第5話 好機到来
それから約3か月後。季節はすっかり冬になっていた。
トイレを済まし自室に戻る途中、執務室に人の気配を感じる。それも三人だ。
アステリアは、すぐに魔力探知で三人を確認する。
この魔力的に父ロイド、義母ディアナそして妹のミリアナね。
気配を消して扉に近づき、聴覚強化で会話を盗み聞く。
「お父様お願い。レオハルト殿下の婚約者を私にして」
「ねえ、あなた。私たちの可愛いミリアナが、こう言っているんだから何とかできないの?」
「私としてもアレじゃなく、ミリアナの方がいいとは思っている。だが、今回の婚約はレオハルト殿下たっての希望なのだ。殿下が心変わりしない限り難しい」
「ほんとあの母親共々邪魔ばつかり、目障りで仕方ないわ」
顔を見なくてもわかる義母ディアナの怒りの形相。
この状況は利用できそうね。
アステリアは一応執務室の扉をノックする。
「誰だ?」
許可が出るわけもないので、そのまま扉を開け中に入る。
「おい。貴様勝手に――」
「話は聞かせていただきました。そこで私に提案があります」
アステリアの姿を見るや否や怒号を上げ、追い出そうとする父に対し、少し声を張り上げ静止させる。
「レオハルト殿下と私の婚約を白紙にさせ、ミリアナが婚約できるかもしれない案があります」
アステリアの言葉を聞いた瞬間、三人は少し落ち着きを取り戻した。
「貴様何を考えている」
誰もが羨む王家との婚約。それをアステリア自身が白紙する案があると言うのに、疑惑の念を向けるのはもっともだ。
「私はレオハルト殿下に恋愛感情はございません。ですので、殿下のことが好きなミリアナの方が相応しいと思っただけです」
「一応聞く。どうやって白紙にするつもりだ?」
「お父様ウドーム症はご存じですか?」
「ああ、発症例も少ない珍しい病だな」
「普通の風邪と変わらず、熱と咳が主な症状です。ですが、ウドーム症は風邪よりも長期間症状が続き、感染力も遥かに高い。そして何より女性が罹患した場合、五割の確率で生殖機能がなくなると言われています」
今後この家を出るために、何か良いアイディアはないか?と探していた時に見つけた情報だ。この病を見つけた時は、使える場面がありそうと思い、特徴を詳しく調べていた甲斐があった。
「なるほど。ウドーム症に罹患し、子が成せなくたったと言えば婚約の件も何とかできそうだな」
「そうです。婚約が白紙になった後は、ミリアナの頑張り次第ですね」
跡継ぎが大事な王家だからこそ、子供が産めなくなったという事実は確実に効くはずだ。
「ふむ。となるとお前はどこかに隔離しないといけなくなるな」
感染力がある病気なので、例えフリでも隔離はしておいた方がいい。
「それならあなた、離れの小屋はどう?」
義母ディアナは嬉々として夫のロイドに提案する。
離れの小屋とは物置小屋のことだ。人が生活する場所じゃない。まあこれも予想していた。
「それはやめておいた方がいいです。同じ敷地なので殿下が訪問した際、私と遭遇する可能性があります」
「それもそうだな」
「確かヴィステール領に別荘がありましたよね?あそこはどうでしょうか?距離も少し離れていますし、殿下と遭遇することもないと思います」
「あそこか……。ずっと使っていないし、まあいいだろう」
よしよし。ここまでは思惑通りだ。ヴィステール領に行けば、ここよりも自由に過ごせる。
こうして2日後には、ヴィステール領の別荘に旅立つことになった。




