第15話 情報収集②
アステリアは、のびているカイゼルの首根っこを掴み、引きずりながら店の外に連れ出す。
そしてそのまま放り投げると、精霊界から取り出した糸を使い、左右の建物を利用し、仰向けの状態で縛り上げる。まるで蜘蛛の巣にかかった獲物の様だ。
「そろそろ起きなさい」
カイゼルの額に手を当て魔力を流し込む。アステリアの魔力はカイゼルの脳を刺激し、無理矢理覚醒させる。
気つけの魔法だ。
覚醒したカイゼルは、何が起こったのはさっぱりわからず、辺りを見回している。
「おい!これは何だ!?」
大の字で縛られているため、手足や頭を全く動かせず、動かせるのは眼球と口だけの状態だ。
「魔力伝導率が高くて、丈夫な糸を特別に作ってもらったの。このように魔力を通せば、自分の手足の様に動かせるのよ」
アステリアは手のひらで、うにょうにょと糸を動かして見せる。
「そういうことじゃねえ!この状況を説明しろって言ってんだ!」
「ほら見て、今日は星空が奇麗よ」
「このクソガキ!おいお前ら、こいつを殺せ!」
カイゼルの言葉を無視するアステリアに対し、憤りを見せ声を荒らげて、仲間を呼び寄せようとするも、当然誰も来ることはない。
「あなたには、質問する権利はないわ。あなたが発していい言葉は、私の質問に対しての答えだけよ。永夜の黒蛇の拠点はどこにあるの?」
アステリアは左右に張った糸を椅子代わりにして座り、カイゼルを見下ろす。
「なぜ誰も来ない……。このクソガキ!殺してや――うわあああ!」
アステリアは、カイゼルの右手の人差し指の先に巻き付いている糸を一気に締め上げ、容赦なく切断する。
そして、すぐに切断面近くの糸をきゅっと締め上げ、止血させる。
カイゼルは突然の自身の指の切断に思わず声を上げ、そしてだんだんと理解する。
全身に巻き付く糸は、目の前の少女の機嫌一つでゆるくすることもできれば、逆に締め上げて切断することもできる。つまり全身に刃物を当てられている状況と変わらないのだ。
「次は左手の中指にするわ。ねえ拠点の場所はどこにあるの?」
「……」
俺は永夜の黒蛇を結成した十三人の幹部の内の一人。それでも、情報を漏らそうものなら確実に粛清される。そして口を割らなくても、この頭のおかしいクソガキに嬲り殺される。
カイゼルはこのどうしようもない状況に、答えが出せないまま時間だけが過ぎで行く。
「うぐっ!」
突如、左手の中指が糸で切断される。
「拠点の場所はどこ?五秒だけ待つわ。五……四……三……二……」
顔色は真っ青になり、痛みに悶える間もなく次の切断までのカウントが始まる。
「一……」
「ううううう!」
次は左足の先が切断される。足の指の根元付近を一直線に切断されており、左足の指すべてが無くなった状態だ。
そして、すぐに切断面近くの糸を少しきつく締め、止血を行う。
「薄々気づいているとは思うけど、あなたが気を失っている間に、お仲間は全員殺してあるわ。だから誰も邪魔する人はいないの。それにちゃんと止血もしているから、失血死で死ぬ心配もないわ。だから安心して頂戴。今日はゆっくりあなたに付き合えるわ」
そこからは、カイゼルにとって更なる地獄の時間だった。五秒間隔で、淡々と手足の指の方から徐々に切断されていく。何度叫ぼうとも誰も助けには来ない。気づけば両腕の前腕の真ん中まで切断が進んでおり、下半身は足首より先が無くなっている。
恐怖と痛みで、頭がおかしくなりそうだ。
「お、俺の鞄に永夜の黒蛇で行う事業の資料がある。そこに奴隷の保管場所の地図があるはずだ。そこがマイヤーでの拠点となっている」
