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星崩しのアステリア  作者: 狐坂蒼
第一章 準備と決意

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第12話 新たな出会い

 それから二週間が過ぎた。


 あの日からマイヤーに来た時は必ず、犯罪者狩りを行っている。


 初日こそ殺さずに、四肢を潰すだけに留めていたが、生かして相手に情報が渡り警戒されると困るので、それ以来殺すようにしている。


 ちなみに死体は片づけるのも面倒なので、そのままにしている。


 この街では、喧嘩などで誰かの死体が転がっていることはたまにあるらしく、アステリアが殺した死体も誰が片づけたのか、翌日にはなくなっていた。


 だからといって毎日死体が転がっていたら、違和感に気づく人が出てきてもおかしくはない。


 そんな中、ギルドマスターにあることを言われた。


「ここ最近犯罪者集団の抗争が起きてるみたいだから気を付けろよ」


 アステリアの犯罪者狩りが、犯罪者同士の抗争と思われているらしい。


 それなら好都合だ。このまま犯罪者狩りを続けても大丈夫だろう。


 いや、ここは趣向を変えてそろそろ拠点を狙うのもありなのかもしれない。


 そう思うアステリアだった。




 時間は夜の十一時。この時間になるとマイヤーでは、ほとんど人の通りが無くなる。


 アステリアは、いつもの酒場で食事を済ませた後、静まり返った街道を歩いていた。


「今日の尾行はなしね。それなら悪い大人が溜まってそうな場所を探そうかしら」


 魔力で強化したジャンプ力で、建物の屋上に飛び乗る。それから街の建物の屋上や屋根を飛び移りながら、裏路地や薄暗い場所などいかにも悪い大人が居そうな場所を手当たり次第に見回り始めた。


