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星崩しのアステリア  作者: 狐坂蒼
第一章 準備と決意

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第17話 元Sランクとの激闘

「やれ」


 エイザックの号令と同時に、リッドは槍を投擲する。


 アステリアは手に持っている剣で、飛んでくる槍を弾くが、思ったよりも威力があり少しだけ体が後退する。


 弾かれ宙を舞う槍をリッドは素早く回収し、そのままアステリアに接近して連撃を仕掛ける。


 すべての攻撃を紙一重で避けるアステリアは、隙を突いて蹴りを入れ距離を離す。


「さすがは元Sランクね。少し手が痺れちゃったわ。今までの有象無象とは違うわね」


「お前こそただのガキではないな。今の攻防で分かった。例え子供であろうと、お前は紛れもなく強者だ」


 リッドは武器を構えたまま深呼吸をし、再び口を開く。


「改めて名乗ろう。元Sランク冒険者で、今は永夜の黒蛇の専用護衛をしているリッドだ」


「アステリア。見ての通り五歳の子供よ。」


 お互いの自己紹介が終わり、再び場に緊張が走る。


 数秒のにらみ合いの末、先に動き出したのはリッドだった。


 二本の槍を巧みに扱い、連撃を繰り出が、アステリアは剣で攻撃をすべて防いでいく。


 だが、一撃一撃が重いリッドの連撃で、アステリアの持っている剣は遂に限界を迎え、折れてしまった。


 その隙を見逃さなかったリッドは、渾身の突きをアステリアに叩き込む。


 そのままアステリアの体は後方に大きく吹っ飛び、壁に激突する。


「ねえ、下っ端にもいい武器を使わせた方がいいんじゃないかしら?折れちゃったわ」


 何事もなかったかのように、瓦礫の中から現れるアステリア。


「それはお前の技量の問題だ。クソガキ」


 リッドの後方で戦いを眺めているエイザックは、アステリアの不満に反論する。


「でもあの剣で元Sランク冒険者の攻撃をこれだけ受け止められたのは、褒めてくれてもいいのではなくて?」


「確かにそれもそうだな。で、武器なしでここからどうするつもりだ?」


 武器を失い、丸腰となったアステリアを見て、余裕の表情を浮かべるエイザック。


「ここからは私も本気よ」


 アステリアは精霊石の指輪に魔力を通し、武器を精霊界から呼び寄せる。呼び寄せた武器はトンファーだ。


「何もない所から武器が現れた。なるほど、どうやら特殊な魔道具を持ってるみたいだな。」


 ここまで戦っていて、リッドは油断したら負ける可能性があると考えてしまうほど、アステリアの実力を警戒していた。


 先に動き出したのはアステリアだった。


 トンファーの長い方の先端部分を前に突き出し、リッドの顔面を目掛けて火球を打ち出し、それと同時に一気に距離を詰める。


 死角を作るための火球は、すぐにリッドの槍によって打ち消され、近づくアステリアに魔力を雷に変換し、纏わせた槍で迎え撃つ。


 先ほどの剣と違い、使い慣れているトンファーで、リッドの雷纏いの槍を難なく弾き、腹部にトンファーを叩き込む。


 先ほどのアステリアと同じように、リッドは後方に吹き飛び、壁に激突する。


「結構本気で殴ったのだけれど、あなた今まで戦った中で一番硬いわ」


「……とんでもない力だ。魔力で防御したとはいえ……くっ……殴られた腹が痛い。内臓がやられたかと思うような痛みだ」


 リッドはそれなりにダメージを受けているといった印象で、腹部を押さえながら瓦礫を退かし出てくる。


 そして腰につけているポーチから、薬液が入ってる注射器を取り出し、アステリアに殴られた腹部に薬を注射する。


「自然治癒力を一気に上げる効果と鎮痛効果がある薬ね。高そうな物持っているじゃない」


「戦うことが仕事の人間には必需品だからな。ちなみに一本で十万ルミナする」


 十万ルミナはそこそこ良い部屋の家賃くらいの値段だ。


「もう出し惜しみはしない。次は最初から全力で行く」


「期待しているわ」


 リッドの左手に装備している槍は雷、右手に装備している槍には炎が纏い、さらに自身の体を最大限身体強化する。そのまま目にも止まらぬ速さで、アステリアに向かって突進し槍を突き立てる。


 リッドが踏み込んだ地面は、あまりの勢いで抉れてしまうほどだ。


 かなりの魔力を身体強化に回しているため、先ほどとは比べられないほどに速く、そして力強くなっているため、アステリアは躱すのもギリギリといった様子だ。


「フィレ・ド・ランザ・ジ・フィリング」


 リッドとアステリアの距離が少し空いた瞬間、リッドはすぐに詠唱を行い、炎の槍を空中に複数展開し、アステリアに向かって飛ばしてくる。


 魔法は基本的に無詠唱でも発動可能だが、詠唱を行えば出力を上げることができる。デメリットは発動までの時間が、無詠唱と比べて少し遅くなる点だ。よって時と場合によって使い分ける必要がある。


