第14話 情報収集①
ガルドリザードを討伐し、冒険者ギルドでの報告を済ませた後、アステリアは今日も夜の街を歩ている。
あれからほぼ毎日、夜のマイヤーの街を練り歩き、悪い大人を狩っているおかげか、ここ最近の治安は良くなってきているとギルドマスターから聞いた。
そして悪い大人たちも、ここ最近の異変を感じているらしく、夜に外を出歩く人が明らかに少なくなっていた。
そこでアステリアは、新たな行動に移ろうとしていた。
「少々狩りすぎてしまったから、用心して外を出歩かなくなってしまったみたいね。それならそろそろ拠点を襲撃するのも良さそうね」
ファルスティア王国。比較的治安の良い国ではあるが、それでも犯罪者組織は存在する。その中でも巨大な犯罪者組織の一つである永夜の黒蛇。主に暗殺や奴隷売買を行っており、マイヤーで狩っていた悪い大人たちのほとんどが、この永夜の黒蛇という組織の構成員だ。
ちなみにファルスティア王国では奴隷売買は禁止で、奴隷を持つことも良しとはされていない。
それでも奴隷を持ちたいと思う者が一定数いるらしく、他の国と比べて高値で取引されているらしい。
「まずは情報収集からね」
永夜の黒蛇は各地に拠点を構えているらしく、マイヤーの拠点はその一つとのことだ。
だが、肝心の拠点の場所がどこにあるのかわからない。
そのための情報収集をとある場所で行おうとしていた。
その場所は、永夜の黒蛇が経営しているバーだ。そこの支配人が永夜の黒蛇の幹部の一人らしい。この情報は今日までに殺してきた構成員から聞き出したものだ。
犯罪者組織の店だけあって、人通りが圧倒的に少ない。出入りしているのは明らかに強面な男性と、やや露出の多い服を着た妖艶な女性が複数確認できる。
アステリアは何の躊躇いもなく、店の中に入っていく。
店内は割と広く、いくつかの席に男性が座っており、それを女性が接待していた。バーというよりも完全にキャバクラである。
「いらっしゃいませ……って子供じゃない。誰かの子供かしら」
出迎えてくれたのは、女性のスタッフだった。都合のいいことに、ここに来ている誰かの子供だと思っているらしい。
それならこの状況を利用しよう。
「えっと……カイゼルおじちゃんいる?」
アステリアは、実年齢と同じ五歳の子供を素振りを再現しながら、女性スタッフに尋ねる。
「カイゼルさんね。ちょっと待ってて」
そう言って、女性スタッフは裏に消えていく。
「カイゼルさん。今よろしいでしょうか?」
「ああ、どうした?」
店の奥の個室で、椅子にゆったりと座りながら葉巻を吸う男。この男がこの店の支配人で、永夜の黒蛇の幹部のカイゼルである。
「今、五歳くらいの女の子がカイゼルさんを訪ねてきているのですが、どうしますか?」
「五歳の女の子だと……。ガキが何の用だ?」
「それはわかりません。ただカイゼルおじちゃんいる?と聞かれました。てっきりお知り合いだと思っていたのですが」
「わかった。会ってみる。俺が忘れてるって可能性もあるからな」
ずっと一人で生きて来た俺には、当然親兄弟はいねえ。だから親族にガキがいることはまずありえねえ。それに今まで関わってきた奴らのガキの可能性もあるが、年齢と性別が合わない。まあいい。知らないガキならこのまま奴隷の商品にしちまえばいい。
いくら頭の中で探しても、五歳の女の子の知り合いは出てこない。
カイゼルは不気味な笑みを浮かべながら、その女の子に会うため部屋を出ていく。
店内にはタバコの匂いが漂っている。
周りは裏社会の男性と、それを接待するキャバ嬢みたいな女性だらけの中に、子供が一人ポツンといる不自然な状況だ。
アステリアは、そんな状況の中でも特に顔色を変えることなく、永夜の黒蛇の幹部カイゼルが来るのをおとなしく待っている。