恐怖と痛みで、正常な判断ができなくなったカイゼルは、先のことよりも今の苦痛から逃れるため、遂に口を割った。
「その鞄は、どこにあるのかしら?」
「店の奥に俺の部屋がある。そこに置いてある。なあ答えたから降ろしてくれ」
「ダメよ。あたなの言っていることが、合っているか分からないでしょ。確認してくるから、おとなしく待ってなさい」
今にも泣きだしそうな顔になっているカイゼルを気に掛けることもなく、アステリアは再び店内に戻っていく。
店内にはまだ女性のスタッフたちが隅で固まっており、アステリアが入ってきた瞬間、ビクッと体を震わせ息を殺し始めた。
アステリアが外でカイゼルを拷問している音が聞こえていたのか、最初の時よりも恐怖を感じているのが伝わってくる。
「大丈夫よ。私はあなたたちは殺さないわ」
アステリアは女性たちに話しかける。
その言葉に一瞬ビクッとしながらも、恐る恐る視線を合わせてくる。
「カイゼルの部屋は分かる?案内してほしいの」
「……わ、わかります」
一番前にいた黒髪長髪の女性が、恐る恐る手を上げながら案内を買って出る。
「じゃあお願いするわ。それと喉が渇いちゃったから、オレンジジュース準備しておいてくれるかしら」
カイゼルが結構しぶとかったので、すっかり喉がカラカラになっていた。
本当はお酒を飲みたいけど、子供の体だから我慢ね。
アステリアはそう言い残し、案内役の女性と共に店の奥に消えていく。
「ここがカイゼルの部屋ね。彼の鞄はわかるかしら?」
「は、はい。こちらに立てかけてあるのが、カイゼル様の鞄です」
アステリアは鞄を拾い上げ、中を開ける。中にはいくつもの資料が入っており、一枚一枚確認を行う。
店の経営の書類。奴隷をいつどこでどれだけ攫ってきたのか詳しく書いた書類。奴隷売買の顧客リスト。奴隷の在庫リストなどといった書類が出てくる。
そして…。
「これは……奴隷保管場所関係の書類ね。なるほど、本当にマイヤーの拠点の場所は、奴隷保管所と一緒の場所にあるのね。で、これがその拠点の地図ね」
部屋を後にし、用意されていたオレンジジュースを飲みながら怯える女性たちに目を向け、声をかける。
「あなたたちの仕事って、このお店だけ?」
「は、はい。基本的にはそうです」
「ふーん。じゃあここの奴隷売買のお手伝いは、していないのかしら?」
「はい、してません。私たちは各地にあるこういったお店で、接待するのが仕事ですので」
奴隷売買に思いっきり関わっていれば、殺そうかと思ったが、お店のことしか任されてなさそうなので止めることにした。
まあ嘘をついている可能性もあるが。
「わかったわ。なら逃げるなりなんなり好きにしなさい。私はカイゼルを始末したらもう行くわ」
そう言ってアステリアは店を出る。
外には大の字仰向けで縛られたカイゼルが、おとなしく待っていた。
「拠点は奴隷を監禁している場所と同じ場所にあるのね」
「ああ、そうだ。だからもういいだろう。許してくれ」
「でも、その残念な手足で、どうやって生きていくの?」
その問いにカイゼルは、答えることができない。
カイゼルの両足は、足首より先がないため、そもそも立つことができない。離したところで這いずりながら逃げる様を眺めるのも悪くはないが、わざわざ生かす必要もないだろう。
「安心して、約束通り解放してあげるわ。あなたがこれから送るであろう惨めな人生からね」
そう言い終えた瞬間、カイゼルの全身に巻き付く糸が一斉にきつく締め上げられ、一瞬で細かくバラバラに切断される。辺りには、カイゼルだった血肉だけが残る。
アステリアは、何事もなかったかのように手に入れた地図を眺め、永夜の黒蛇の拠点に向かって足を進める。




