第24話 虹色の瞳、精霊神の前に
エルフであるリーフィにはわかるのだろう。精霊界に入った瞬間、彼女は急に萎縮し始めた。
ちなみに、基本的に精霊界にはオーロリアが許可した者しか入ることができない。
今回のリーフィに関しては事前の許可を取っていないが、問題なく入れた。理由は簡単だ。アーセリア神霊王国のエルフは、オーロリアが生み出した存在——言わば眷属であるため、許可を取る必要がないのだ。
「この空間に漂う神聖な魔力……。ここは精霊界で間違いない。ということは……」
精霊界だと確信したリーフィは、アステリアの肩を掴み、顔を真っ青にしていた。
アステリアは十歳、リーフィは十六歳くらいの見た目なので、傍から見れば子供の肩にしがみついて怯えているお姉さん、という図だ。
「こんな神聖な場所に、本当に来て良かったの?さっき精霊神様に聞くって言ってたけど……私、女王の責務から逃げて、精霊神様の意に背いているから、きっと怒られるわ」
「それでも話してみなさい。何か妥協案を出してくれるかもしれないわ」
そう話している間に、二人は精霊神オーロリアがいる神殿へと到着した。中に入り、オーロリアが待つ奥の玉座へと足を進める。
余談だが、この神殿は「神殿があった方が神様らしく見える」という軽い理由で作られたらしい。
「オーロリア、あなたにお客さんを連れて来たわ」
「ん?アステリアか。それと……なるほど、今代のハイエルフの女王か。確か、国から逃げ出したのだったな」
リーフィはアステリアの後ろに隠れていたが、アステリアが小さいため、完全に隠れきれていない。
「申し訳ございません、精霊神様。女王という荷が重すぎて、私にはとても……」
オーロリアに全てお見通しであることを悟り、観念したリーフィはアステリアの後ろから出て、その場で跪いて謝罪した。
「女王になることは絶対だ。ただ、今すぐというわけではない。時間はまだある。しばらくは色々なものを見て感じて、己の価値観を鍛えるといい」
「うっ……はい……」
アーセリアのエルフたちが信仰する精霊神の言葉を否定できるはずもなく、リーフィは渋々承諾した。
「猶予がもらえただけでも良かったじゃない。オーロリアに言われた通り、世界の色々なものを見て回るといいわ」
「うう……。しばらくは女王のことは忘れて、そうするわ」
「私としては、アステリアと行動してもらいたい。仲間がいた方が得るものも多いだろう。それにアステリアは、精霊界を出入りする許可を与えた数少ない人間だ。私の眷属であり、将来のアーセリアの女王であるリーフィと共に行動してくれるなら、安心できる」
自分が生み出した存在だからこそ、少し過保護になるのだろう。
「リーフィが、それでいいのなら私は歓迎するわ」
「迷惑じゃなければ、お願いしたいわ。アーセリアを出てからずっと一人だったから、心細くて」
こうしてリーフィも仲間に加わることになり、これで同じ拠点に五人で生活することになった。
その後、そのまま精霊界の拠点へ移動し、他の仲間たちと挨拶を済ませ、必要な情報や今後の予定をリーフィに伝えた。
そして、二人は森の中に戻ってきた。
「そういえば、依頼の途中だったわね。せっかくだから一緒に行きましょうか」
「助かるわ。五体いたから諦めようかと思っていたところよ」
オーク一体であれば何とか対応できるリーフィにとって、五体はさすがに荷が重すぎた。
そもそもアーセリアにいた頃は戦闘経験がほとんどなく、戦いの練度としては素人同然だ。
「武器は弓を使っていたみたいだけど、弓が一番得意なの?」
「そういうわけじゃないわ。一番マシだったのが弓だっただけよ。それに遠距離なら安全だし」
元々体を動かすこと自体が苦手なリーフィにとって、弓は消去法で選んだ武器だった。
「でも、近づかれたら終わりよ。実際、オークに近づかれてかなりピンチだったんだから」
「そ、それはオークが五体もいたからよ。複数で来られると訳が分からなくなっちゃうの」
冒険者活動では、今回のように想定外の事態に遭遇することも多い。だからこそ、今よりは戦えるようにならなければ先が続かない。
「まあいいわ。とりあえずあの五体のオークを倒しに行くわよ」
「わかったわ。でも私は何をすればいいの?」
「とりあえずリーフィは今まで通り遠距離攻撃を担当して。私が前衛をやるから、あなたは後衛よ。それと、これを使ってみて」
アステリアがリーフィに手渡したのは、昨日ルリの初実践の時に使っていた魔導ライフルの魔道具だった。
「初めて見る武器ね。どう使うの?」
「基本的には杖と同じ感覚でいいわ。ただ、発動するときはここの引き金を引かないといけない。それと、スコープ……まあここを覗けば分かるわ。しっかり狙いをつけて、引き金を引くの。最初は魔力弾を撃ってみなさい」
ちなみに、実弾は渡していない。覚えることが多すぎると混乱するので、普段から慣れている魔法を主軸にした戦闘にしてもらう方針だ。
リーフィは弓を使っていたが、矢に魔力強化や属性付与を施して戦っていたため、魔法の扱い自体はそれなりにできる。
彼女が使っていた矢は通常の矢で魔力伝導率も高くなかったが、ヴェルラが作ったこの魔導ライフルは圧倒的に伝導率が高く、同じ魔力量でも遥かに強力な攻撃が可能だ。
「それじゃあ行くわよ」
アステリアとリーフィは、再びオークのいた場所へと足を進めた。