 飛んでくる複数の炎の槍に対し、アステリアは立ったまま飛んでくる槍を見つめている。


 そして着弾と同時に炎が爆発を起こし、アステリアの体は炎と煙に飲み込まれてしまう。


 魔力を炎に変換しているため、アステリアを飲み込む炎はすぐに魔力の粒子となり霧散する。


「近距離も遠距離もいけるなんてさすがね」


 無傷でその場に立っているアステリア。その体の前には小さい丸の魔力障壁が、複数展開されている。


 飛んでくる炎の槍をピンポイントで魔力障壁を展開し、必要最低限の魔力で防いでいたようだ。


「それはお互い様だ。近接戦闘のセンスだけでなく、その卓越した魔力操作。敵ながらあっぱれだ。」


 そう言ってから、リッドは再び距離を詰める。


 先ほどと同じ炎と雷を纏った槍に加え、蹴りも交えてさらに手数を増やす。


 それでもアステリアのトンファーで、すべて捌かれてしまう。


 ふと頭上に魔力を感じたアステリアは、見上げると複数の炎の槍が展開されている。そして気づいた瞬間に落下してくるが、無詠唱のためそこまで威力はなく、トンファーで弾き防いでしまう。


 リッドはその間に少し距離を離し、左手に持っている雷を纏っている槍を全力で投擲する。


 アステリアの視線が、頭上の炎槍に向いている隙を突いての投擲だったが、これもアステリアのトンファーによって弾かれてしまう。


 防がれることを予想していたリッドは、すでに二本目の炎を纏った槍を投擲するために構えており、雷の槍が弾かれると同時に投擲する。今度は雄叫びを上げて、先ほどより魔力もパワーも込め、大振りで炎を纏った槍を投げつける。


 アステリアはそれもトンファーで弾くが、あまりの威力に体を大きく仰け反らせる。


「俺の勝ちだ」


 リッドが勝利宣言をした瞬間、アステリアは後ろから槍で突き刺さられる。雷はもう纏っていなかったが、それはリッドが最初に投擲していた槍だった。


 アステリアは後ろを振り向くも誰もいない。おそらく槍だけを操作したのだろう。魔力を感じなかったため、リッドの固有能力で間違いない。


「これで終わりだ」


 リッドはもう一本の槍を手元に戻し、そのままアステリアの心臓を突き刺す。


「さすがは元Sランク冒険者だ。素晴らしい働きだ」


 戦いを見ていたエイザックは、リッドの勝利を喜び賞賛する。


「本当にその通りね。私も感動しちゃったわ」


 死んだはずの少女の声が聞こえてくる。


 ありえない。


 そこにいるのは、二本の槍が突き刺さったまま平然としている少女の姿だった。


「リッド!早く止めを刺せ!」


 エイザックの言葉と同時にリッドは槍を引き抜こうとするも、アステリアのトンファーによって切断されてしまい、そのまま蹴られて距離を離されてしまう。


「ここまで手傷を負ったのは、今世では初めてよ。やっぱり強者との戦いは胸が躍るわ」


 アステリアは、のんびりと体に刺さっている槍を抜きながら話している。


「心臓を刺されて、なぜ平気なんだ?」


「簡単なことよ。私の固有能力のおかげね」


「まさか……再生か?」


「そうよ。おかげでもう傷跡はきれいに塞がったわ」


 元とはいえSランク冒険者だったリッドと渡り合える強さに加え、固有能力の再生というしぶとさまで兼ね備えていることが発覚し、絶望を感じる永夜の黒蛇陣営の面々。


「今回の戦いはいい糧になったわ。ありとう」


 そう言ってアステリアは、リッドとの距離を一気に詰める。


「くそっ!」


 対するリッドは折れた槍一本しか持っておらず、それで向かってくるアステリアを迎え撃つ。


 ほぼやけくそ状態のリッドの連撃をトンファーで軽くいなす。


 懐に入ったアステリアは、トンファーを構える。


 トンファーの長い方、肘側の方からロケットエンジンのように炎魔法を噴射し、その勢いで体を一回転させ、そのままの推進力でトンファーの短い方、拳側の方をリッドの腹部に叩き込む。


「破拳!」


 圧縮した魔力がリッドの腹部で炸裂し、轟音と共に建物は大きく揺れ、リッドの体は大きく吹き飛ばされる。


「ちょっとやりすぎてしまったわ」


 前方には瓦礫と共にリッドだった千切れた手足だけが残っていた。

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