第21話 狐耳弟子の初陣
「それで、今日は何か依頼を受けていくのか?」
「そうよ。この子の初実戦のつもりできたの。Cランクぐらいで何かいい依頼ない?」
ちょうどお茶を飲もうと口に含んだ瞬間、アステリアからとんでもない発言が聞こえ、ローナンはお茶を一気に噴き出した。アステリアは魔力の障壁を張っていたため、目の前にいたアステリアとルリにはかかっていない。
「けほっ……。おいおい、この子はまだFランクだぞ!受けられるわけないだろ!」
「大丈夫よ。私も一緒に受けるから。それならいいでしょう?」
「……まあ、それならいいが、まさかその子一人で戦わせるわけないだろうな?」
今日登録したばかりなのでランクはFランク。さらに見た感じではただの獣人の子供なので、Cランクを一人で倒せるとは到底思えない。それにアステリアのことだ、一緒に行っても獣人の子供に一人で戦わせる可能性も十分にある。
「そのつもりだけど大丈夫よ。ルリは私が鍛えたから。私の一番弟子よ。Cランクくらいがちょうど良いと思ったからお願いしているの。それに何かあった時は、すぐに助けに入るわ」
「わかったわかった。じゃあ何個かCランクの依頼を持ってくる。ちょっと待っておけ」
引き留めるのを諦めたローナンは、渋々依頼を取りに行くため部屋から出ていった。
冒険者ギルドで依頼を受けたアステリアとルリは、アラス大森林の奥地へと足を進めていた。
受けた依頼はフォレストウルフの群れの討伐だ。群れの数は十頭との情報だった。
フォレストウルフとは、森に生息する狼系の魔物で、基本的にどの地域の森にも生息しており、森に入ればよく遭遇する。フォレストの名の通り、植物の遺伝子が少し入ったような見た目をしており、木の枝のような角や、体毛の先端も木の枝のように変質している。特に背中の毛はハリネズミのようにとげとげしい枝が生えている。
攻撃方法は普通の狼と同じように群れでの連携と噛みつきが主体だが、周囲の植物を少し操る能力も持っている。他にも魔力をそのまま打ち出す魔力弾も使ってくる。
「ねえ、アステリア。本当に私一人でやるの?」
出かける前はそうでもなかったが、目的地に近づくにつれ、ルリは不安そうにアステリアの裾を掴み、身をすくめて歩いている。
「大丈夫よ。普段通りにやれば問題なく倒せるわ。今までの辛い修行の日々を思い出しなさい」
「ううう……」
この五年間で、アステリアが得意とする魔力圧縮を始めとした魔力操作技術に加え、武器や素手での基本的な戦闘技術も徹底的に叩き込んでいた。
まだまだ粗削りではあるが、Cランクの魔物であるフォレストウルフくらいなら倒せるはずだ。
それからしばらく森の中を歩いていると、突然アステリアが足を止めた。
「そろそろね。ルリ、ここからはあなた一人よ。私は少し離れて後ろからあなたのことを見ているわ。もしもの時はすぐに助けに入るから、自信を持って戦いなさい。ルリ、あなたならできるわ」
「わかった。頑張ってみるよ。でも、もしもの時は本当に助けてね。本当だよ……?」
「本当よ。私を信用しなさい」
自信なさげなルリに対し、アステリアは優しく頭を撫でながら勇気づける。
傍から見れば姉妹のような微笑ましい光景だが、アステリアの内心的にはおじいちゃんと孫を相手にしている感覚だった。
ルリは早速、魔力探知を行い、周囲の状況を把握しようとする。
「んー、アステリアは魔力探知に引っ掛かったみたいな反応してたけど、私の魔力探知には全然引っ掛からないよ……」
アステリアは最大半径三キロメートルまで探知可能だ。それに比べ、まだ経験の浅いルリは半径百メートルが精一杯である。
「仕方ない。先に進もう」
そう言ってルリは走り出す。進む方向はひとまず前だ。
獣人なだけあって素の身体能力は高く、森の木々を軽やかに避けながら駆け抜けていく。さらに魔力による身体強化を加えて速度を上げた。
少し進んだところでルリは急に止まり、地面を確認し始めた。
「わぁ、資料で見た通りの足跡がある。フォレストウルフの足跡で間違いなさそう。あ、こっちには糞がある。ということは近くにいるってことだね」
フォレストウルフの痕跡を見つけたルリは、再び走り出した。
そこから一キロメートルほど進んだところで、ようやくルリの魔力探知にフォレストウルフが引っ掛かった。
「魔力探知で何となく体の形は分かるけど……たぶん、これがフォレストウルフでいいんだよね?依頼書通り、数もちゃんと十頭いるし」
探知にまだ慣れていないルリは、敵の判別に自信が持てなかった。
そのまま探知に引っ掛かった方向へ進み、遂にフォレストウルフが目視できる距離まで近づいた。
「うう……。実物を見るとやっぱり怖いよぉ……。しかも十頭まとめて相手しなくちゃいけないなんて、やっぱり無理ぃ。……でも、今まで頑張って来たもん。頑張らなくちゃ!」
ルリは木の上からフォレストウルフを確認し、攻撃を仕掛けるタイミングを見計らっている。
精霊石の指輪に魔力を通し、精霊界からナイフを二本取り出す。ナイフはサバイバルナイフほどの大きさで、柄尻には魔術文字が刻まれた魔石がはめ込まれている。
二本のナイフはそれぞれ魔術文字が異なっていた。
これはアステリアのアイデアを元に、ヴェルラが作成した魔道具だ。
アステリアとの鍛錬の中で様々な武器を試した結果、ルリにはナイフを使ったスピード特化の戦闘が一番得意だと分かっていた。
また、獣人は基本的に魔力量が少ない種族が多いが、狐系の獣人は魔力が比較的多く、ルリは魔法を用いた戦闘も得意としている。
二本のナイフを構えたルリは、意を決してフォレストウルフの群れに飛びかかった。
一方その頃、アステリアはルリから一キロメートルほど離れた木の上にいた。
ヴェルラに作ってもらったスナイパーライフルを座って構え、スコープ越しにルリの様子を伺っていた。
このスナイパーライフルは魔力伝導率を上げるため、銃身などの必要最低限のパーツ以外は木材を使用しており、魔力弾を撃つのが基本となる。もちろん実弾の発射も可能だ。
さらに銃剣も装着可能で、接近戦にも対応できるように作られている。
「初めての実戦は怖いかもしれないけど、これを乗り越えれば、あなたはさらに強くなれるわ」
アステリアはルリの成長を願いながら、周囲に危険がないか気を張り巡らせて見守り続けた。




