第3話 鍛錬
王子とのお茶会が終わり、夜になった。
夕食はいつものように自室で済まし、メイドが食器を下げる。
この後は、基本的に誰も私の部屋に来ることはない。
「さて、鍛錬に行きましょうか」
自室は二階だが、私はそれを気にすることなく窓を開け外に飛び出す。
場所は屋敷から少し離れた森の中。身体強化の魔法で駆け抜ければ、十分程度で着く所だ。
そう、この世界には魔法がある。一応貴族であるため、そういった知識は学ばされている。
おかげで魔力の操作を始め、基礎的な魔法の知識はある。非常にありがたい。ここだけは貴族で良かったと思っている。
前世で学んだ戦闘技術に、この世界の魔法。これを掛け合わせてオリジナルの戦闘技術を開発する。それでいつか弟子を取って自身の技術を世に広める。楽しみができたな。
鍛錬場所の森の中。
鍛錬はまず魔力操作から始まる。
立ったまま目を瞑り、体内の魔力に意識を集中させる。魔力を圧縮させ、その圧縮させたままの魔力を右足、左足、右腕、左腕と体の中を移動させる。
ちなみにかなり難しい。さらに圧力を上げれば上げるほど、難易度は飛躍的に上がっていく。その難しさの分、圧縮した魔力を利用した攻撃は圧倒的火力を誇る。
一般的に魔力の圧縮は推奨されていない。なぜかというとリスクが大きすぎるからである。
コントロールを間違えれば、体が爆散するからだ。
過去にそういう事例もあったらしい。かく言うアステリアも、コントロールを間違えて右腕が爆散したことがある。だが、問題なかった。
固有能力【再生】で腕を再生させたからだ。
魔法は大きく2つに分類されている。基本魔法と例外魔法だ。
身体強化や属性魔法は基本魔法。固有能力は例外魔法の一つに分類されている。
なぜ例外と言われているのか、それは固有能力が基本的に魔力を消費せず、体力が続く限り長時間行使が可能だからだ。能力を発動するために魔力という対価が必要ない。例外魔法とは理屈が不明な異質な力の総称。
そんな例外魔法だが固有能力はその中でも特に異質だ。それは固有能力の中には、魔力消費させることで能力を強化させることができるからだ。
アステリアの固有能力【再生】は、魔力を消費しない基本的な運用だと傷の治りが目に見えて早く、お腹を深く刺されても数分で治せる。だが、欠損した部位を再生させることはできない。
しかし、その【再生】に魔力を注ぎ強化すれば、傷の治りの速度もさらに上がり、欠損部位も再生させることができる。
そういうことで、固有能力は固有魔法なんて呼ばれていた時代もあった。
魔力操作の鍛錬が終われば、次は魔物相手に直接戦闘を行う。
殺しすぎると生態系が壊れそうなので、殺生は数匹に抑え、残りは殺さないように魔力を制限して戦う。
ある程度ダメージを与えると、魔物は勝てないと悟り逃げていく。
そんな鍛錬を毎日三時間、一年ほど前から繰り返している。
魔力操作の鍛錬だけはどこでもできるので、日常生活でも暇を見つけてはちょくちょくやっている。
前世に得た格闘技術と日常的にやっている魔力操作の鍛錬のおかげで、一日三時間という少ない実践的な鍛錬でも、ここまで強くなることができた。
「そろそろ帰らないとバレたときが大変ね」
身体強化をし、いざ帰ろうと顔を上げた瞬間、何かの気配を感じた。
「ん?……敵意はない。……生物でもない。不思議な気配」
ふと気が付くと目の前にぼやけた光の玉のようなものが現れていた。
「……火の玉?幽霊?」
いや、精霊だと言っている。言っているというよりも思念的なものが頭に直接流れてくる。
「あなたたちは精霊なのね。私に何か用があるのかしら?」
転生者。観察。
「転生者……。なるほど、私の観察をしに来たってことね。でもなんのために?」
世界。壊す。可能性。精霊神に頼まれた。でもたぶん大丈夫。
「大丈夫ならいいわ。それにしても精霊神ね。この世界のことや私のような転生のことについても詳しそうね」
アステリアは少し考え込む。
「ねえ、その精霊神に会うことは会うことはできないの?」
聞いてみる。
そういうと精霊はふっと姿を消し、数秒後にまたふっと現れる。
どうやら会うことができるらしい。
精霊は空間を歪ませ、精霊界への入り口を作る。
アステリアは、精霊に導かれその空間の中に入っていく。




