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星崩しのアステリア  作者: 狐坂蒼
第二章

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19/31

第19話 婚約逃亡の自演劇

 永夜の黒蛇の騒動から五年が経った。


 アステリアは十歳になり、ロンコリ伯爵との正式な婚約を行う時が来てしまった。


 あれ以来一度も実家には帰っておらず、ヴィステール領の別荘と精霊界の拠点を往復する生活を送っていた。

 そして今日は、ロンコリ伯爵との正式な婚約を行う日だ。直接伯爵の屋敷に向かい、そのままそこで過ごすことになっている。


 婚姻を結んでいないのに婚約だけで同居する事例は少ないが、法律上は問題ない。ロンコリ伯爵が「早く一緒に暮らしたい」と強く望んだ結果だろう。その下心は丸見えだった。


 十歳になったアステリアは、五歳の頃より成長していた。当時は体が小さくて扱いづらかった武器も、今ではかなり扱いやすくなっている。


 とはいえ、まだ十歳の女の子であることに変わりはない。しかしアステリアは、この小さな体のままの方が今後都合が良いと考え、身体強化魔法の応用で成長を大幅に遅らせていた。


 身体強化はプラスに働くが、逆に「身体弱化」はできないか試行錯誤した結果、可能であることが分かった。そしてその弱化作用を成長に用いたところ、体の成長を大幅に遅らせることに成功した。


 成長が遅れているという判断は、あくまで自身の体感によるやや曖昧なものだったが、時間が経てば明確になるだろう。赤ちゃんに戻るような極端な効果はなく、「遅らせる」程度が限界だった。


 体の成長を自在に操れるのなら、それはそれで役に立ちそうだったが、できないのなら仕方ない。


 このままのペースだと、二十歳の体になるまでに二百年近くかかる計算になる。


「お嬢様、馬車が参りました」


「わかったわ」


 リサの知らせを受け、アステリアは馬車に乗り込んだ。


 ロンコリ伯爵の屋敷までは二百キロメートルほど離れているが、シルバーレイヴという速度特化の馬が引く馬車のため、約一時間で到着する予定だ。護衛の騎士五名と御者一名が付き添う。


 リサは同行せず、このままセラフィード家の屋敷に戻り、辞表を出す手筈になっていた。


 出発から三十分ほど経過した頃——


 快晴で視界の良い道だったが、突然辺り一面が深い霧に包まれた。


「なんだ、この霧は? これでは前が見えん」


「周囲を警戒しろ!自然発生ではない。魔物か人間の仕業の可能性がある」


 馬車は緊急停止し、護衛たちは即座に周囲を警戒した。


 すると、霧の向こうから盗賊らしき集団が現れ、襲いかかってきた。


「馬車に乗ってる子供を連れていけ!」


 護衛たちは応戦するが、彼らの攻撃はことごとく盗賊をすり抜け、当たらない。


「くそっ!攻撃が当たらん!何かの魔法か、固有能力か……!」


「幻影なのか、それとも攻撃を透かす能力なのか判断がつかん!」


 護衛たちが混乱している隙に、馬車の扉が開き、アステリアが担がれていることに気づく。


「助けて!」


 アステリアは絶望した表情で手足をバタつかせ、助けを求めた。


「アステリア様!——皆、アステリア様の救出を優先だ!周りの盗賊はおそらく幻影だ!攻撃が当たらなければ、向こうも攻撃を当ててこない。無視して、担いでいる奴だけを狙え!」


 アステリアを担いでいるということは実体がある証拠だと判断し、護衛たちは標的を絞ろうとした。


 その瞬間——


 護衛たち全員の意識が途切れた。御者も既に眠らされていた。


 アステリアはそのまま連れ去られ、霧が晴れた頃には、もうその場にはいなかった。




「今のところ順調ね」


 精霊界の拠点で紅茶を飲みながら、アステリアは小さく息をついた。


 今回の誘拐事件の真相は、全てアステリアの自作自演だった。霧も、盗賊の幻影も、アステリアを担いでいた者も、すべて彼女に協力する精霊たちの仕業である。


「あの護衛たちは目が覚めたら、私が連れ去られたことを報告してくれるはずだわ」


 報告がセラフィード家に届くまでには少し時間がある。その間にリサが辞表を出して合流できる、絶好のタイミングだった。


「後は、しばらく大人しくしていればいいわね」


 ロンコリ伯爵との婚約が目前だったため、当然大規模な捜索が行われるだろう。その間は目立った行動を控える必要がある。


 この報告を聞いた時の、セラフィード家の焦った顔が見られないのは少し残念だった。

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