第26話 限界の先へ
アラス大森林の奥深く、鬱蒼とした木々を抜けた先に広がる険しい山岳地帯に、二人はようやく辿り着いた。
「グリフォンは高い場所に巣を作る習性があるみたい。このまま頂上を目指しましょう」
「え……もう体力、限界なんだけど……」
ここまでのオーク討伐から続く長時間の活動で、既にヘトヘトのリーフィは顔を曇らせ、渋々ながら山道を登り始めた。足取りは重く、息もすぐに上がってしまう。
「これも立派な訓練よ。そんな体力じゃ、この先やっていけないわ。冒険者として生きていくなら、基礎体力は絶対に必要」
「それはそうだけど……いきなり依頼を二つも連続でこなすのは、さすがにきつすぎるわよ。死ぬかと思った……」
リーフィの依頼だったオーク討伐を終えた直後、その足で今度はアステリアの依頼であるグリフォン討伐へ向かっている。冒険者になってまだ間もないリーフィにとって、これは明らかに過酷なハードスケジュールだった。ハイエルフの高い魔力を持ちながらも、持久力の部分ではまだまだ未熟だった。
「いい? 普通に登っていたら丸一日かかるわ。さ、身体強化をかけなさい。無駄な時間を過ごすつもりはないわよ」
「え?また?十分くらい前に使ったばかりじゃない……」
アステリアは身体強化の魔法を長時間維持できるが、リーフィの場合はどうしても五分程度が限界だった。
「まずは一時間くらいは維持できるようになりなさい。五分じゃ短すぎるわ。戦闘中に切れたら死につながるのよ」
「身体強化は私、苦手なの。それに一時間なんて熟練者クラスじゃない……。そもそもアステリアがおかしいのよ。会った時から何の魔法か知らないけど、ずっと発動しっぱなしじゃない」
「ん?ああ、これは体の成長を遅らせる魔法よ。ずっとかけ続けていないといけないの。寝ている時も、もちろん例外じゃないわ」
魔法の長時間持続は極めて高度で難しい技術だ。アステリアは十歳の幼い体を維持するため、常に成長遅延の魔法をかけ続けている。無意識下にある睡眠時ですら、一切途切れさせていない。
「あなた本当に人間なの……?正直、疑わしくなってきたわ」
「見ての通り、普通の人間の女の子よ。ただ、努力を怠っていないだけ」
アステリアの魔力操作技術は、もはや人間の域を遥かに超えていた。
「そんなことより、早く行きましょう。ぐずぐずしていると夜になるわよ」
「はぁい……」
二人は再び動き出した。スピードを上げるため、リーフィも身体強化をかけ、山を一気に駆け上がる。しかし道中、何度も強化が途切れては立ち止まり、中腹あたりまでどうにか到達したのが精一杯だった。魔力自体はまだ余裕があるものの、体力は完全に限界を迎えていた。
「もう……無理……」
リーフィはその場にへたり込み、荒い息を繰り返しながら疲れ果てた顔を上げた。汗で前髪が張り付き、肩が大きく上下している。
「リーフィにしてはよく頑張ったわ。その感じだと、いい具合に限界を超えられているわね。成長の兆しが見えるわ」
「とっくの昔に超えてたわよ……もう死にそう……」
「だから言ったでしょ。これは訓練だって。成長とは、限界を超えたその先にあるのよ。甘い考えでは強くなれないわ」
疲労困憊のリーフィには、アステリアの言葉の意味など到底理解できなかった。ただ、朦朧とする頭で「怖い……」と思うだけだった。
「とりあえずここからは、私が連れて行くわ」
アステリアは小さな体でリーフィを抱きかかえると、グリフォンの巣を目指して驚異的な速度で駆け上がった。
広範囲に魔力探知を展開しながら高速で山を登り、獲物の反応を探る。
「この反応は……おそらくグリフォンね」
早速明確な反応を捉えたアステリアは、その方向へさらに加速した。
「アステリア、ちょっと速すぎるって!きゃあっ!」
とんでもない速度で岩肌を駆け上がる最中、リーフィが遅くするよう頼もうとした瞬間、体がふわりと浮いた感覚に襲われた。
アステリアが、突如現れた断崖に向かって飛び降りたのだ。




