第4話 精霊神
「眩しい……」
精霊界は、昼間のように明るい。さっきまで夜だったせいか、視界が開けた瞬間、差し込む光に眩しさを感じる。
「想像よりも何もないわね」
辺りキョロキョロ見ながら確認する。光の玉のような精霊は、そこら中を漂っている。地面は芝生。凸凹もしていなし、高低差もない平坦な土地が、四方どの先にもずっと続いている。ところどころ生えている木は、本物にそっくりだが、作り物ように見える。造花ならぬ造木というべきなのか。
そして唯一ある建物。神殿ような外見だ。
精霊の案内によりその神殿に入っていく。
内装も至ってシンプルで、ほとんど物がない。
そして奥にある玉座に座っている女性。神秘的な雰囲気を出しているが、見た目は人間にかなり近い。精霊神というよりも精霊女王と言われた方が似合う。
「来たな転生者。人間と話すのはこの世界の生誕以来か」
そう無表情で話しかけてくる。まるで感情という概念がないようだ。
「私はアステリア。よろしくね」
「私は精霊神オーロリア。聞きたいことがあれば聞くがいい。答えられる範囲で答えよう」
一呼吸置いてからアステリアは口を開く。
「私を観察していた理由だけど、世界を壊す可能性があるからって聞いたわ。どういうこと?」
「私たちは基本的に転生者や召喚者が現れた際に、世界にとって危険性がないか確認する。まず召喚者とは、君たちがいた世界から召喚された者たちのことだ。もちろん生きたままの姿でな。召喚者はこちらに召喚される際に、強力な固有能力を授かることが多い。例えばその固有能力が一瞬で大量の人間を殺せるような代物で、さらに本人の人間性にも問題があるとすれば、早急に対応する必要がある。そして転生者は召喚者と違い、強力な固有能力を授かることはない。ただ生まれ変わり、人によっては前世の記憶を色濃く残す。あなたのように」
「記憶だけならわざわざ観察する必要がないわよね?」
召喚者と違い特別な力を宿さないのであれば、転生者は普通の人間と危険性は変わらないはずだ。
「私たちが危惧しているのは前世の知識を利用して、この星を壊すような強力な兵器を作られることだ。アステリア。あなたたちにわかりやすい例えで答えよう。核兵器だ。核兵器の知識と魔法の知識が合わされば、この星が維持できなくなるほどのダメージを受ける可能性が非常に高い」
「核兵器か……もしそんな知識を持ったやつが転生していたら警戒するのも当然ね」
環境や生態系の影響も考えると、この世界に絶対に持ち込んではならない知識だ。
「そういった危険な兵器の知識も、人間性もアステリアは問題はない。私たちはそう判断した。」
アステリアは少し考え込んで口を開く。
「ねえ。私、銃に関しての知識はあるけどいいの?もちろん内部構造も」
「その程度なら問題ない。もちろん作ってもいい」
「あくまでも人を多量に殺せて、星そのものにも深刻なダメージを与える兵器がダメってことね」
銃は前世の義勇軍参加時代に使っていたので、今世でも使いたい武器の一つだった。難なく許可がもらえたことにほっと一安心する。
「他に聞きたいことはあるか?」
「あっちの世界で死んだ人は、みんな転生するの?」
もしそうであれば、前世で死別した妻に会えるかもしれない。その可能性が頭をよぎる。
「召喚者を召喚する際に、同じタイミングで死んだ者が魂だけでこちらの世界に召喚されることがある。それが転生者が生まれる原因だ。故に死んだ人間が、すべてこちらにくるということはない。むしろ転生者は数が少ない」
亡き妻がこちらに来ているかもという可能性は潰えた。
少し気が落ちている中、アステリアは話題を切り替える。
「そういえば文字が似ていたり、暦や時計などもあちらの世界との共通点を感じていたけど、転生者や召喚者がいるのなら納得がいくわね」
文明的には前世の世界と比べてまだまだ低いが、あちらの世界を彷彿させる物がかなり見受けられる。
「この世界は、アステリアがいた世界とは違ってかなり特殊でな。まずこの世界が誕生したのが今から20万年ほど前だ。女神ルミエラ。魔神ゾルティア。そして精霊神の私。この世界ができてから、私たち三神でこの世界を管理している。最初は生物一匹すらいない何もない星だったが、私たちはさまざまな世界から生物や植物を召喚した。ちなみだが、あなたたち人間は地球からしか召喚していない。馴染みのある文明や文化を感じるのはそのためだろう」
突如ぶち込まれるスケールが大きすぎる話に、気になることがさらに増えてしまう。
「つまり私たちの起源は、同じ地球の人間ってことね」
「その通りだ」
ふと何かを思い出したようにはっとする。
そろそろ帰らないとバレた時まずい。
「他にもいろいろ聞きたいけど、そろそろ帰らないといけないから帰るわね」
「わかった」
そういえば、精霊界って他の人間が来ることはなさそうよね。
帰ろうとした瞬間、ある考えが頭を過よぎる。
「ねえ一つ頼みがあるんだけどいいかしら?」
「聞くだけ聞こう」
「この精霊界に私の隠れ家を建ててもいい?」
ここに拠点があれば、家から出る時に役に立つかもれしない。
「そんなことか。かまわない」
精霊神オーロリアは、立ち上がるとこちらに向かって歩いてくる。
「外に出る。ついてこい」
適度な広さの広場に出ると、その場に立ち止まり目の前の空間を見つめる。
「家の希望はあるか?」
そのセリフを言うということは、精霊の力か何かで家を作ってくれるということだろう。
アステリアは、遠慮なく意見を言うことにする。
「そうね。私が今住んでる屋敷の半分くらいの大きさで、清潔感があるお家がいいわ」
そう言い終えると、急に目の前に家が現れた。要望通りで。
「手作りしてくれるのかと思ったけど。手品みたいにパッと出せるのね」
「この精霊界は、現実世界にある物を複製することができる。アステリアの要望通りに複製したつもりだ。これで問題ないか?」
「ええ。大満足よ」
「それならよかった。それとこれを」
精霊神から虹色に輝く石が付いたきれいな指輪を受け取る。
「これは?」
「これに魔力を通せば、いつでもこの世界の扉を作れる。ちなみにだが、通れるのは私が許可した者だけだ。他の誰かを入れたい時は、私に許可を取れ」
至れり尽くせりで、少し申し訳なくなる。
「わかったわ。わがまま聞いてくれてありがとう」
「かまわない。それにアステリアには、恩を売っておこうと思っただけだ。いずれ頼みたいことが出てくるかもしれんしな」
「私にできる範囲の頼みごとにしてよね」
精霊神からの頼み事は、嫌な感じしかしない。そもそも面会を許可したのは、それが目的だったのかもしれない。そう思うと、少しだけ後悔の気持ちが湧き上がった。




