを二人で隠れながら確認する。
「それじゃあお手並み拝見といこうか」
「サクッとやってくるわ」
そう言ってアステリアはさっと駆け出る。
オークはそれに気づき、持っているこん棒を振り上げるも、アステリアはすでに懐に潜り込んでいた。
「破拳」
アステリアは振りかぶった拳を、オークの腹部にたたきつける。打撃と同時に前面に打ち出される圧縮した魔力。
炸裂する轟音と共に、オークの上半身が消し飛んでいた。
残された二体のオークは、一瞬の出来事に困惑している様子。
アステリアは余韻に浸ることなく、すぐに残りのオークに狙いをつける。
そして三十秒もかからない時間で、オーク三体を始末した。
「もろいわね」
血だまりな中、残骸を見下ろす少女。返り血を浴びたにも関わらず、余所行き用のワンピースは一滴の血も付着しておらず、真っ白なままだ。
「おいおい。まさかステゴロとはな。てっきり魔法メインの遠距離型かと思っていたんだがな」
「魔法を使った遠距離攻撃も、そこそこできるわ。でも私は近接格闘が好きなの」
「……そうかい。で、あれだけ血を浴びてなんで汚れていないんだ?」
「それは魔力障壁で全身を覆てるからよ。汚いじゃない。それに白だから汚れが目立っちゃうのよね」
汚れ対策の魔力障壁。防御のための魔法で、普通はそんなことに使わない。
それだけ余裕のある相手だったとのことだろう
話していると、再び前方にオークが見えてくる。距離は百メートルほどだ。
「ねえその腰に下げている剣を一本貸してくれる?短い方でいいわ」
「別にいいが扱えるのか?」
「当然よ。それに剣だけじゃなくて、いろんな武器も扱えるわ」
ギルドマスターは腰に下げている二本の剣の内、短い方をアステリアに手渡す。
剣を抜き、鞘をギルドマスターに返す。
「いい剣ね」
「そりゃあ何度も死線をくぐってきたからな。それなりにいい剣は使うさ」
アステリアは、再びオークの方を見つめる。
百メートル先に二体。さらに、その十メートル奥に三体。
アステリアは地面を蹴り、オークに急接近する。
そして、一瞬で五体のオークの頭部を流れるように切り落とした。
「とんでもない剣裁きだな。一瞬すぎて動きが見えなかったぞ」
「ありがとう。剣もなかなか楽しかったわ。でも、やっぱり私の体には少し大きかったみたい」
そう言ってアステリアは、剣をギルドマスターに返す。
「そろそろオークの集落が近いかもな」
「そうね。ここからは一気に駆け抜けるわ」
「俺は邪魔にならないよう後ろから観察に徹するよ」
アステリアは探知魔法で集落の位置を割り出し、一切迷うことなく足を進める。
基本的には殴りや蹴り、投げなどの近接格闘術でオークたちを始末していく。時よりオークが持っていた武器による投擲や、魔法での遠距離攻撃も交え、一体も逃がすことなく着実に駆除を進めていく。
ちなみに使用する魔法は森で火災が起こらないように火や雷は避け、風魔法をメインに使用している。
小さい手から放たれた風魔法は、竜巻の様に渦を巻きながら一直線に伸び、複数の敵を巻き込む。
巻き込まれたオークたちは、四肢や頭があってはならない方向を向き絶命している。
集落に近づけば近づくほどオークの数が増えていき、ハイオークやオークジェネラルなどの上位種も確認できる。集落に着いた時点で目視できるオークの数は、百を軽く超えている。
そして、奥にある洞窟にも魔力反応がある。
数はざっと二百。中でも一際大っきい魔力が二体。内一体は、もう一体の二倍以上の魔力量だ。
洞窟からぞろぞろとオークたちが出てくる。
ここに来るまでの間に、最低でも二百体は倒している。ここのオークを倒せば、五百体は超えるだろう。
集落に入った瞬間、一人の少女を数百のオークが取り囲む。
絵面的には、いかにも絶体絶命の少女の様だ。
「さあ蹂躙よ」
そこからは早かった。アステリアは一撃一撃でオークを確実に屠っていく。オークたちはアステリアを攻撃や、束になって捕まえようとしても、異常な身体強化での機動力の前では、触れることすら出来なかった。
恐ろしい早さで、数が減るオークたち。
それに焦ったのか、オークジェネラルは雄叫びを上げ、迫ってくる。
オークは、上位種になればなるほどいい武器を装備している。特にオークジェネラルは冒険者から奪ったであろう大剣と、無理矢理合わせたような防具も装備している。さらに通常のオークより体格も一回り大きい。
アステリアは、オークジェネラルの大剣をひらりと躱し、すれ違いざまに手刀で首を切断する。
絶命と共に大剣はずるりと手から落ち、地面に突き刺さった。
アステリアはその大剣を手に取り、オークに向けて投げつける。
回転する大剣は複数のオークを切り裂き、壁に突き刺さり停止する。
それから止まることなく、オークを始末していくこと五分。目視できるは十体になっていた。