 そしてある程度見回り終えた頃、突如としてドスのきいた男の声が聞こえて来た。


「おらっ待たんかい」


 追いかける二人の男に対し、逃げる一人の少女。


 少女は角が生えており、魔力の波長からおそらく魔族だと思われる。年齢は見た目的に十五歳だろう。ただ、魔族は長命種なので、実年齢は見た目ではわからない。


 ちなみに昔は魔族に対して、差別的な人が多かったが、現在ではそれはほとんどない。


 昔、差別があった原因は三神がこの世界の成長を願って、人類共通の敵として魔王を生み出したのが原因だ。


 当時魔王は魔族の中から生まれ、そして魔族を引き連れて人類との戦争を繰り返した。


 故に魔王が生まれなくなっても、しばらくは魔族は敵という認識が消えなかったのだろう。


 魔族の少女は息を切らしながら路地裏の細い道を走り、時より置いてある木箱やゴミ箱を倒して追手と距離を離そうとしている。


「もうっ、いつまで追ってくるの」


 ジリジリと距離を詰めてくる追手たち。逃げ続けるのも体力的にもそろそろ限界。戦うにしても戦闘経験もなければ、護身用の魔道具も持っていない。


 状況は絶望的であった。


 そんな中、誰かとすれ違った。


「え?女の子?」


 必死に裏路地を逃げる中、すれ違った相手はなんと幼い女の子だった。


 こんな裏路地を女の子が歩いているなんてありえない。それにこのままでは、追手の男たちと鉢合わせてしまう。


 そう思った魔族の少女は足を止め、振り返ったが、遅かった。


 男たちの道を塞ぐように立っている女の子と、道を塞がれてイライラした様子の男二人が向かい合っている。


「おい、ガキ邪魔だ」


「邪魔なら力づくで退かしてみなさい」


 大人の男相手に一歩も引かず、むしろ挑発するような言葉を発する女の子に、魔族の少女は驚愕する。


「何やってるの!早く逃げて!」


 魔族の少女は、女の子の身を案じ言葉を投げかけるも聞く様子はない。


「このクソガキ!」


「待て、そいつを捕まえて人質にしろ。どうやらそのガキが心配で仕方ないみたいだからな」


「なるほど。そいつはいい考えだ」


 女の子を捕まえようと男の手が伸びた瞬間、血しぶきが上がる。


「え……?」


 小さく細い腕が、男の胸を貫いている。男も何が起こったのか理解ができていないようだ。


 女の子はそのまま腕を胸から引き抜き、手に持った何かをもう一人の男に見せつけるかのように自身の目の前に持ってくる。


 心臓だ。小さな女の子は男から引き抜いた心臓を手に持っていた。


 そしてそのまま容赦なく握り潰す。


 心臓を抜き取られた男は、地面に伏してピクリとも動く気配がない。まあ当然だろう。


「ひいいいい。たすけ――」


 状況をようやく理解できたもう一人の男は逃げようと、背を向ける瞬間に上半身が消し飛んだ。


 夜中の暗さでもわかるほどに真っ赤に染められた裏路地に佇む一人の女の子。男の胸に手を突っ込んだり、心臓を潰したりしていたはずなのに、腕はもちろん髪や服も血で汚れた形跡はなかった。


 魔族の少女は、血だまりの中に佇む穢れ一つない奇麗な女の子に、畏怖と同時にどこか神々しさも感じた。


「ねえ大丈夫?」


 小さい女の子は魔族の少女に話しかけてくる。


 今、目の前で色々なことがありすぎて、すぐには反応ができなかった。


「……大丈夫。あなたは何者なの?」


「私はアステリア。冒険者よ」


 冒険者?冒険者の登録は十歳からだが、目の前の女の子はさすがに十歳には見えない。それに見た目から想像もつかないほどの強さ。冒険者というよりも、女の子の姿をした魔物と言った方がまだ納得できる。


「私はヴェルラ。魔道具技師よ。ところで本当に冒険者?」


「本当よ。もしかして私が登録できるような年齢じゃないから怪しんでいるのかしら。これが証拠よ」


 アステリアは、ヴェルラにギルドカードを手渡す。


「秘匿冒険者なのね」


 一瞬だけ誰かのを拾ったのではという考えが頭を過ったが、ギルドカードは魔力で本人確認ができるため、他人のを持つメリットがあまりない。


「ところでヴェルラはなんで追われていたの?」


「おそらくだけど、私の魔道具技師としての腕が狙いだと思うの。自分で言うのもなんだけど、それなりに有名な魔道具技師だからね」


「捕らえて奴隷のように、魔道具を作らせるつもりだったのね」


「いつもなら護身用の魔道具を持っているんだけど、今日に限って忘れちゃってて……。だからありがとう。助かったよ」


 裏社会の人間に狙われるほどの魔道具技師ということは、相当腕が良いのだろう。


「どういたしまして。ところでヴェルラは武器も作れるのかしら?」


「もちろん作れるよ。というかジャンル問わず物作り全般得意かな」


「それなら作ってほしい物があるの」


「いいよ。命の恩人だもん。何でも作ってあげる」


 二人は語り合いながら裏路地を後にする。


「ヴェルラはマイヤーに住んでいるの?」


「ううん。マイヤーにはオーククイーンの魔石を買取に来たの」


 オーククイーンの魔石。アステリアが倒した個体のだろう。おそらく魔道具の素材にするためだと思われる。


「私、特定の場所には住まないようにしてるの。千年に一人の天才魔道具技師だって言われるようになってから住んでる所にまで押しかけて、これを作れ、あれを作れって毎日のように言われて、それが嫌で飛び出してきたの。それからはどこかに定住することはなくて、いろんな所を転々としながら宿暮らしの生活よ。私は誰かに命令されて作るんじゃなくて、自分が作りたいって思った物だけを作っていたいの」


 少し暗い表情で話すヴェルラ。できることならどこかに定住したいのだろう。仕方なしに転々とした生活を送っているのが、その表情からひしひしと伝わってくる。


「ねえ、絶対に誰にも見つけられない場所があるとしたら、そこに住みたい?」


「そんな場所があるなら今すぐにでも住みたいよ」


 即答である。


「わかったわ。じゃあちょっと待っていて」


 突如現れた謎の空間に、アステリアは消えていく。


 ヴェルラは、いきなりの出来事にそのまま立ち尽くしていた。ただ、アステリアが指輪に魔力を通していたのは確認できた。さっきの謎の空間は、指輪がトリガーとなって出現した物だろうとヴェルラは予想する。