そうしていると、奥の方から高級そうな服に身を包み、明らかにボスの様な風格の男性が真っすぐこちらにやって来る。
永夜の黒蛇の幹部、カイゼルで間違いない。
「お前か、俺に用があるガキってのは。んーやっぱり知らねえガキだわ。おい、お前なんで俺のことを知っている?」
子供に対しても、高圧的な態度で接してくる。
「永夜の黒蛇のカイゼルね。このマイヤーにある拠点の場所を教えてほしいのだけれど」
店に入った時は猫を被って年相応ぽくしていたが、今は目的の人物が目の前にいるためその必要はない。
「あ?なんでガキがそういうことを聞きたがる?そもそもなんでそのことを知っている?」
アステリアの質問に不信感を覚え、子供相手とはいえ、不機嫌さを前面に出していくカイゼル。
それでもアステリアは態度を変えることなく、カイゼルを真っすぐ見つめている。
「あなたはただ私の質問に答えればいいの。もう一度言うわ。永夜の黒蛇の拠点はどこにあるの?」
「はあ……。このガキは自分の状況を分かってないみたいだな。おい、お前らこのガキを連れていけ」
カイゼルの言葉で、アステリアを捕まえるために部下がたった二人でやって来る。
アステリアのことをただの胆力のあるガキだとしか思っていないので、大勢で取り囲むような発想はなかった。
「よーし、騒ぐなよ」
一人の男がアステリアを連行するため腕に触れようとした瞬間、ぷつりと電源が切れたかのように意識を失い地面に倒れ込んだ。
「おいおい何やってるんだ?急に体調でも悪くなったのか?」
もう一人の男は、仲間が急に一人で倒れたようにしか見えていなかったため、仲間の心配をして近づいた瞬間、同じように意識を失い地面に倒れ込む。
今、地面にはアステリアを連れていくように指示された二人の男が倒れている。
そんな中、アステリアは何事もなかったかのように歩き、カイゼルに近づく。
「おいおい、お前は何者だ」
部下がなぜ急に倒れたのかは、目の前にいてもわからなかった。だが、何事もないように歩くアステリアの不気味さが、カイゼルの直観を刺激する。
何をどうやったのかは知らねえが、二人をやったのはこのガキだ。認めたくはないが、俺の直観がそう叫んでる。
「もう一度言うわ。拠点の場所を教えてくれる?」
「おい!お前ら!全員でこのガキを捕まえろ!手荒くなっても問題ない。生きていればそれでいい」
カイゼルの指示を聞いた店内にいたすべての部下たちが、五歳の女の子を取り囲む。
今から荒事が起こることを予期したのか、女性の店員たちは店内の隅の方に移動し、今から起こる状況を見守ろうとしている。
男たちに囲まれたアステリアは瞬時に抜け出し、カイゼルの懐に一瞬で潜り込む。そのまま素早い動きでカイゼルの腹に拳をたたき込み、一瞬で意識を刈り取る。
カイゼルの体は酒棚に突っ込み、ガシャンと音を立てて、動く様子はない。
「しばらく寝てなさい。あとでじっくりと、お話相手になってもらわないといけないから」
万が一大事な情報源であるカイゼルが、逃げ出すことがないように先に沈めた。
そしてそれ以外である部下たちは、生かす必要はない。
狩りの時間だ。
アステリアは笑みを浮かべる。
蹂躙が始まる。
魔力の圧縮は使わず、身体強化に使う魔力も制限した状態で店内を縦横無尽に駆け巡り、次々とカイゼルの部下たちを仕留めていく。
「やっぱり言葉を喋らない魔物よりも、同じ人間との殺し合いの方が楽しいわ」
四十人ほどいた男たちは、ものの数分で片付いてしまった。
店内は見事に荒れており、手加減のおかげで原型を保ったままの死体が、あちこちに散らばっている。
「裏社会の人間と言ってもこの程度なのね。もう少し死を感じるような戦いがしたいわ」
悲惨な状況の中、一切服も乱れず、返り血も浴びず、きれいな状態の少女を隅で傍観していた女性たちはその異様さにただ恐怖し、標的にならないように息を殺していた。