そして洞窟から一際大きい個体が出てくる。体格はジェネラルよりも大きく。二本の大剣に防具も装備している。
洞窟内に感じた、大きな二つの魔力の内の一体だ。そして、まだ奥に二倍の魔力量の個体が一体残っている。
「ジェネラルよりも圧倒的なオーラ。オークキングね」
オークキングは、オークの中でも圧倒的な戦闘能力を誇っており、単体でAランクの案件になるほどの強敵だ。
「丈夫そうね」
雄叫びをと同時に、二本の大剣がアステリアを襲う。
魔力による動体視力の強化と、思考速度強化により、アステリアは冷静な態度で迫りくる大剣の腹をコツンと軽く殴って軌道をずらし、最小限の動きで攻撃を避ける。
そして、拳を防具があるオークキングの腹部にたたきつける。
「破拳!」
圧縮した魔力を打ち出す拳は、轟音と共にオークキングを大きく後方に吹き飛ばした。
「やっぱり丈夫ね」
オークに打ち込んだ時は上半身が消し飛んでいたが、ダメージは負っているもののオークキングは原型をしっかり保っていた。
「それなら新技の実験体になってもらおうかしら」
そう言うとアステリアは、オークキングとの距離を一気に詰め、再び拳を構える。
先ほどの一撃によるダメージのせいか、オークキングは迫りくる少女に対し、片膝をついたまま動くことができなかった。
「破拳・火竜!」
先ほどと同じで、打撃と共に打ち出される圧縮した魔力。だが、その圧縮した魔力は火属性に変換されており、竜の姿となってオークキングを飲み込む。そのまま後方に吹き飛び、洞窟の入り口近くの壁に激突し、激しい炎が立ち上がった。
この一撃で、オークキングは絶命した。
そして、その場に残されたのは普通のオークが十体。
アステリアは、そのオークをさっと始末し、一呼吸つく。
「後は、洞窟の奥に居るやつだけね」
洞窟の奥にいる個体は、動く様子がないようだ。動くつもりがないのか、そもそも動けないのか。
「終わりか?」
離れた場所から観察していたギルドマスターが近づいてくる。
「まだ洞窟の奥に一体いるみたい。でも動く気配がないのよね」
そう言いながらアステリアは、精霊の指輪を使いオークの亡骸を精霊界に送る。
帰ったら解体してもらおう。
「おそらく奥に居るのはクイーンだな。そういえばさっきから思っていたんだが、それはなんだ?最新のマジックバッグか?」
傍から見たらオークの死体がよくわからない空間に引きずり込まれている風に見える。
「詳しいことは言えないけど、魔道具に近いわね。簡単に言うと別の場所に転送しているの。帰ったら解体場に出すから安心して」
便利なバッグ代わりである。
ちなみにこのことは、精霊神オーロリアに許可は取ってある。しかも送った死体は、時の精霊が時間を止めてくれるため腐敗することもない。
「ところで、オークにクイーンがいるのね」
「ああ。オーククイーンは一つの群れに基本一体だ。まあいない群れもあるがな。魔力と図体が以上にでかく、基本的に動くことはない。というか動けないパターンがほとんどだ。つまり戦闘能力は皆無ってことだ」
「なるほどね。クイーンは子を産み群れの数を増やすことが役割ってことね。蜂みたいね」
「そうだ。ただ個体数が少ないゆえに、採れる素材の価値は結構高い。特に魔石は高額で取引されている」
「なら早く行きましょう」
おっさん一人と少女が洞窟中に入っていく。
明かりは当然ないため、光魔法で辺りを照らしながら進んでいく。
洞窟はオークたちが手作業で拡張した形跡があり、アリの巣のようにいろいろな部屋に別れている。魔力探知ができなければ迷っていただろう。
一番奥までくると、広い空間に出る。
「ここね」
明かりを強くし、空間の奥まで照らすと、オークキングよりも圧倒的な巨体が姿を現した。体は全身毛で覆われており、豚というよりも猪である。
「確かにこの巨体だと動けなそうね」
オーククイーンは目の前に二人の敵がいるにも関わらず、そこから動こうとする様子がない。恐怖で動けないのか、そもそも今の状況が分かっていないのか、地面の座ったままこちらを見続けている。
「できればきれいな状態で殺してくれ。素材の希少価値が高いからな」
「んー脳は必要な素材かしら?」
「いや、脳みそは壊しても問題ないぞ」
「わかったわ」
その言葉を聞いた瞬間、アステリアはその場から一瞬で消え去る。次の瞬間には、オーククイーンの頭上まで飛翔していた。
手の平を重ね、オーククイーンの額に触れる。
「振撃」
オーククイーンは一瞬ビクッとし、そのまま力が抜けたかのように地面に崩れる。
「何をしたんだ?」
「圧縮した魔力を波の様にして頭に打ち込んだの。そうね……例えるなら水が入った水槽を外から思いっきり揺らすイメージかしら。水が脳の例えよ」
「つまり頭を揺らされ、脳みそがぐちゃぐちゃになってるってことか」
「その通りよ。わかりやすく言うと内部破壊の技ね」
オーククイーンの死体も精霊界に送り、洞窟を後にする。