 アステリアが使っていたあの指輪は、何かの魔道具?あんな魔道具今まで見たことない。それにあの変な空間。仕組みが全くわからない……。



 ヴェルラが思考を巡らせている間に再び謎の空間が現れ、アステリアが姿を現す。


「待たせたわね。あたら――。」


「ねえ!どこに行ってたの?今の変な空間ってその指輪で作り出した物でしょ?どういう仕組みなの?こんな魔道具今まで見たことないよ」


 今まで見たことない現象が目の前で起きたことにより、興奮したヴェルラがアステリアの言葉を遮りの質問でまくしたてる。


「落ち着きなさい。とりあえずこれがあなたの分よ」


 アステリアは、ヴェルラに同じ指輪を手渡す。


「未知の魔道具!ありがとう!でも近くで見ても全く仕組みがわからないなぁ。石も見たことない石だし」


 受け取った指輪をいろんな角度から観察しているヴェルラ。どうやら魔道具関連のことになると暴走気味になるらしい。


「指輪をはめて、魔力を流してみなさい」


「わかった」


 ヴェルラが指輪に魔力を流すと、先ほどと同じような謎の空間が出現する。


「中に入ったら説明するわ。入りましょう」


 中に入ると今までと違った景色に、ヴェルラは目を輝かせながら辺りを見回している。


「ここは精霊界よ。ここなら許可された人間しか来られないから、あなたの生活の拠点にしてもいいのではないかしら」


「精霊界……。じゃあ周りに飛んでいるのは精霊なのね。確かにここなら安心して暮らせるかも。本当にいいの?」


「ここの責任者にも許可を取ってあるから大丈夫よ。それと向こうにある家が私の拠点よ。部屋も余っているから好きに使っていいわ」


 アステリアはヴェルラと共に、これから共に住む拠点に向かって歩く。すると玄関付近に人影が見えた。


「あら、わざわざ来ていたのね。オーロリア」


 玄関の前に佇む人影は、精霊神オーロリアだった。


「ヴェルラ・ルナシュラウド。千年に一人の天才魔道具技師と呼ばれ、この世界の文明のレベル一気に進めた人物。君の存在は私たちの希望だ。君がここで暮らしたいと言うのであれば歓迎する」


 この世界の成長を願う三神にとって、稀代の天才魔道技師という存在は、大切にしたいということなのだろう。


「あ、ありがとう」


 ヴェルラは初対面の人物にいきなりそんなことを言われ、戸惑っているといった様子だ。


「ヴェルラ、この人は精霊神オーロリアよ。簡単に言えばここの責任者ね」


「精霊神……?おとぎ話で出てくるような?」


「その精霊神よ。それと、あなたの作業部屋をオーロリアに作ってもらいなさい。必要でしょ?」


「確かに必要だけど、精霊神様に作ってもらうの?」


 自分たちより上位の存在である精霊神に、作業部屋を作らせるなんてさすがに気が引ける思いのヴェルラ。


「私は現実世界にある建造物をこの世界に複製することができる。例えばヴェルラが今まで使ってきた中で、一番良かった作業部屋があれば再現してやろう」


「ヴェルラ、あまり気にしすぎなくていいわ。複製するのにそんなに労力かからないみたいだから安心していいわ」


 それでも少し戸惑った様子が見られるヴェルラは、精霊神に連れられて拠点の右隣の空き地に作業部屋を建てにいく。


 精霊神の複製には、既に建ててある家を改築することはできなく、作業部屋を作るのであればそれ込みの家を新たに複製する必要がある。なのでヴェルラの作業部屋は、既にあるアステリアの拠点を増築せず、隣に一軒家風の作業部屋を建てることになった。



 こうして天才魔道具技師ヴェルラは、誰にも邪魔されない静かな作業部屋を手に入れ、アステリアは魔道具を作ってくれる職人を手に入れた。もちろんこき使う訳ではない。ヴェルラの意思を尊重し、急がないから作れる時に作ってねくらいの軽い感じの契約である。

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