第16話 拠点潜入
街から少しだけ離れた場所にある大きな一軒家。高台にあるためか、振り向いて見下ろせばマイヤーの街並みが見える絶景の立地だ。
おそらく元々は、裕福な人物の物件だったのだろう。
「ここが永夜の黒蛇の拠点ね。さてどうしようかしら。隠れながら一人ずつ始末していく隠密スタイルも良いけど、正々堂々正面から突撃するもの捨て難いわね」
そしてアステリアが出した結論は……。
「んー迷ったならどっちもやりましょう。前半に隠密スタイルでいって、後半に正々堂々スタイルでいきましょうか」
アステリアはうきうきしながら、魔力探知を行い敵の位置や数を確認し始める。
「この地下にまとまっているのは、おそらく捕らえられた奴隷たちね。それ以外だと五十人くらいかしら。その中に強そうな魔力をした個体が一人。魔力の感じからして、相当戦い慣れてそうね。楽しみだわ」
今回は自前の武器を使わず、現地調達で戦うことにした。
敷地の前には、門番役の手下が二人。
アステリアは、近くにある街灯を親指で弾いた石ころで割り、暗くなった瞬間に一人の首を背後から締め上げ、へし折る。
そして、首をへし折った男の腰にあるナイフを瞬時に抜き、流れるようにもう一人の男の喉元に突き刺す。
死んだ二人の男の荷物を漁るアステリア。
「あら、投げナイフいいわね」
目ぼしい武器を漁ったアステリアは、闇に紛れて拠点の二階の窓に向かう。
魔力探知では、この部屋に一人いることが分かっているため、石を窓に当て中の人物を誘き出す。
そして窓を開けた瞬間、中に侵入と同時にナイフを脳天に突き立て、言葉を発させる前に息の根を止める。
「扉の向こうに一人、少し先にもう一人ね」
扉の向こうには廊下がある。
アステリアは扉を開け、目の前にいる男の背後から首をへし折り、投げナイフを前方を歩く男の後頭部目掛けて投擲する。そして、始末した二人の死体を速やかに部屋の中に引きずり込み、魔力探知で次のターゲットを選定する。
その後も魔力探知で常に敵の位置を確認しながら、誰にも気づかれることなく一人ずつ確実に始末していく。
気づけば、敵は残り半数に減っていた。
いくら気づかれないように殺し、死体を隠しているとは言え、これだけ仲間の数が急に減ってしまえば、違和感に気づきだす者が多くなる。
「暗殺者ごっこもここまでのようね」
急に人が居なくなったことに、異常事態を感じた永夜の黒蛇のメンバーたち。慌ただしくなる永夜の黒蛇の拠点内で、アステリアは隠れることを止め、堂々と敵の前に姿を現す。
「おい、なんで子供がこんなところに!まさか地下から逃げ出したのか?急にみんないなくなるし、地下の商品も逃げ出すし、明らかに誰か侵入してるな」
「安心しておじさん。私、地下から来てないよ。普通にお外から入ってきたの」
アステリアは無垢な子供のフリをしながら、無邪気な笑顔を見せた瞬間におじさんの腰に帯刀している剣を素早く抜き取り、そのまま首を切断する。
剣から滴り落ちる血。冷たくなる男を見下ろす少女。
「ガキが仲間を殺しやがった!全員で殺せ!」
アステリアが殺した瞬間を目撃していた仲間は大声で叫び、人手を集める。
あっという間に、アステリアは包囲されてしまう。ざっと二十人ほどだ。
取り囲む男たちを確認するも、強そうな人物は見当たらない。侵入前に魔力探知で確認した強そうな敵は、まだこの場には来ていないようだ。
「少しは楽しませてね。おじさまたち」
それからは、アステリアの独壇場だった。
手に持っていた剣で、近くにいる敵を一人一振りで斬り殺し、離れた敵には投擲して突き刺し、そして手元の武器が無くなれば、すぐに別の武器を敵から奪い、また近くの敵を流れるように切り殺す。これを繰り返し次々と敵を仕留めていく。
「おいおいおいおい。これはどういうことだ?全員やられちまっているじゃねえか」
アステリアが周りの敵をすべて倒した直後に、いかにもリーダーっぽい風格の男が姿を現した。後ろには、武器を携えたやや大柄で筋肉質の男が控えている。おそらく護衛だろう。それと周囲に散らばって、こちらを警戒している下っ端たちが数名。それらを始末すれば、この拠点にいる敵はすべて排除したことになる。
リーダーっぽい男の強さは下っ端よりは強そうだが、護衛の方はそれよりもさらに強い。侵入前に感じた強そうな魔力の持ち主は、この護衛で間違いない。
「あなたが永夜の黒蛇の幹部の人かしら?」
「誰に聞いたかは知らねえが、俺が永夜の黒蛇の十三人の幹部の一人エイザックだ」
目の前の惨状を目にしても特に動揺することなく、淡々と自己紹介するエイザック。それほど護衛の男で、この状況をうまく収めることができると信じているのだろう。
「ちなみにだけど、ここのことはカイゼルから聞いたわ」
「は?あいつが口を割ったのか?あいつはそんなにバカじゃないはずだ。……いや、だが現にここにこいつが来ているし、カイゼルの名前も知っている。……ということは、本当にカイゼルが喋ったと考えるのが妥当だな。だとしたら相応の責任を取ってもらう必要があるな」
永夜の黒蛇の幹部の連中には、基本的にバカはいない。特に守秘義務にうるさいカイゼルが、そんなヘマをするとは考えられない。状況から考えるにこの少女がカイゼルを拷問で精神的に追いやり、吐かせたと考えるのが自然だろう。
無数の死体が転がる血だまりの中に佇む少女を眺めながら、エイザックはそう思考する。
「ごめんね。私がしつこく聞いたから喋っちゃったみたい。でも安心して。ちゃんと始末しておいたから、あなたがわざわざ殺しに行く必要はないわ」
「ああそうかい。なら殺すのは、お前一人で良いってわけか。手間が省けるよ。ありがとよ」
「どういたしまして」
裏社会の人間に殺気を向けられているのに、ニコニコと言葉を返す五歳の少女アステリア。
「見た目に反して結構やるみたいだが、こっちには護衛で雇った元Sランク冒険者のリッドがいる。カイゼルもそこそこ強いが、うちの護衛のリッドと比べると天と地の差がある。お前がこの状況をどうにかできるとは思えんがな」
元Sランク冒険者のリッドが、前に出て武器を構える。構えている武器は二本の槍だ。魔力の感じから魔法も交えた槍での接近戦を得意としているのだろう。
後は、固有能力の有無も警戒しないといけない。
今まで戦ってきた魔物や人間たちと比べると、一番の強敵だろう。
この世界に転生して初めて骨のありそうな敵にアステリアは心を躍らせ、笑みがこぼれる。




