第25話 虹色の狙撃手
オークから百メートルほど離れた場所で、アステリアとリーフィは足を止めた。
「リーフィ、まずはこの辺りから撃ってみるといいわ」
「結構遠いわね。私の力量じゃ届くかどうか分からないわ」
「大丈夫よ。その武器なら確実に届くわ」
アステリアはリーフィに魔導ライフルの構え方を簡単に説明すると、オークの方へと向かった。
「それにしても、このスコープというのはすごいわね。あんなに遠いのに、すごく近くに見えるわ」
木の上で魔導ライフルを構えるリーフィは、初めて触るスコープに感動しながら、百メートル先のオークを見下ろしていた。
「五体ともリーフィに倒してもらうつもりだから、私は殺さないように気をつけないとね」
今回はあくまでもリーフィの依頼のため、全てのオークにとどめを刺してもらう。
この戦いはリーフィにとって良い経験になるはずだと、別れる前に伝えてある。
リーフィは魔導ライフルに魔力を込め、引き金に指をかけた状態で、オークに照準を合わせた。
アステリアの蹴りがオークを怯ませた瞬間——
「今だ!」
リーフィは引き金を引いた。
ヘッドショットを狙った魔力弾は、オークの頬を掠めた。
引き金を力みすぎて引いてしまったため、銃口がわずかにずれていた。初心者にありがちなミスだ。
そのおかげでオークたちは敵がもう一人いることに気づき、周囲を探り始めた。しかしアステリアが即座に動き、彼らの注意を自身へと引きつける。
「ちゃんと照準は合わせたの?」
「ええ、ちゃんと合わせたわ」
アステリアは、魔力を電波のように加工して相手の脳内に直接語りかける念話の魔法で、リーフィと会話する。
念話は比較的よく知られた魔法なので、魔法をそれなりに扱える者なら使える者も多い。
「なら、引き金を引いた瞬間に銃口が動いた可能性が高いわね。次からは慎重に引きなさい」
魔力弾は実弾と違って重力や風の影響を受けにくい。魔力の込め方を工夫すれば、その影響をほぼゼロにすることも可能だ。
そのため、そうした要素はあまり考慮しなくてもよい。
先ほどと同じようにアステリアが隙を作り、リーフィが引き金を引く。
光る軌跡を残しながらヒューンという音と共に、オークの頭蓋が弾け、赤い霧が舞った。
「やった!」
初めてのヒットに、リーフィが歓喜の声を上げた。
「喜ぶのは後にしなさい。すぐに次に行くわよ」
「あ、うん。分かったわ」
その後も、アステリアは次々とオークを怯ませていった。それに続いて、リーフィが構える魔導ライフルから放たれる眩しい光と衝撃波が、オークの巨体を次々と吹き飛ばしていく。
「お疲れ様。初めてにしては上出来だったわよ」
「アステリアがサポートしてくれたおかげよ。本当にありがとう……!」
リーフィは照れくさそうに笑いながら、魔導ライフルを肩に担いだまま言葉を続けた。
「それに、仲間って本当にいいわね。今まで一人で戦ってきた自分が、なんだか馬鹿みたいに思えてきたわ」
アステリアの巧みな牽制と魔導ライフルの貸与があったからこそ、あれほど苦戦を強いられた相手にすんなり勝てたのだ。百メートルの距離からでもはっきりと伝わる手応えに、リーフィの胸には確かな自信が芽生えていた。まだ微かに震える指先を見つめ、彼女はそっと拳を握りしめた。
「魔導ライフルの使い方も少しは慣れてきたみたいだし、このまま次の標的に向かうわよ」
「え?次の標的?」
アステリアの予想外の発言に、リーフィは動揺を隠せなかった。
「今のはリーフィの依頼よね。私は元々別の依頼でこの森に来ていたの。それで、あなたがピンチだったから助けたのよ。そして今に至る訳よ」
「つまり、私の依頼を手伝ったから、今度はアステリアの依頼も手伝って欲しいと?」
「そういうことよ。まあ私一人でもすぐ終わるんだけど、あなたにとっては良い訓練相手になると思うわ。何事も経験よ」
アステリアほどの実力者ともなれば、先ほどのオークなど比べ物にならないほど強い相手だろう。リーフィは内心でそう考え、わずかに緊張を滲ませた。
「ちなみに……相手は……?」
リーフィは恐る恐る尋ねる。
「グリフォンよ」
「……そうですか」
リーフィは、まさかの相手に思わず天を仰いだ。




