第23話 虹色の瞳の逃亡者
ルリの初の実戦も終わり、二人は精霊界の家に帰って来ていた。
「ルリ、しばらくはあなた一人で、依頼をこなしなさい。まあ、まだFランクだから受けられる依頼も簡単だとは思うけど、一人で色んな人と関わることが、あなたの課題よ」
「はい!」
ルリは元気良く手を上げ、返事をする。
今まで、精霊界で過ごすことが多かったルリは、限られた人しか接しておらず、たまに行くマイヤーではアステリアを始めとする他の誰れかが付き添いすることが多かった。
冒険者登録した時でさえ、アステリアがほとんど会話をしていたため、ルリが言葉を発する機会が少なかった。
コミュニケーションが苦手という訳ではないのだが、常にアステリアたちが近くにいると、そういう機会が無くなってしまうため、今回はそういった課題を出すに至った。
次の日の昼、アステリアは家を出てマイヤーの冒険者ギルドに向かう。
ちなみに、ルリは朝から冒険者ギルドに向かっていた。
お金ももう十分貯まり、マイヤーの冒険者も増えてきて、率先して依頼を受ける必要が無くなったアステリアは、依頼を受ける数が劇的に減り、その分の時間を鍛錬に充てていた
それでも、他の人から見たら、割と受けている方である。以前は人が居なかったため、一日に五件の依頼をこなすこともあったからだ。
そして、今回はグリフォンの討伐依頼を受けた。
ちなみにグリフォンとの戦闘は初である。
アステリアは、戦ったことがない魔物がいれば、優先して依頼を受けるようにしている。
理由は単純だ。何をしてくるかわからない初見の相手ほど、戦うのが楽しいからである。
そういうことで、アステリアはグリフォンがいるとするアラス大森林の奥にある山岳部を目指して、森の中を進んでいた。
「ん?女性の声?」
山岳部まで後半分といった所で、アステリアは微かに女性の叫び声のようなものが聞こえて来た。
「一応行ってみましょうか」
アステリアは、声が聞こえた方向に行先を切り替えた。
進めば進むほど、声ははっきりと聞こえるようになってくる。
「もう!何でこんなに数が多いの!」
目視できる距離までやってきた。声の主はエルフだ。眼鏡をかけており、弓でオークと戦っている。
見た感じ戦闘は不慣れといった様子だ。
そんなエルフを取り囲むように、オークが五体。じりじりとエルフを追い込んでいるようだ。
それを見たアステリアは地面を蹴り、一気にオークとの距離を詰める。
「手を貸すわ」
そう言って、アステリアはオークを蹴り飛ばす。
「え?」
エルフはいきなりの助太刀に、状況がうまく理解できていないといった様子だ。
同じく、オークたちも突然の出来事に軽くパニックを起こしている。
「今の内に離脱するわよ」
「え?ちょっと」
アステリアは、エルフの女性を抱えて、オークが見えなくなるまで距離を取る。
「ここなら大丈夫そうね」
エルフの女性をそっと地面に降ろした。
「ありがとう。助かったわ」
アステリアに地面に降ろされたエルフの女性は、落ち着きを取り戻しており、お礼を言う。
「まずは自己紹介ね。私はアステリア、冒険者よ」
「私はリーフィ。同じく冒険者よ」
「リーフィは依頼でこの森にいるの?」
「そう、オーク一体の討伐だったんだけど、五体いてあの状況だったの。私、戦うの得意じゃないから、あんなに一気に来られると、対応できなくなっちゃうのよ」
エルフの女性リーフィは、自分の不甲斐なさにうなだれている。
頭をガクッと落とした瞬間に、眼鏡越しからではなく、直接リーフィの瞳がアステリアの視界に入った。
「虹色?あなたハイエルフね」
ハイエルフのことは、精霊神オーロリアから聞いていた。
まず、エルフは大きく分けて、異世界から召喚したエルフを起源に持つエルフと、精霊神オーロリアが自ら生み出したエルフの二種類だ。
オーロリアが生み出したエルフは皆、翡翠色の瞳をしており、ファルスティア王国の隣の国アーセリア神霊王国に住んでいる。国を出て暮らす者もいるが、かなり珍しく、一時的に他国に行っても必ず帰って来るそうだ。
そして、虹色を持つエルフはハイエルフであり、アーセリア神霊王国の次の王にならなければならない。
「えっ……」
リーフィは急いで目を隠して座り込み、言葉が出なくなってしまう。
眼鏡越しだと、翡翠色の瞳にしか見えなかったため、眼鏡は虹色の瞳を隠すための物なのだろう。
虹色瞳を隠す眼鏡。ハイエルフだと指摘され、それを言われたくないかのような態度。そして、次期女王のハイエルフがこんな所で冒険者活動をしている。
アステリアは何かを察した。
「なるほど。あなた女王になりたくなくて逃げて来たのね」
「えっ……何で……」
アステリアの言葉が、図星だと言わんばかりの反応をするリーフィ。
「その反応からするに、図星みたいね。それで、何で女王になりたくないの?」
「……私には女王なんてできない。いくら虹色の瞳を持ってても、私には国を治める能力がないの」
リーフィは諦めたかのように重い口開いて胸の内の思いを話す。
オーロリアから聞いた話によると、ハイエルフには生まれた時からなっているのではなく、ある日突然、翡翠色の瞳が虹色に変わるらしい。
普通に暮らしていたのに、突然「あなたには女王になってもらいます」とか言われるのは、さすがにびっくりするだろう。
リーフィが嫌がる気持ちは分からないでもない。
「じゃあリーフィはずっと瞳を隠して、逃亡生活をするつもりなの?ハイエルフになっちゃったからエルフよりも長命よ。長すぎる逃亡生活は精神的にもきついと思うのだけど」
ハイエルフはアーセリア神霊王国にとってかなり重要な存在だ。となれば、確実に追手も来ているはずだ。
「え……それは……」
先が見えない逃亡生活に気づいたリーフィは、視線を落とし、再び黙ってしまった。
逃げ続けるのも、帰って女王になるのも苦しい、八方塞がりといった様子のリーフィに、アステリアはある提案をする。
「じゃあ、あなたたちが信仰する精霊神に聞いてみましょうか」
「え?精霊神様?……どういうこと?」
突然の精霊神発言に、状況が読み込めないリーフィをよそに、アステリアは精神石の指輪に魔力を通し、精霊界へのゲートを作り出す。
「とりあえず付いて来なさい。そうすれば、私の言っている意味がわかると思うわ」
リーフィは状況をうまく理解できないまま、アステリアの後ろに付いて、精霊界の中に入って行く。




